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第1章
揺れる想い(1)
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それからというもの、私と柳澤くんが付き合ってるというウワサが立ってしまった。
うっかり眠り込んでしまった私を保健室まで連れて行く柳澤くんの運び方に問題があったらしい……。
柳澤くんは、私を抱きしめるようにお姫様抱っこをしてたとか、クラスの子に聞かされたっけ……?
っていうか、抱きしめるようにお姫様抱っこって、一体どんな状態だったのだろう……?
考えるだけで、顔中が熱くなる。
柳澤くんは何事もなかったかのようにクラスの中心でヘラヘラ笑ってるけど、ウワサが流れていることとか、どう思っているのだろう?
思わず柳澤くんを見ていると不意に目が合ってしまい、ドキンと胸が飛び跳ねる。
「いいんちょー、今日はちゃんと寝たー?」
柳澤くんは何でもないかのようにこちらに手を振ってくるから、ますます注目を浴びてしまった。
私は小さくうなずくと、再び塾の課題の問題集に視線を落とした。
「ってか、いいんちょー、勉強頑張りすぎでしょ。たまには一息つくのも大切だよ?」
気づいたら、いつの間にか柳澤くんがすぐ傍に立っている。
「いいじゃない。ほっといてよ」
保健室の件があってから、柳澤くんは教室でよく話しかけてくるようになった。
だけどウワサのことが恥ずかしいのと、私自身の気持ちの問題で、つい素っ気ない態度を取ってしまう。
柳澤くんは「最近委員長冷たくね?」って苦笑いしたあと、
「……ねぇ、なんで最近屋上来てくれねぇの? 携帯だって、全然連絡くれないし……」
私の耳に熱が伝わるくらい口を近づけて、そう耳打ちしてくる。
その瞬間、キャッと近くに居た女子から黄色い声が上がった。
パッと柳澤くんから離れると、声色や態度とは裏腹に今にも泣きそうな柳澤くんの表情が見えて、胸が締め付けられた。
柳澤くんの言う通り、私はあの保健室に連れて行かれた日から屋上に行っていない。
変にウワサされてしまって、私が屋上に行くと迷惑になるかなと思うし。それに、勉強だってしないといけないし……。
だけどそれらは全て口実でしかなくて、本当は、やっぱり私の中で膨れ上がる柳澤くんへの気持ちにストップをかけないといけないと思ったから。
やっぱり、こんな私が恋なんて良くない。
「……勉強の邪魔して悪かった」
だけどそんな思いとは裏腹に、寂しげな柳澤くんを見ると、屋上に行かなくなったことを後悔してしまう。
神様がいるのなら、私に一体どうしろというのだろう……?
柳澤くんのことが好き、なんだと思う。
気づいたときには、もう手遅れだった。
だから、本当なら傍にいたい。
そうできないのは、いつまでも脳裏にあの日の事故がちらつくから。
私の代わりに亡くなったお兄さん。
恋人同士だった二人を、私は残酷な形で引き裂いたんだ。
私は、一生をかけてそれを償う生き方をしていかないといけない。
小さくなる柳澤くんの背中。それは明らかにがっかりしたような様子に見えて、酷く胸が痛んだ。
ウジウジした気持ちのままじゃダメだと思って、息を大きく吐き出して気合いを入れ直す。けれど、もちろんこんな心境で勉強なんてはかどるわけもなく、シャーペンを持ったまま銅像のように同じ姿勢を保つのみだった。
*
結局、柳澤くんのことが頭から離れないまま、私はその日の塾の授業を終えていた。
塾は、基本的に月火木金の週四日、通っている。
塾の一通りの講義が終わり、荷物をまとめていると頭上から声をかけられた。
「花梨? なんか最近、らしくないけど大丈夫?」
「え? 大丈夫だけど。っていうか私らしくないって何?」
私が視線を上げて首をかしげると、目の前の彼女、坂原 美波は大きくうなずいた。
「さっき先生に当てられたときだって、普段の花梨なら絶対しないようなポカミスをしてたし。最近の花梨、何か変じゃない?」
美波とは中学まで同じ学校だった。
美波は、私の通う高校の近くにあるお嬢様校に進学したんだけど、こうして塾が同じこともあって、今でも一番何でも話せる相手だ。
胸元まであるウェーブの髪型の似合う、お上品な感じの見た目は、さすがお嬢様校に通うだけある。
「それに最近、なんか心ここにあらずって感じで、ぼんやりしてるでしょ?」
私、周りからそんな風に見えてたんだ……。
確かに最近、自分でも自覚してる部分はあったけど……。
「……もしかして、学校で何かあった? この前のテストの結果を家でクドクド言われたから落ち込んでる、って感じでもなさそうだし……」
美波の言葉に、思わずため息が漏れる。
「ほんと、美波には敵わないなぁ」
美波には、何でもお見通しなんだもん。
「花梨さえよければ、話くらい聞くよ?」
家の方向が同じ美波とは、途中まで一緒に帰っている。
だから私は帰り道、美波の言葉に甘えて最近の柳澤くんとの出来事を打ち明けた。
うっかり眠り込んでしまった私を保健室まで連れて行く柳澤くんの運び方に問題があったらしい……。
柳澤くんは、私を抱きしめるようにお姫様抱っこをしてたとか、クラスの子に聞かされたっけ……?
っていうか、抱きしめるようにお姫様抱っこって、一体どんな状態だったのだろう……?
考えるだけで、顔中が熱くなる。
柳澤くんは何事もなかったかのようにクラスの中心でヘラヘラ笑ってるけど、ウワサが流れていることとか、どう思っているのだろう?
思わず柳澤くんを見ていると不意に目が合ってしまい、ドキンと胸が飛び跳ねる。
「いいんちょー、今日はちゃんと寝たー?」
柳澤くんは何でもないかのようにこちらに手を振ってくるから、ますます注目を浴びてしまった。
私は小さくうなずくと、再び塾の課題の問題集に視線を落とした。
「ってか、いいんちょー、勉強頑張りすぎでしょ。たまには一息つくのも大切だよ?」
気づいたら、いつの間にか柳澤くんがすぐ傍に立っている。
「いいじゃない。ほっといてよ」
保健室の件があってから、柳澤くんは教室でよく話しかけてくるようになった。
だけどウワサのことが恥ずかしいのと、私自身の気持ちの問題で、つい素っ気ない態度を取ってしまう。
柳澤くんは「最近委員長冷たくね?」って苦笑いしたあと、
「……ねぇ、なんで最近屋上来てくれねぇの? 携帯だって、全然連絡くれないし……」
私の耳に熱が伝わるくらい口を近づけて、そう耳打ちしてくる。
その瞬間、キャッと近くに居た女子から黄色い声が上がった。
パッと柳澤くんから離れると、声色や態度とは裏腹に今にも泣きそうな柳澤くんの表情が見えて、胸が締め付けられた。
柳澤くんの言う通り、私はあの保健室に連れて行かれた日から屋上に行っていない。
変にウワサされてしまって、私が屋上に行くと迷惑になるかなと思うし。それに、勉強だってしないといけないし……。
だけどそれらは全て口実でしかなくて、本当は、やっぱり私の中で膨れ上がる柳澤くんへの気持ちにストップをかけないといけないと思ったから。
やっぱり、こんな私が恋なんて良くない。
「……勉強の邪魔して悪かった」
だけどそんな思いとは裏腹に、寂しげな柳澤くんを見ると、屋上に行かなくなったことを後悔してしまう。
神様がいるのなら、私に一体どうしろというのだろう……?
柳澤くんのことが好き、なんだと思う。
気づいたときには、もう手遅れだった。
だから、本当なら傍にいたい。
そうできないのは、いつまでも脳裏にあの日の事故がちらつくから。
私の代わりに亡くなったお兄さん。
恋人同士だった二人を、私は残酷な形で引き裂いたんだ。
私は、一生をかけてそれを償う生き方をしていかないといけない。
小さくなる柳澤くんの背中。それは明らかにがっかりしたような様子に見えて、酷く胸が痛んだ。
ウジウジした気持ちのままじゃダメだと思って、息を大きく吐き出して気合いを入れ直す。けれど、もちろんこんな心境で勉強なんてはかどるわけもなく、シャーペンを持ったまま銅像のように同じ姿勢を保つのみだった。
*
結局、柳澤くんのことが頭から離れないまま、私はその日の塾の授業を終えていた。
塾は、基本的に月火木金の週四日、通っている。
塾の一通りの講義が終わり、荷物をまとめていると頭上から声をかけられた。
「花梨? なんか最近、らしくないけど大丈夫?」
「え? 大丈夫だけど。っていうか私らしくないって何?」
私が視線を上げて首をかしげると、目の前の彼女、坂原 美波は大きくうなずいた。
「さっき先生に当てられたときだって、普段の花梨なら絶対しないようなポカミスをしてたし。最近の花梨、何か変じゃない?」
美波とは中学まで同じ学校だった。
美波は、私の通う高校の近くにあるお嬢様校に進学したんだけど、こうして塾が同じこともあって、今でも一番何でも話せる相手だ。
胸元まであるウェーブの髪型の似合う、お上品な感じの見た目は、さすがお嬢様校に通うだけある。
「それに最近、なんか心ここにあらずって感じで、ぼんやりしてるでしょ?」
私、周りからそんな風に見えてたんだ……。
確かに最近、自分でも自覚してる部分はあったけど……。
「……もしかして、学校で何かあった? この前のテストの結果を家でクドクド言われたから落ち込んでる、って感じでもなさそうだし……」
美波の言葉に、思わずため息が漏れる。
「ほんと、美波には敵わないなぁ」
美波には、何でもお見通しなんだもん。
「花梨さえよければ、話くらい聞くよ?」
家の方向が同じ美波とは、途中まで一緒に帰っている。
だから私は帰り道、美波の言葉に甘えて最近の柳澤くんとの出来事を打ち明けた。
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