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第1章
急接近(2)
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「よろしく……」
柳澤くんはそのまま黒板の前まで歩いて行き、
『修学旅行実行委員
・岸本花梨
・柳澤奏真』
と大きく書いた。
決して綺麗とは言い難い、ゴツゴツとした力強い文字。
そして柳澤くんは、私が教卓の上に置いてあったこれからの進行の書かれたプリントを見て、クラスのみんなに声をかける。
「今日は、修学旅行のしおりの中身をどんなものにしたいかクラスで話し合わねーといけないらしい。何か意見求む! じゃあ、今、数学の宿題まる写ししてる相田!」
「お前、それ言うなよ!」
「悪い悪い。ワザと言った」
ギャハハと笑いの渦に巻き込まれる教室内。
「で、本題の意見の方は?」
柳澤くんの進行によって、普段は私の話に耳も傾けない人たちがこちらの話に注目する。
これって、柳澤くんパワー?
私がジッと柳澤くんを見ていると、
「委員長は書記よろしく」
と柳澤くんに小声で言われた。
*
修学旅行のしおりに関する意見は、柳澤くんのおかげでたくさん挙がった。
放課後には、二年生の各クラスの実行委員が顔を合わせて、学年全体で修学旅行のしおりについて意見をまとめた。
今はちょうどその資料を私たちの教室に持ち帰るために、柳澤くんと廊下を歩いている。
「今日はありがとう」
私の少し前を歩く柳澤くんの背中に思いきって声をかける。
すると、柳澤くんはやっぱりいつもと同じ笑みを浮かべてこちらを振り返った。
「修学旅行実行委員のこと? 気にしなくていいよ」
「でも、柳澤くんの放課後の時間取っちゃうし、下手したら昼休みだって……」
「その分委員長といられたら、俺はそれでいい」
「何それ。そんな冗談やめてよ……」
毎日、昼休みと放課後、屋上で歌ってるのを知っているからこそ、悪いことしたなと思って言った言葉だったのに。
私の気持ちも知らずに、そんなこと言わないでよ。
だけど、その場で足を止めて柳澤くんは身体ごとくるりとこちらを振り返る。
「冗談じゃねぇって言ったら、委員長困る?」
「え……?」
思わず、それにつられて私も足を止めて柳澤くんを見つめる。
すると、怖いくらいに真剣な柳澤くんの瞳と目が合って、胸がざわつくのがわかった。
「委員長が屋上に来てくれなくなって、俺、委員長に嫌われたのかなって、すげぇ不安だったんだ。委員長、理由とか聞いても全然教えてくれねーし」
「ごめん……」
そのとき、キャッキャッと向こうから歩いて来る女子の集団が見えて、私は柳澤くんに腕を引かれて、すぐ傍にあった教室の中へと連れ込まれた。
「……きゃっ」
パタンと引き戸を閉められて、その戸に背を押さえ付けられる。
薄暗いその部屋は、誰も居ない特別教室のようだった。
「余計なこと考えずに、ちゃんと俺のこと見てよ」
いつになく真剣な瞳で私を見る、柳澤くん。
「……悪い。ってか何やってんだ、俺。余裕なさすぎだよな」
柳澤くんは、そう言ってハハッと渇いた声で笑う。
「でも、もう限界……。委員長だって、本当は気づいてて俺のこと避けてたんだろ?」
「え……、な」
何のこと? って聞く前に、私は固まった。
一瞬にして、私は柳澤くんの腕の中に包まれていたから……。
手に持っていたプリント類が、バサバサと音を立てて足元に落ちる。
バクバクとすごい勢いで心拍数が上がって何も言えずにいる中、柳澤くんの苦しそうな声が聞こえた。
「……俺、委員長が好きだ」
柳澤くんが、私を……?
うそ、そんなことって……。
私は、一体どうしたら……。
心の中の葛藤が、再びわき上がる。
そうしていると、柳澤くんが少しだけ身を離して私を見た。
柳澤くんはそのまま黒板の前まで歩いて行き、
『修学旅行実行委員
・岸本花梨
・柳澤奏真』
と大きく書いた。
決して綺麗とは言い難い、ゴツゴツとした力強い文字。
そして柳澤くんは、私が教卓の上に置いてあったこれからの進行の書かれたプリントを見て、クラスのみんなに声をかける。
「今日は、修学旅行のしおりの中身をどんなものにしたいかクラスで話し合わねーといけないらしい。何か意見求む! じゃあ、今、数学の宿題まる写ししてる相田!」
「お前、それ言うなよ!」
「悪い悪い。ワザと言った」
ギャハハと笑いの渦に巻き込まれる教室内。
「で、本題の意見の方は?」
柳澤くんの進行によって、普段は私の話に耳も傾けない人たちがこちらの話に注目する。
これって、柳澤くんパワー?
私がジッと柳澤くんを見ていると、
「委員長は書記よろしく」
と柳澤くんに小声で言われた。
*
修学旅行のしおりに関する意見は、柳澤くんのおかげでたくさん挙がった。
放課後には、二年生の各クラスの実行委員が顔を合わせて、学年全体で修学旅行のしおりについて意見をまとめた。
今はちょうどその資料を私たちの教室に持ち帰るために、柳澤くんと廊下を歩いている。
「今日はありがとう」
私の少し前を歩く柳澤くんの背中に思いきって声をかける。
すると、柳澤くんはやっぱりいつもと同じ笑みを浮かべてこちらを振り返った。
「修学旅行実行委員のこと? 気にしなくていいよ」
「でも、柳澤くんの放課後の時間取っちゃうし、下手したら昼休みだって……」
「その分委員長といられたら、俺はそれでいい」
「何それ。そんな冗談やめてよ……」
毎日、昼休みと放課後、屋上で歌ってるのを知っているからこそ、悪いことしたなと思って言った言葉だったのに。
私の気持ちも知らずに、そんなこと言わないでよ。
だけど、その場で足を止めて柳澤くんは身体ごとくるりとこちらを振り返る。
「冗談じゃねぇって言ったら、委員長困る?」
「え……?」
思わず、それにつられて私も足を止めて柳澤くんを見つめる。
すると、怖いくらいに真剣な柳澤くんの瞳と目が合って、胸がざわつくのがわかった。
「委員長が屋上に来てくれなくなって、俺、委員長に嫌われたのかなって、すげぇ不安だったんだ。委員長、理由とか聞いても全然教えてくれねーし」
「ごめん……」
そのとき、キャッキャッと向こうから歩いて来る女子の集団が見えて、私は柳澤くんに腕を引かれて、すぐ傍にあった教室の中へと連れ込まれた。
「……きゃっ」
パタンと引き戸を閉められて、その戸に背を押さえ付けられる。
薄暗いその部屋は、誰も居ない特別教室のようだった。
「余計なこと考えずに、ちゃんと俺のこと見てよ」
いつになく真剣な瞳で私を見る、柳澤くん。
「……悪い。ってか何やってんだ、俺。余裕なさすぎだよな」
柳澤くんは、そう言ってハハッと渇いた声で笑う。
「でも、もう限界……。委員長だって、本当は気づいてて俺のこと避けてたんだろ?」
「え……、な」
何のこと? って聞く前に、私は固まった。
一瞬にして、私は柳澤くんの腕の中に包まれていたから……。
手に持っていたプリント類が、バサバサと音を立てて足元に落ちる。
バクバクとすごい勢いで心拍数が上がって何も言えずにいる中、柳澤くんの苦しそうな声が聞こえた。
「……俺、委員長が好きだ」
柳澤くんが、私を……?
うそ、そんなことって……。
私は、一体どうしたら……。
心の中の葛藤が、再びわき上がる。
そうしていると、柳澤くんが少しだけ身を離して私を見た。
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