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第2章
星空の下で(3)
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だって、この自由時間に旅館の外に出ることは禁止だって、言われているから。
「って、真面目ないいんちょーをこんな悪いコトに誘ったらいけねぇよな」
いつもの私だったら、絶対に“うん”とは言わなかったはず。
でも……。
「……じゃあ、ちょっとだけだよ?」
今日は修学旅行中のこの雰囲気もあってなのか、そうしたいって思ってうなずいていた。
「え、マジで!?」
驚いたように目を見開く柳澤くん。
本当に、私はどこまで厳しい人だと思われてるのか……。
だけど、次の瞬間には私と繋がれた手を引いて、周囲に誰の目もないことを確認した柳澤くんは、正面の入口とは違う“南出口”と書かれた小さな自動ドアをくぐって外へと出た。
「ふぅ~! 風呂上がりなのもあって、夜風が気持ちいいなぁ~!」
正面の出入口はいわゆるロータリーになった駐車場に出るんだけど、今出てきた南出口は裏庭のような場所に繋がっていた。
花壇に植えられた花や小さい木に囲まれた、決して広くない空間。
その先には、きっと正面の出入口のところのロータリーに繋がってると思われる細い道が見えている。
私たちは、旅館の壁に沿うように置かれていた木製のベンチに腰かける。
向かいには、夏らしくミニヒマワリが植わっている花壇が見える。
「いいんちょー、上見てみろよ。すっげぇ綺麗」
柳澤くんに言われて頭上を見上げると、夏の星座が私たちを見下ろしていた。
「本当ね。さそり座のアンタレスもよく見える」
「あんたれす?」
「さそり座の心臓に当たる部分にある、明るい赤色の星だよ」
「あの赤っぽいやつかなぁ? 委員長、詳しいんだな」
眉をしかめるようにして、私の言った星を探す柳澤くん。
「そうでもないよ。小中の理科で習った中にあったから知ってただけ」
「言われてみれば、そんなの覚えた気もするな。高校受験前は必死に勉強した記憶あるけど、もう忘れちまったよ」
柳澤くんは、ハハハと笑って私の顔へと視線を落とす。
「でも、なんか委員長らしいや」
「それ、褒められてる気がしないんだけど」
「褒めてる褒めてる」
そう言って笑う柳澤くんを見ていると、ふと、私の右の小指にツンツンっと何かが触れる。
突然のことにビクッとして視線を落とすと、柳澤くんの左手の小指が触れていて……。だけど柳澤くんは、一瞬にしてそれを引っ込めてしまった。
「わ、悪い……」
「え、ううん」
は、恥ずかしい……。
確かにみんなの輪から抜けてここに来るまでは繋がれていた手と手は、いつの間にか離れてしまっていた。
さっきまで繋がっていたっていうのに、今は触れるだけで恥ずかしいだなんて……。
パッと手を引っ込められてしまった寂しさ以上に、かああっと頬が熱くなるのを感じる。
「?」
だけど、恥ずかしさから膝の上にグーの形で置き直した手に、再び柳澤くんの手が伸びてくる。
「……いい?」
遠慮がちに私を覗き込む柳澤くん。
きっとさっきは私がビクッとしてしまったから、柳澤くんは手を引っ込めちゃったんだよね……?
「……うん。さっきはちょっと驚いただけだから」
「ならよかった」
私が小さくうなずくと、柳澤くんは照れ臭そうに笑って、私の右手の指にそっと指を絡ませてきた。
手のひらから、柳澤くんの温もりが伝わってくる。
ドキドキするけど安心感のある、そんな温もり。
「いいんちょーの手、ちっちゃい」
私と繋いだ手を数回ギュッと握ったり緩めたりを繰り返したあと。
柳澤くんはそう言って、可笑しそうに笑った。
「いっつもこんなちっちゃな手で勉強してたら、そりゃ疲れるよなー」
「そ、そうかな?」
勉強に手の大きさとか、関係ないと思うけど……。
「って、真面目ないいんちょーをこんな悪いコトに誘ったらいけねぇよな」
いつもの私だったら、絶対に“うん”とは言わなかったはず。
でも……。
「……じゃあ、ちょっとだけだよ?」
今日は修学旅行中のこの雰囲気もあってなのか、そうしたいって思ってうなずいていた。
「え、マジで!?」
驚いたように目を見開く柳澤くん。
本当に、私はどこまで厳しい人だと思われてるのか……。
だけど、次の瞬間には私と繋がれた手を引いて、周囲に誰の目もないことを確認した柳澤くんは、正面の入口とは違う“南出口”と書かれた小さな自動ドアをくぐって外へと出た。
「ふぅ~! 風呂上がりなのもあって、夜風が気持ちいいなぁ~!」
正面の出入口はいわゆるロータリーになった駐車場に出るんだけど、今出てきた南出口は裏庭のような場所に繋がっていた。
花壇に植えられた花や小さい木に囲まれた、決して広くない空間。
その先には、きっと正面の出入口のところのロータリーに繋がってると思われる細い道が見えている。
私たちは、旅館の壁に沿うように置かれていた木製のベンチに腰かける。
向かいには、夏らしくミニヒマワリが植わっている花壇が見える。
「いいんちょー、上見てみろよ。すっげぇ綺麗」
柳澤くんに言われて頭上を見上げると、夏の星座が私たちを見下ろしていた。
「本当ね。さそり座のアンタレスもよく見える」
「あんたれす?」
「さそり座の心臓に当たる部分にある、明るい赤色の星だよ」
「あの赤っぽいやつかなぁ? 委員長、詳しいんだな」
眉をしかめるようにして、私の言った星を探す柳澤くん。
「そうでもないよ。小中の理科で習った中にあったから知ってただけ」
「言われてみれば、そんなの覚えた気もするな。高校受験前は必死に勉強した記憶あるけど、もう忘れちまったよ」
柳澤くんは、ハハハと笑って私の顔へと視線を落とす。
「でも、なんか委員長らしいや」
「それ、褒められてる気がしないんだけど」
「褒めてる褒めてる」
そう言って笑う柳澤くんを見ていると、ふと、私の右の小指にツンツンっと何かが触れる。
突然のことにビクッとして視線を落とすと、柳澤くんの左手の小指が触れていて……。だけど柳澤くんは、一瞬にしてそれを引っ込めてしまった。
「わ、悪い……」
「え、ううん」
は、恥ずかしい……。
確かにみんなの輪から抜けてここに来るまでは繋がれていた手と手は、いつの間にか離れてしまっていた。
さっきまで繋がっていたっていうのに、今は触れるだけで恥ずかしいだなんて……。
パッと手を引っ込められてしまった寂しさ以上に、かああっと頬が熱くなるのを感じる。
「?」
だけど、恥ずかしさから膝の上にグーの形で置き直した手に、再び柳澤くんの手が伸びてくる。
「……いい?」
遠慮がちに私を覗き込む柳澤くん。
きっとさっきは私がビクッとしてしまったから、柳澤くんは手を引っ込めちゃったんだよね……?
「……うん。さっきはちょっと驚いただけだから」
「ならよかった」
私が小さくうなずくと、柳澤くんは照れ臭そうに笑って、私の右手の指にそっと指を絡ませてきた。
手のひらから、柳澤くんの温もりが伝わってくる。
ドキドキするけど安心感のある、そんな温もり。
「いいんちょーの手、ちっちゃい」
私と繋いだ手を数回ギュッと握ったり緩めたりを繰り返したあと。
柳澤くんはそう言って、可笑しそうに笑った。
「いっつもこんなちっちゃな手で勉強してたら、そりゃ疲れるよなー」
「そ、そうかな?」
勉強に手の大きさとか、関係ないと思うけど……。
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