空に想いを乗せて

美和優希

文字の大きさ
23 / 85
第2章

星空の下で(4)

しおりを挟む
「これ、ペンダコ?」

 私の手の中指に、柳澤くんがツンツンと指で触れる。


「ごめんね、あんまり手触りよくないでしょ?」

「ううん。そんだけ頑張る委員長に尊敬。委員長ってさ、何か夢とかあるの?」

「夢……、か」

「夢とかないと、そんなに勉強って頑張れるものじゃねーと思うし、聞いてみた!」

「……うーん。特にないかな」

「え? そうなの?」


 意外と言わんばかりに目を見開く柳澤くん。


「うん。勉強は、お父さんが厳しいのと、やらないといけないからやってるだけ。だから、本当はなりたいものがあるわけじゃないんだ」

「マジで!? じゃあ、この前チラッと見えた委員長の志望大学調査に書いてた学校って……」

「全部お父さんが薦めてくるところ」


 実はこの修学旅行前のホームルームの時間に、志望大学調査の紙を書かされた。

 確かに柳澤くんにその紙を見られて慌てて隠した記憶があるけど、覚えてたんだ……。


「委員長はさ、それでいいの?」

「良くないとは思ってるけど、自分でもどうしたいかってまだわからなくて……」

「そっか」

 苦笑する私に、柳澤くんは眉を下げた。


「柳澤くんは、夢とかあるの?」


 私に聞きてきたんだから、私も柳澤くんに聞いてもいいはずだ。

 何となく、夢の話をしていたら、柳澤くんの夢も聞いてみたくなった。
 

「俺? 俺は、委員長と居られるならそれでいい」


 そう言って、柳澤くんは星空を見上げた。


「私、と……?」


 そういえば、今日の奈良散策でも、柳澤くんは大仏にそんなお願いしてたよね?

 一日のうちに二回もストレートに言われて、恥ずかしい……。


「変かな……?」


 まさか柳澤くんの夢を聞いてそう返されると思わなくて、言葉に詰まったからだろう。

 柳澤くんは、少し心配げに口を開いた。


「いや、そういうわけじゃないよ。そう言ってもらえるのは、嬉しいし……」


 ドキドキと鳴る心臓の音に負けないようにそう伝える。


「ありがとう。本当のことを言うとさ、俺も夢とかわかんないんだ。委員長と付き合うようになって、やっと将来も委員長と一緒に居たいって思えるようになったくらいで」

「え、そうなの……?」

「うん。バンドは好きだけど、現実問題プロになれるほど俺らに実力があるわけじゃねぇし……。だからといって、勉強もそれほど身が入らなくて、いつも委員長見てすごいなって思ってたんだ」

「そうだったんだ……」

「うん。それだけが理由なわけじゃないけどな、委員長のことはずっと前から俺が一方的に憧れてて。いつも委員長のこと見てたから、当然のように俺の視界の中心にはいつも委員長がいて、いつの間にか好きになってたんだ」

「う、うん……っ」


 そ、そうだったんだ……っ!

 まさか、この流れでそんなこと言われると思ってなかっただけに、ただでさえドキドキしてたのに、心臓がもたないよ……っ!


「って、委員長。まさか、ドキドキしてくれてる?」

 柳澤くんのそんな言葉に、思わずビクリと肩を震わせてしまった。


「そ、そんなこと、いちいち聞かないでよっ」

「ごめんって。委員長、怒んないでー!」


 そんな可愛く叫ぶ柳澤くんの声とともに、ぎゅうっと抱きしめられる。


「とりあえず、最低でも委員長を養える男になれるようには頑張るからさ、ずっと傍に居てな」

「うん……」


 柳澤くんを見上げると、思ってた以上に顔が近くて……。


「あ……っ」


 思わず漏れた小さな声さえ、閑静なこの空間には響いて聞こえた。


 少しずつ近づく私と柳澤くんの距離。


 そっとまぶたを閉じた瞬間、ふわりと柳澤くんの唇が私の唇に重なった。


 さっきよりぎゅうっと私を抱きしめる、柳澤くんの腕。


 そして、しばらく唇を重ね合わせてから、そっと唇を離した。


 月明かりに照らされた、柳澤くんの顔がほんのり赤い。

 それと同時に、私の頬も熱を持ってるように感じた。


「……しちゃった」

「うん」

「俺の心臓、破裂しそうなくらいバクバク言ってる」

「私も。でも、幸せ……」


 ぎゅうっと抱きしめ合う。

 思いがけないファーストキスの余韻に、頭がフワフワする。


 星空の下。

 柳澤くんの腕の中で、私は幸せを噛み締めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

Blue Moon 〜小さな夜の奇跡〜

葉月 まい
恋愛
ーー私はあの夜、一生分の恋をしたーー あなたとの思い出さえあれば、この先も生きていける。 見ると幸せになれるという 珍しい月 ブルームーン。 月の光に照らされた、たったひと晩の それは奇跡みたいな恋だった。 ‧₊˚✧ 登場人物 ✩˚。⋆ 藤原 小夜(23歳) …楽器店勤務、夜はバーのピアニスト 来栖 想(26歳) …新進気鋭のシンガーソングライター 想のファンにケガをさせられた小夜は、 責任を感じた想にバーでのピアノ演奏の代役を頼む。 それは数年に一度の、ブルームーンの夜だった。 ひと晩だけの思い出のはずだったが……

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

届かぬ温もり

HARUKA
恋愛
夫には忘れられない人がいた。それを知りながら、私は彼のそばにいたかった。愛することで自分を捨て、夫の隣にいることを選んだ私。だけど、その恋に答えはなかった。すべてを失いかけた私が選んだのは、彼から離れ、自分自身の人生を取り戻す道だった····· ◆◇◆◇◆◇◆ 読んでくださり感謝いたします。 すべてフィクションです。不快に思われた方は読むのを止めて下さい。 ゆっくり更新していきます。 誤字脱字も見つけ次第直していきます。 よろしくお願いします。

王妃は涙を流さない〜ただあなたを守りたかっただけでした〜

矢野りと
恋愛
理不尽な理由を掲げて大国に攻め入った母国は、数カ月後には敗戦国となった。 王政を廃するか、それとも王妃を人質として差し出すかと大国は選択を迫ってくる。 『…本当にすまない、ジュンリヤ』 『謝らないで、覚悟はできています』 敗戦後、王位を継いだばかりの夫には私を守るだけの力はなかった。 ――たった三年間の別れ…。 三年後に帰国した私を待っていたのは国王である夫の変わらない眼差し。……とその隣で微笑む側妃だった。 『王妃様、シャンナアンナと申します』 もう私の居場所はなくなっていた…。 ※設定はゆるいです。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

18年愛

俊凛美流人《とし・りびると》
恋愛
声を失った青年と、かつてその声に恋をしたはずなのに、心をなくしてしまった女性。 18年前、東京駅で出会ったふたりは、いつしかすれ違い、それぞれ別の道を選んだ。 そして時を経て再び交わるその瞬間、止まっていた運命が静かに動き出す。 失われた言葉。思い出せない記憶。 それでも、胸の奥ではずっと──あの声を待ち続けていた。 音楽、記憶、そして“声”をめぐる物語が始まる。 ここに、記憶に埋もれた愛が、もう一度“声”としてよみがえる。 54話で完結しました!

処理中です...