空に想いを乗せて

美和優希

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第2章

夏祭りの舞台(3)

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「柳澤くん、花梨のことよろしくね。花梨は私にとっても大切な親友なんだから。花梨のこと泣かせたら許さないからね?」

「え、は、はい。もちろん」


 またもや唐突に美波にそう言われた柳澤くんも、驚いたようにそう返す。


「じゃあ、また話聞かせてよね!」

 美波は最後に私にそう言って、お祭りでにぎわう人混みの中に消えていった。


 美波が消えていった方をぼんやりと眺めていると、隣から申し訳なさそうな声が降ってくる。


「何かごめん。迷惑じゃなかった?」

「う、ううん。柳澤くんこそごめんね。他の人とお祭りまわる予定とかなら、気にせずそっち行ってくれていいからね?」


 美波は、多分私と柳澤くんに気を使ってくれたんだろうけど……。

 柳澤くんと約束していたのは、予選に通ったらWild Wolfのステージを見に行くってことだけだったし……。


「いや、それは別に構わないんだけど……」


「おいおい、奏ちゃん。突然消えたと思ったら、こんなところにいたのか、よ?」


 そのとき、そんな声が聞こえて、柳澤くんとその声の主の方へと顔を向ける。


 すると、さっきまでステージで柳澤くんと演奏をしていたWild Wolfのメンバーたちが、こちらに歩いてきていた。


 柳澤くんにそう言った人と目が合って、とりあえずペコリと頭を下げる。


 同じくペコリと返してくれたその男子は、さっきベースを弾いてた人だ。


「もしかして、その子が前言ってた彼女?」


 肩までの茶髪に、猫目風の目をこちらに向けて首をかしげるのは、さっきキーボードを弾いてた女子。


「うっほ~! マジか。奏ちゃんって、意外と真面目ちゃんが好みだったんだな」


 その女子の肩に手を置いてニコニコ顔でこちらを見てくるのは、ドラムを叩いてた、栗色ヘアーの男子。


「別に俺の好みなんだから、何だっていいだろ? 委員長、ごめんな?」

「え、う、ううん」


 “俺の好み”って……。

 なんだかそんな風に言ってもらえるだけで、きゅんとしてしまう。


「やっぱり、その子が彼女か!」


 私たちのやり取りを見て、さっきの栗色ヘアーの男子は得意気に笑った。




 しばらくは、お祭りの屋台のたこ焼きを買って、柳澤くんたちと一緒にいさせてもらった。

 だけど、さすがにお祭り会場なだけあって、すごい人混み。これだとゆっくりお話できないからと、栗色ヘアーの男子に提案されて、喫茶店に入ることになった。


 運動公園の近くには少し大きな駅があるんだけど、その駅近の小さなお店に入った。

 その入り口には、“バロン”と書かれた木製の札が掛かっている。


 喫茶店にしては薄暗い店内は、洒落た感じにカウンター席まであった。


「おーっ、お帰り。どうだったか? 祭りのステージは」


 すると、店内に入った私たちに気づいたおじさん店員が、親しげに口を開く。


「もう、最高! あんなに盛り上がってもらえると、こっちも出た甲斐があるよな」

「まぁな」


 栗色ヘアーの男子の言葉に、ベースの男子が返す。


「おっ! 今日は見ない顔がいるね~」

 店員のおじさんが、私をまじまじと見る。


「すみません。はじめまして。岸本花梨です」

「この子は奏ちゃんの彼女、な?」


 私がペコリと挨拶すると、栗色ヘアーの男子が説明を付け加えた。


「ほぉ~。奏ちゃんの。瑛司は全然なのにな」

「うるせ、黙れ。ってか、早く席通せよ」


 おじさん店員の言葉に怒ったように返すのは、ベースの男子。


「瑛ちゃんもそう怒るなよ~」


 柳澤くんは笑いながらそう言ったけれど、ベースの男子はフンと鼻を鳴らすだけだった。


 店員のおじさんに通されたのは、カウンター席。

 カウンター席だからといって、目の前に店員のおじさんがいるわけでもなく、厨房はもっと奥まったところにあるみたい。


 カウンター席に座って目の前に見えるのは、コーヒーのカップやコーヒーを飲むクマのぬいぐるみといったインテリアが置かれた棚。


 とりあえず席に着くと、お祭りの会場ではすっかりタイミングを逃していた自己紹介をした。
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