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第3章
初デート(5)
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「ってか、今日はテレビついてんだな。珍しいじゃねぇか」
北原くんの言葉に、私も奏ちゃんもカウンターの奥にある小さいテレビに視線を向ける。
「ああ、まぁな。瑛司も見るか?」
客足の少ない店内。
ほんのわずかながらに音量を上げる、北原くんのお父さん。
辛うじて聞こえる音に耳を傾ける。
どうやらテレビに映るのは、音楽バラエティーのようだった。
「おっちゃん、それヤバイって!」
数秒、耳を傾けたあと、慌てたようにそう言う奏ちゃん。
『NEVERの皆さんといえば、この夏ファーストシングルから大ヒットを飛ばした、今注目のロックバンドですよね』
そんな女性のアナウンサーとともに映るのは、派手な見た目の五人の男性。
このあと、そのヒットした曲を披露してくれるとのことで、メンバーが順にインタビューを受けていた。
「ったく、こんなもん見てんじゃねぇよ」
非難するような声を出しながらも、画面から目を離そうとしない、北原くん。
そして、そうこうしているうちに見知った人がアップで映し出される。
Base SHINJIという字幕とともに映し出されるのは、記憶にある姿よりも派手に着飾ってはいるけれど、ついこの前ここで会った慎司さんだ。
私たちの間に流れる何とも言い難い空気のせいで、慎司さんがどんな質問を受けていたのかまでは、頭に入ってこなかった。
だけどそのNEVERというバンドの演奏が始まったとき、北原くんは勢いよく席を立って、二階へと繋がる扉の中へ消えていってしまった。
食べかけのカツカレーを置いたまま。
「やっぱり、ダメだったか」
残念そうに呟きながら、カウンターに置き去りにされたカツカレーを下げる北原くんのお父さん。
「二人とも巻き込んでしまって、悪いことしたな」
「でもおっちゃん。何で……」
こうなることは分かっていただろうにと言いたげに、奏ちゃんは眉を寄せる。
「荒療治かもしれんが、あいつにも受け入れてもらわなきゃなと思ってな。せっかくあいつには年の近い、たった一人の兄弟がいるんだから」
「確かにそうだけど……」
「人間、いつ何があるかわからないもんだ。手遅れにならないうちに、瑛司と慎司には仲直りしといてもらいたいんだがな……」
「……まぁ、人間なんて、いつ突然手の届かない存在になるかもわからないし、そう思うのはわからなくはないけどさ」
どこか言葉を噛み締めるように話す、北原くんのお父さんと奏ちゃん。
「こんな話して、奏ちゃんの気を悪くさせたなら、ごめんな」
「いいよ。俺からも瑛ちゃんとまた話してみるわ」
「本当にあいつ、いつになったら聞く耳持ってくれるか」
北原くんのお父さんはハァとひとつため息を落として、奥の厨房の方へと再び戻っていった。
「あ、ごめんな。まさか、こんなことになると思ってなくて」
北原くんのお父さんが消えていった方向をぼんやりと眺めていると、奏ちゃんは慌てたように言う。
「ううん。でも、なんだか北原くん見てると、本当はお兄さんのこと、今も好きなんだろうなって思った」
テレビに映るお兄さんを見る北原くんの表情は、確かに強ばってはいたけれど、瞳は優しかったから……。
「やっぱり花梨もそう思う? 瑛ちゃんも誤解してるだけなんだと思うけど、さっきもおっちゃんが言ってたように、マジで聞く耳持ってくんねぇの。慎ちゃんの話題を出したら、余計なお世話と言わんばかりに怒ってどっか行っちゃうから」
困ったように笑う奏ちゃん。
「そっか、難しいね」
そればかりは、北原くん自身の問題だもんね。
でも、話を聞く限り仲の良かった兄弟。
北原くんにとっては、憧れの存在だったお兄さん。
いつか、再び二人の心が通い会う日が来てくれるといいのに……。
「そうだな。って、こんな暗い話はやめやめ! 今日は、記念すべき、俺らの初デートの日なんだから! おっちゃーん、食後にケーキよろしくな~」
奏ちゃんによって、この話はここで打ち切られた。
「お詫びにサービスするよ」
追加注文をした奏ちゃんに、厨房の方から再び姿を見せた北原くんのお父さんが了解と親指を立てた。
北原くんの言葉に、私も奏ちゃんもカウンターの奥にある小さいテレビに視線を向ける。
「ああ、まぁな。瑛司も見るか?」
客足の少ない店内。
ほんのわずかながらに音量を上げる、北原くんのお父さん。
辛うじて聞こえる音に耳を傾ける。
どうやらテレビに映るのは、音楽バラエティーのようだった。
「おっちゃん、それヤバイって!」
数秒、耳を傾けたあと、慌てたようにそう言う奏ちゃん。
『NEVERの皆さんといえば、この夏ファーストシングルから大ヒットを飛ばした、今注目のロックバンドですよね』
そんな女性のアナウンサーとともに映るのは、派手な見た目の五人の男性。
このあと、そのヒットした曲を披露してくれるとのことで、メンバーが順にインタビューを受けていた。
「ったく、こんなもん見てんじゃねぇよ」
非難するような声を出しながらも、画面から目を離そうとしない、北原くん。
そして、そうこうしているうちに見知った人がアップで映し出される。
Base SHINJIという字幕とともに映し出されるのは、記憶にある姿よりも派手に着飾ってはいるけれど、ついこの前ここで会った慎司さんだ。
私たちの間に流れる何とも言い難い空気のせいで、慎司さんがどんな質問を受けていたのかまでは、頭に入ってこなかった。
だけどそのNEVERというバンドの演奏が始まったとき、北原くんは勢いよく席を立って、二階へと繋がる扉の中へ消えていってしまった。
食べかけのカツカレーを置いたまま。
「やっぱり、ダメだったか」
残念そうに呟きながら、カウンターに置き去りにされたカツカレーを下げる北原くんのお父さん。
「二人とも巻き込んでしまって、悪いことしたな」
「でもおっちゃん。何で……」
こうなることは分かっていただろうにと言いたげに、奏ちゃんは眉を寄せる。
「荒療治かもしれんが、あいつにも受け入れてもらわなきゃなと思ってな。せっかくあいつには年の近い、たった一人の兄弟がいるんだから」
「確かにそうだけど……」
「人間、いつ何があるかわからないもんだ。手遅れにならないうちに、瑛司と慎司には仲直りしといてもらいたいんだがな……」
「……まぁ、人間なんて、いつ突然手の届かない存在になるかもわからないし、そう思うのはわからなくはないけどさ」
どこか言葉を噛み締めるように話す、北原くんのお父さんと奏ちゃん。
「こんな話して、奏ちゃんの気を悪くさせたなら、ごめんな」
「いいよ。俺からも瑛ちゃんとまた話してみるわ」
「本当にあいつ、いつになったら聞く耳持ってくれるか」
北原くんのお父さんはハァとひとつため息を落として、奥の厨房の方へと再び戻っていった。
「あ、ごめんな。まさか、こんなことになると思ってなくて」
北原くんのお父さんが消えていった方向をぼんやりと眺めていると、奏ちゃんは慌てたように言う。
「ううん。でも、なんだか北原くん見てると、本当はお兄さんのこと、今も好きなんだろうなって思った」
テレビに映るお兄さんを見る北原くんの表情は、確かに強ばってはいたけれど、瞳は優しかったから……。
「やっぱり花梨もそう思う? 瑛ちゃんも誤解してるだけなんだと思うけど、さっきもおっちゃんが言ってたように、マジで聞く耳持ってくんねぇの。慎ちゃんの話題を出したら、余計なお世話と言わんばかりに怒ってどっか行っちゃうから」
困ったように笑う奏ちゃん。
「そっか、難しいね」
そればかりは、北原くん自身の問題だもんね。
でも、話を聞く限り仲の良かった兄弟。
北原くんにとっては、憧れの存在だったお兄さん。
いつか、再び二人の心が通い会う日が来てくれるといいのに……。
「そうだな。って、こんな暗い話はやめやめ! 今日は、記念すべき、俺らの初デートの日なんだから! おっちゃーん、食後にケーキよろしくな~」
奏ちゃんによって、この話はここで打ち切られた。
「お詫びにサービスするよ」
追加注文をした奏ちゃんに、厨房の方から再び姿を見せた北原くんのお父さんが了解と親指を立てた。
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