空に想いを乗せて

美和優希

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第4章

奏ちゃんの家庭(1)

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 季節は次第に肌寒さを感じさせる頃へと移り行く。


 あの私が家を飛び出した日の夜。

 お父さんとお母さんと私との間で、初めての家族会議が開かれた。


 まず奈穂の放課後のお迎えと夕飯作りは、お母さんがうまい具合に仕事の調整ができたため、お母さんがすることになった。

 今までお母さんは任された仕事を断りきれず、必要以上に働いていたらしい。

 だから今の私の役割は、朝ご飯作りと奈穂を幼稚園に送っていっているだけ。


 朝ごはんを作るのは自分のお弁当を作るついでにできちゃうし、幼稚園に送るのは学校までの通り道だから、大して負担になっていない。


 そして勉強の方は、今まで通り塾に通っているのは変わらずだけど、以前のようにお父さんが口うるさく言ってくることが少なくなった。


 お母さんの話によると、お父さんは昔、現役のときに希望の大学の受験に失敗しているらしい。

 それで、私には同じ思いをさせたくないからと、あんな風になっていたらしい。

 私がどんなトップクラスの大学に進学したいと思ったとしても、その道に進めるように。


 それに加えて、私がお兄さんの分も真面目に生きたいと思っている気持ちを知っていたお父さんは、私が後悔することのないようにと必要以上に口うるさくなってしまったんだそうだ。


 私自身、高校卒業後は進学かなと漠然と思っているけれど、正直まだどの大学がいいとか、自分の中で全く定まってない。

 これからは進路設計を立てながら、いざ行きたい道を見つけたときに最低限困らない程度の成績を維持することで、お父さんには納得してもらった。


 そして、奏ちゃんのことは……。

 お父さんは最後まで、“あの男だけはやめなさい”と言い続けてたけど。

 お母さんから、“お父さん、嫉妬してるだけだから、気にせず仲良くしなさい”と言ってもらえたことで丸く収まった。


 実はお父さんはあんなことを言いながらも、お父さんとお母さんは高校のときからの付き合いだったらしい。

 だからそういうのもあって、奏ちゃんとの付き合いも認めてもらえたんだ。


 外出も、事前に言っておけば遊びに行ってもいいことになった。

 それからは、自然と奏ちゃんとデートに行くことも増えて。



「まさか、花梨の家がここまで緩和してくれるとは思わなかったよ」


 今日は、奏ちゃんとショッピングモールに来ていた。


 さっきまで、ここの最上階にある映画館で映画を観て、その下の階にある美味しいと評判のクレープ屋さんに来ている。


「うん。私も驚いてる。映画なんて、何年ぶりだったんだろう?」


 確か最後に行ったのは、まだ奈穂がうまれる前。

 まだ私が小学生だった頃、そのとき流行ってたアニメの映画を観に、お母さんに連れて行ってもらったのが最後だ。


「花梨にとって久しぶりの映画は楽しかった?」

「うん。とても」


 観た映画は、今人気の切ない恋を描いた映画。

 途中で、感極まって思わず泣いちゃったけど、奏ちゃんが暗い館内でそっと抱き寄せてくれたんだよね。


「なら、良かった。でも、なんか意外」

「何が?」


 まじまじと私を見る奏ちゃんに、クレープから口を離して首をかしげる。


「いや。なんか花梨のイメージって、委員長キャラだったからさ、こういう映画とか観たあと、評論チックな会話とかすんのかなぁと思ってたから」


 意外と普通なんだなと笑う奏ちゃんに、私まで笑いそうになる。


「何それ。私って、そんなに堅いイメージあったの?」

「最初はね。でも付き合ってくうちに、どんどん花梨のイメージって変わっていったよ」

「そうなの? もしかして、その堅いイメージのままの方が良かった?」


 だって奏ちゃんのこの言い方だと、今の私は委員長キャラではなくなっていってるように聞こえてくる。

 それはそれで構わないんだけど、やっぱり以前、私の委員長キャラが好きと言ってくれたことがあっただけに気にはなる。


「ううん。委員長キャラのイメージの花梨も好きだったけど、今の花梨の方が好き。新しい一面を知る度に、好きの気持ちがどんどん膨らんでいってる感じする」


 優しい笑みを浮かべて、さらりとそんな恥ずかしいことを言ってのける奏ちゃん。


「そんなもん?」

「そういうもんだと思うけど、俺は。ってか、花梨も俺と付き合ってから、俺のイメージってどうなの?」

「そうだなぁ……」


 奏ちゃんのイメージかぁ……。

 明るくて、あたたかくて。

 奏ちゃんのまわりは、いつも別世界のようで……。

 そこは、今も変わらない。


 可愛いイメージが強かったけど、私が辛いときは傍にいてくれて、いつの間にか頼もしいイメージになっていた。
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