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第4章
突然の別れ(4)
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次の日の朝。
学校に来て、いつもの塾の課題を広げて、その上で頭を抱える。
本当に格好だけで、シャーペンを握ったまま、もんもんと考えていると。
「……全然はかどってねぇじゃん」
ふと聞こえた声と目の前にできた影にハッとして頭を上げる。
「奏、ちゃん……?」
「おはよ」
やっぱり私の席の目の前に立っていたのは、奏ちゃんだ。
「お、おはよう」
いつもだったら、まだ来てない時間のはずだよね?
決して遅刻ギリギリというわけではないけれど、いつもならもう少しあとの時間帯で登校してくる奏ちゃん。
思わず教室の壁時計を見上げても、やっぱり早い。
「今、上、来れる?」
奏ちゃんは、学ランのポケットからチラリと屋上の鍵を見せる。
奏ちゃんの機嫌が良くないのは、明らか。
口調は努めていつもと同じように話してるけど、目が笑ってない。
きっと、昨日のことを言われるんだよね……?
確かに昨日、逃げ出した私も悪いけど、やっぱり話を聞くのが怖いよ……。
でも、逃げてばかりじゃいられない。
「……うん」
私は重たい腰を上げて、奏ちゃんのあとに続いた。
屋上までは、無言だった。
さすが10月も後半なだけあって、屋上を吹き抜ける風も少し冷たくなってきている。
奏ちゃんは、いつも昼休みに二人で過ごしている場所まで歩いて、こちらをふり返る。
私もそれに合わせて、奏ちゃんの数歩手前で立ち止まった。
「……花梨さ、最近なんかあった?」
「え……?」
てっきり昨日のことを責められるか、新島先輩と一緒に居たことについての説明をされるか、のどちらかだと思っていたのに。奏ちゃんは、そのどちらでもない問いかけを心配げに投げてきた。
「最近、花梨の様子、おかしいなって思ってたから。俺、何かしたなら言ってほしい」
「私、そんなに、変だった……?」
「うん。いつからだろう。運動会終わった辺りからかな? なんかよそよそしいって言うか……」
ドクンと心臓が嫌な音をたてる。
運動会、と言われて蘇るのは、あの新島先輩の落としたロケットキーホルダーの中の写真。
「初めは俺の思い過ごしかと思ったけど、花梨がバロンに来たのに、瑛ちゃんにお菓子を預けて帰ってしまった日になんとなく確信した。今までの花梨を見てたら、俺に黙って来て黙って帰るなんてことなかったから」
「あ……」
あの日は、運動会のときに見た写真のせいで不安になって、我慢できなくなって奏ちゃんに会いに行ったんだ。
いつもバロンに行くときは事前に連絡してるけど、あの日は時間もあったし、ちょっと驚かせようなんて気持ちも芽生えて。
だけど、結果は……。
奏ちゃんと新島先輩が抱き合ってた。
「あの日を境に、さらに俺に対する風当たりが冷たくなった」
被害妄想とかじゃないよ? と奏ちゃんは乾いた笑いを浮かべて続ける。
「そして、昨日。俺と咲姉がバンドで必要な道具を買いに出てたところで遭遇した。咲姉と俺はWild Wolfの仲間だし、それも花梨は知ってるはずなのに……っ」
そこで、一旦言葉を切った奏ちゃん。
「ハハっ。俺、花梨みたいにすごく勉強できるってわけでもねぇから、上手く説明できねーわ。自分で何言ってるのかわからなくなってきたし」
奏ちゃんは軽く笑うと、射抜くような瞳で私を見据えた。
「もう、ストレートに聞いた方が早いか。俺のこと、疑ってるの?」
「え……、っと」
疑ってるって、それは新島先輩とのことを、で合ってるよね?
全く疑ってない、と言えば嘘になる。
胸が押し潰されそうなくらいに不安に感じる程度には、疑ってるんだと思う。
特に、奏ちゃんと新島先輩はWild Wolf内でいつも一緒なわけだし。
私の単なる嫉妬もあるのかもしれないけれど……。
学校に来て、いつもの塾の課題を広げて、その上で頭を抱える。
本当に格好だけで、シャーペンを握ったまま、もんもんと考えていると。
「……全然はかどってねぇじゃん」
ふと聞こえた声と目の前にできた影にハッとして頭を上げる。
「奏、ちゃん……?」
「おはよ」
やっぱり私の席の目の前に立っていたのは、奏ちゃんだ。
「お、おはよう」
いつもだったら、まだ来てない時間のはずだよね?
決して遅刻ギリギリというわけではないけれど、いつもならもう少しあとの時間帯で登校してくる奏ちゃん。
思わず教室の壁時計を見上げても、やっぱり早い。
「今、上、来れる?」
奏ちゃんは、学ランのポケットからチラリと屋上の鍵を見せる。
奏ちゃんの機嫌が良くないのは、明らか。
口調は努めていつもと同じように話してるけど、目が笑ってない。
きっと、昨日のことを言われるんだよね……?
確かに昨日、逃げ出した私も悪いけど、やっぱり話を聞くのが怖いよ……。
でも、逃げてばかりじゃいられない。
「……うん」
私は重たい腰を上げて、奏ちゃんのあとに続いた。
屋上までは、無言だった。
さすが10月も後半なだけあって、屋上を吹き抜ける風も少し冷たくなってきている。
奏ちゃんは、いつも昼休みに二人で過ごしている場所まで歩いて、こちらをふり返る。
私もそれに合わせて、奏ちゃんの数歩手前で立ち止まった。
「……花梨さ、最近なんかあった?」
「え……?」
てっきり昨日のことを責められるか、新島先輩と一緒に居たことについての説明をされるか、のどちらかだと思っていたのに。奏ちゃんは、そのどちらでもない問いかけを心配げに投げてきた。
「最近、花梨の様子、おかしいなって思ってたから。俺、何かしたなら言ってほしい」
「私、そんなに、変だった……?」
「うん。いつからだろう。運動会終わった辺りからかな? なんかよそよそしいって言うか……」
ドクンと心臓が嫌な音をたてる。
運動会、と言われて蘇るのは、あの新島先輩の落としたロケットキーホルダーの中の写真。
「初めは俺の思い過ごしかと思ったけど、花梨がバロンに来たのに、瑛ちゃんにお菓子を預けて帰ってしまった日になんとなく確信した。今までの花梨を見てたら、俺に黙って来て黙って帰るなんてことなかったから」
「あ……」
あの日は、運動会のときに見た写真のせいで不安になって、我慢できなくなって奏ちゃんに会いに行ったんだ。
いつもバロンに行くときは事前に連絡してるけど、あの日は時間もあったし、ちょっと驚かせようなんて気持ちも芽生えて。
だけど、結果は……。
奏ちゃんと新島先輩が抱き合ってた。
「あの日を境に、さらに俺に対する風当たりが冷たくなった」
被害妄想とかじゃないよ? と奏ちゃんは乾いた笑いを浮かべて続ける。
「そして、昨日。俺と咲姉がバンドで必要な道具を買いに出てたところで遭遇した。咲姉と俺はWild Wolfの仲間だし、それも花梨は知ってるはずなのに……っ」
そこで、一旦言葉を切った奏ちゃん。
「ハハっ。俺、花梨みたいにすごく勉強できるってわけでもねぇから、上手く説明できねーわ。自分で何言ってるのかわからなくなってきたし」
奏ちゃんは軽く笑うと、射抜くような瞳で私を見据えた。
「もう、ストレートに聞いた方が早いか。俺のこと、疑ってるの?」
「え……、っと」
疑ってるって、それは新島先輩とのことを、で合ってるよね?
全く疑ってない、と言えば嘘になる。
胸が押し潰されそうなくらいに不安に感じる程度には、疑ってるんだと思う。
特に、奏ちゃんと新島先輩はWild Wolf内でいつも一緒なわけだし。
私の単なる嫉妬もあるのかもしれないけれど……。
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