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第4章
遠い存在(3)
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「……え。何で」
何でわかったの?
奏ちゃんに見つからないようにって思って、後ろの隅の方から観てたのに……。
「ハッ。他の奴らは気づいてなかったが、俺の視力なめんなよ。2.0余裕で見えるんだからな」
2.0……!
メガネは授業のときくらいしかかけてないけど、さすがにその視力は羨ましい……!
じゃなくて……。
「聞きたいことって、……」
「そう。こんなこと聞くのもあれだけどさ、委員長、奏ちゃんと別れたって聞いたけど、本当はまだ奏ちゃんのこと好きなんじゃねぇの?」
ドキンと大きく胸が痛む。
だって、その通りのことだから。
そんな私の様子から何かを感じ取ったのだろう。北原くんは確信したような表情を浮かべた。
「やっぱり。奏ちゃんのこと、信じられなかったの?」
そういえば、北原くんに言われてたっけ?
奏ちゃんの私への想いは本物だから、信じてあげてって。
「そんなことは、ない、けど……」
私がそこで口ごもっていると、北原くんは小さく息を吐いた。
「……なんかさ、あまり俺が首を突っ込むような話でもないけどさ、あんたら見てるとイライラするんだよ。明らかに二人とも未練タラタラじゃねぇか」
「そんなこと言われても。私だってどうしようもないよ。突然別れようって言われたんだから」
私の言葉に、小さく目を見開く北原くん。
「は? 委員長からフッたんじゃねぇの?」
「違うよ。むしろ、フラれたのは私。奏ちゃんから聞いてない?」
「いや、悪い。あいつ、何も話してくれなくて……。あいつの様子を見てたら、てっきり委員長から別れを切り出したんだとばかり思ってた」
「そうなの……?」
「まぁ……」
北原くんとしては、よっぽど私がフラれた側だということは想定外だったのだろう。
北原くんの顔に、不味いことしたな、と書かれている。
「奏ちゃんは……」
「瑛ちゃーん、そんなところにいたのかよ! 今日の練習のことなんだけど、……」
北原くんがそんな勘違いをするなんて、奏ちゃんはどんな様子なのか尋ねようとしたところで、まさかの当の本人の声がこちらに向かって飛んできた。
私も北原くんも、思わず小さくビクリと反応する。
「あ、悪い。今、取り込み中だった?」
北原くんが私といることに気づいたようで、奏ちゃんの顔が少し強ばったのがわかった。
「う、ううん。北原くん、ごめんね。私、行くね」
「え、ああ」
北原くんの返事を聞いて、奏ちゃんのいる空間から逃げるように背を向けた。
「瑛ちゃん、委員長と何か話してたんじゃないの? 良かったの?」
「別に。偶然会ったから話してただけだし」
そのとき、背後から聞こえた会話。
何てことない、普通の会話。
だけど、私の心は再びズキンと痛んだ。
“委員長”
確かに以前は、そう呼ばれてた。
奏ちゃんにそう呼ばれるのが、好きだった。
だけど、今は……。
もう“花梨”と呼んでもらえないんだ、という寂しさの方が勝っていた。
というより、それほどまでに奏ちゃんとの間に距離ができてしまったんだと思い知らされた。
最近、涙腺緩くて困るんだよね……。
私は思わず目元に滲みかけた涙を急いで拭うと、涙をこらえて、平然を装いながら教室へと戻った。
何でわかったの?
奏ちゃんに見つからないようにって思って、後ろの隅の方から観てたのに……。
「ハッ。他の奴らは気づいてなかったが、俺の視力なめんなよ。2.0余裕で見えるんだからな」
2.0……!
メガネは授業のときくらいしかかけてないけど、さすがにその視力は羨ましい……!
じゃなくて……。
「聞きたいことって、……」
「そう。こんなこと聞くのもあれだけどさ、委員長、奏ちゃんと別れたって聞いたけど、本当はまだ奏ちゃんのこと好きなんじゃねぇの?」
ドキンと大きく胸が痛む。
だって、その通りのことだから。
そんな私の様子から何かを感じ取ったのだろう。北原くんは確信したような表情を浮かべた。
「やっぱり。奏ちゃんのこと、信じられなかったの?」
そういえば、北原くんに言われてたっけ?
奏ちゃんの私への想いは本物だから、信じてあげてって。
「そんなことは、ない、けど……」
私がそこで口ごもっていると、北原くんは小さく息を吐いた。
「……なんかさ、あまり俺が首を突っ込むような話でもないけどさ、あんたら見てるとイライラするんだよ。明らかに二人とも未練タラタラじゃねぇか」
「そんなこと言われても。私だってどうしようもないよ。突然別れようって言われたんだから」
私の言葉に、小さく目を見開く北原くん。
「は? 委員長からフッたんじゃねぇの?」
「違うよ。むしろ、フラれたのは私。奏ちゃんから聞いてない?」
「いや、悪い。あいつ、何も話してくれなくて……。あいつの様子を見てたら、てっきり委員長から別れを切り出したんだとばかり思ってた」
「そうなの……?」
「まぁ……」
北原くんとしては、よっぽど私がフラれた側だということは想定外だったのだろう。
北原くんの顔に、不味いことしたな、と書かれている。
「奏ちゃんは……」
「瑛ちゃーん、そんなところにいたのかよ! 今日の練習のことなんだけど、……」
北原くんがそんな勘違いをするなんて、奏ちゃんはどんな様子なのか尋ねようとしたところで、まさかの当の本人の声がこちらに向かって飛んできた。
私も北原くんも、思わず小さくビクリと反応する。
「あ、悪い。今、取り込み中だった?」
北原くんが私といることに気づいたようで、奏ちゃんの顔が少し強ばったのがわかった。
「う、ううん。北原くん、ごめんね。私、行くね」
「え、ああ」
北原くんの返事を聞いて、奏ちゃんのいる空間から逃げるように背を向けた。
「瑛ちゃん、委員長と何か話してたんじゃないの? 良かったの?」
「別に。偶然会ったから話してただけだし」
そのとき、背後から聞こえた会話。
何てことない、普通の会話。
だけど、私の心は再びズキンと痛んだ。
“委員長”
確かに以前は、そう呼ばれてた。
奏ちゃんにそう呼ばれるのが、好きだった。
だけど、今は……。
もう“花梨”と呼んでもらえないんだ、という寂しさの方が勝っていた。
というより、それほどまでに奏ちゃんとの間に距離ができてしまったんだと思い知らされた。
最近、涙腺緩くて困るんだよね……。
私は思わず目元に滲みかけた涙を急いで拭うと、涙をこらえて、平然を装いながら教室へと戻った。
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