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第4章
遠い存在(2)
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*
「……え、柳澤くんと別れてたの!?」
塾が終わり、美波と帰り道を歩く。
私の目が腫れぼったくなっていることに気づかれて、美波に奏ちゃんとのことを聞き出された私は、少し前に奏ちゃんと別れていたことを話した。
「それって結局、柳澤くんの浮気ってこと?」
「わからない。一応、奏ちゃんは否定してたけど、その先輩との間には何かあるみたいだった」
「あんなにラブラブだったのに、何か信じられないなぁ」
少し雲の多い夜空を見上げる美波。
私だって、信じられないよ……。
「って、花梨が一番傷ついてるのに、ごめんね」
「え、ううん」
「でも、本当にその先輩と何もないなら、ちゃんと理由を言ってから別れろって話よね!」
プンプンと私の代わりに怒ってくれる美波。
「本当。突然すぎて、私も全然気持ちの整理が追い付かないよ……」
“ごめん。俺、多分花梨を傷つけることしかできない”
“これ以上、花梨のことを傷つけたくないんだ。だから……”
だから、別れよう……?
あの日奏ちゃんに言われた言葉を、何度も何度も頭の中で再生した。
だけど、いつも引っ掛かる。
なんで、奏ちゃんは私を傷つけることしかできないって思ったんだろう?
あの事故のことを打ち明けたときも、私がお父さんやお母さんと大喧嘩したときも。いつだって奏ちゃんは、私のことを受け入れて、支えてくれたのに……。
もしかして、私が奏ちゃんの優しさに甘え過ぎたせいで、奏ちゃんに“重たい女”って思われてたのかな?
そうしているうちに、またもや花町三丁目交差点に差し掛かり、美波と手を合わせる。
お兄さん……。
私がいけなかったんですよね?
お兄さんに悪いと思いながらも、奏ちゃんへの想いに嘘がつけなくて。
奏ちゃんの想いに応えたいって思って。
お兄さんの分も、幸せに笑って生きていく方がいいって考えに則った私が、間違ってたのかな……?
「……花梨」
「……ん?」
「柳澤くんとのことはしばらく辛いと思うけどさ、元気出して! 花梨みたいに頭がよくて美人な人には、きっともっといい相手が現れるって!」
美波なりに励ましてくれてるんだろうな……。
「……ありがとう、美波。でも、しばらく恋愛はいいや」
「花梨……」
しばらく、というより、もうしないと思う。
あのときお兄さんの命を犠牲にして、お兄さんたちカップルをも引き裂いて生きている。
そんな私に、やっぱり恋なんてする資格なかったんだよ。
今回はその罰が当たったんだよ、きっと……。
目の前の信号の下で夜風に揺れる花束は、今日も真新しいものだ。
そこで揺れるコスモスの優しいピンクが、行き交う自動車のライトに照らされる度に、再び滲んでいくのを感じた。
次の日の昼休み。
先生に頼まれて、私はクラスの人たちの宿題を集めて職員室へと持っていっていた。
その帰り道の校舎の一階の廊下で、ちょうど私から見て左側の通路を歩いてきた誰かに、ガシッと腕を掴まれた。
「……え?」
「久しぶり」
私の腕を掴むのは、ゴツゴツとした大きな手。
見上げると、その手の持ち主は、少し久しぶりに会う北原くんだった。
「北原くん、どうかした?」
北原くんから学校で私に話しかけてくるのは、あの朝屋上で話したとき以来。
「……ちょっと、聞きたいことがある」
だけど、ここでは話しにくい内容なのか、北原くんはチラリと周囲を確認すると、私を連れて玄関から校舎の外へと出た。
連れて来られたのは、校舎の裏手に当たる空間。
通称“学校の裏庭”と私たち生徒の間では呼ばれている場所だ。
北原くんは足を止めて私の方へと向き直ると、早速といった感じに切り出した。
「委員長さ、昨日の駅前のライブ観に来てたよな?」
「……え、柳澤くんと別れてたの!?」
塾が終わり、美波と帰り道を歩く。
私の目が腫れぼったくなっていることに気づかれて、美波に奏ちゃんとのことを聞き出された私は、少し前に奏ちゃんと別れていたことを話した。
「それって結局、柳澤くんの浮気ってこと?」
「わからない。一応、奏ちゃんは否定してたけど、その先輩との間には何かあるみたいだった」
「あんなにラブラブだったのに、何か信じられないなぁ」
少し雲の多い夜空を見上げる美波。
私だって、信じられないよ……。
「って、花梨が一番傷ついてるのに、ごめんね」
「え、ううん」
「でも、本当にその先輩と何もないなら、ちゃんと理由を言ってから別れろって話よね!」
プンプンと私の代わりに怒ってくれる美波。
「本当。突然すぎて、私も全然気持ちの整理が追い付かないよ……」
“ごめん。俺、多分花梨を傷つけることしかできない”
“これ以上、花梨のことを傷つけたくないんだ。だから……”
だから、別れよう……?
あの日奏ちゃんに言われた言葉を、何度も何度も頭の中で再生した。
だけど、いつも引っ掛かる。
なんで、奏ちゃんは私を傷つけることしかできないって思ったんだろう?
あの事故のことを打ち明けたときも、私がお父さんやお母さんと大喧嘩したときも。いつだって奏ちゃんは、私のことを受け入れて、支えてくれたのに……。
もしかして、私が奏ちゃんの優しさに甘え過ぎたせいで、奏ちゃんに“重たい女”って思われてたのかな?
そうしているうちに、またもや花町三丁目交差点に差し掛かり、美波と手を合わせる。
お兄さん……。
私がいけなかったんですよね?
お兄さんに悪いと思いながらも、奏ちゃんへの想いに嘘がつけなくて。
奏ちゃんの想いに応えたいって思って。
お兄さんの分も、幸せに笑って生きていく方がいいって考えに則った私が、間違ってたのかな……?
「……花梨」
「……ん?」
「柳澤くんとのことはしばらく辛いと思うけどさ、元気出して! 花梨みたいに頭がよくて美人な人には、きっともっといい相手が現れるって!」
美波なりに励ましてくれてるんだろうな……。
「……ありがとう、美波。でも、しばらく恋愛はいいや」
「花梨……」
しばらく、というより、もうしないと思う。
あのときお兄さんの命を犠牲にして、お兄さんたちカップルをも引き裂いて生きている。
そんな私に、やっぱり恋なんてする資格なかったんだよ。
今回はその罰が当たったんだよ、きっと……。
目の前の信号の下で夜風に揺れる花束は、今日も真新しいものだ。
そこで揺れるコスモスの優しいピンクが、行き交う自動車のライトに照らされる度に、再び滲んでいくのを感じた。
次の日の昼休み。
先生に頼まれて、私はクラスの人たちの宿題を集めて職員室へと持っていっていた。
その帰り道の校舎の一階の廊下で、ちょうど私から見て左側の通路を歩いてきた誰かに、ガシッと腕を掴まれた。
「……え?」
「久しぶり」
私の腕を掴むのは、ゴツゴツとした大きな手。
見上げると、その手の持ち主は、少し久しぶりに会う北原くんだった。
「北原くん、どうかした?」
北原くんから学校で私に話しかけてくるのは、あの朝屋上で話したとき以来。
「……ちょっと、聞きたいことがある」
だけど、ここでは話しにくい内容なのか、北原くんはチラリと周囲を確認すると、私を連れて玄関から校舎の外へと出た。
連れて来られたのは、校舎の裏手に当たる空間。
通称“学校の裏庭”と私たち生徒の間では呼ばれている場所だ。
北原くんは足を止めて私の方へと向き直ると、早速といった感じに切り出した。
「委員長さ、昨日の駅前のライブ観に来てたよな?」
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