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第4章
遠い存在(1)
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あれから、何日経っただろう?
私の生活は、ほぼ奏ちゃんと付き合う以前に戻ってしまったようだった。
喫茶店バロンにも、今では全く行ってない。っていうより、行けないし……。
今日は塾の日だから、学校から帰った私は自分の部屋で、塾の道具をカバンに詰めていた。
今日、何か持ってくるように言われてたものあったっけ……?
そう思いながら手帳を開けたとき、今日の欄に書き込まれた文字に思わず身体が固まる。
“駅前 18:00~ Wild Wolfライブ
塾に行くとき、早く家を出ること!”
そういえば、そんな話をしてたっけ?
塾は19時から。
だから、最初の一時間弱なら観れると思ってメモしたんだ。
今でこそ少しはお父さんも緩くなったとはいえ、夜にあるライブには塾のない日でも行きづらい。
だけど、やっぱり一目でも見たくて、この日にって思ってたんだった。
ふと、ベッドの傍に置いてある目覚まし時計を見る。
17:20
今日は早く学校を出られたのもあって、時間にはかなり余裕があった。
今から家を出れば、余裕で間に合う時間だ。
駅前のライブは、偶然にもお父さんとお母さんと喧嘩して家を飛び出した夜に、一度だけ観てる。
だけど、あのときは偶然だったし……。
何だかんだで、これからライブを見に行く気満々な自分に気づいてため息を吐き出す。
行ったって、奏ちゃんには迷惑かもしれないのに……。
それに、また新島先輩と奏ちゃんの見たくない光景を見る可能性もゼロじゃないんだ……。
どうしよう。
どうしよう……。
気づいたときには、私は自分の部屋を飛び出していた。
途中、花町三丁目交差点で手を合わせて、塾の横を素通りして、駅前へと走る。
あまりにも悩みすぎて、駅前に着くのは走って18時頃だろうというくらいにギリギリの状態。
駅前のロータリーが見えてきたとき、その奥に期間限定で設置されている簡易のステージの周りに、たくさんの人が集まっているのが見えた。
肩で息をしながら、その人混みの中にたどり着いたとき──。
シャンシャンシャンというドラムの合図のあとに、一番最初の演奏がスタートした。
「皆さん、今日は来てくれてありがとうー! 今日のトップバッターは、俺たち、Wild Wolfでーす!」
曲の間奏の合間にそう叫ぶ奏ちゃん。
長袖でも肌寒いくらいの気温なのに、奏ちゃんは赤いタンクトップ姿。
激しい演奏に、次第に見ているこちらも熱くなる。
マイクに叫ぶ声。
激しく奏でるギター。
そして、力強くも甘い歌声。
そのどれもが懐かしくて、愛しくて。
「奏、ちゃん……」
ついこの前までは、私の一番近くにいた人。
今も、手を伸ばせば届きそうな位置にいるのに。
もう、届かない……。
とてつもなく、遠い存在の人になってしまったかのようにさえ、感じる。
涙で、目の前のステージのライトがぼやける。
奏ちゃん……。
いろんなバンドが順に演奏していくスタンスになっている、この駅前でのライブ。
どうやらWild Wolfは、最初の40分ほどが持ち時間だったようだ。
この前、偶然ここでWild Wolfのライブに遭遇したときは、私の姿を見つけてくれた奏ちゃん。
今日はさすがに見つからないような位置にいたとはいえ、一度もこちらの方に視線を向けなかった奏ちゃんに、少し胸が痛んだ。
次のバンドとの入れ替わりでざわついてる間に、私は目元の涙を拭うと、そそくさと塾へと向かった。
私の生活は、ほぼ奏ちゃんと付き合う以前に戻ってしまったようだった。
喫茶店バロンにも、今では全く行ってない。っていうより、行けないし……。
今日は塾の日だから、学校から帰った私は自分の部屋で、塾の道具をカバンに詰めていた。
今日、何か持ってくるように言われてたものあったっけ……?
そう思いながら手帳を開けたとき、今日の欄に書き込まれた文字に思わず身体が固まる。
“駅前 18:00~ Wild Wolfライブ
塾に行くとき、早く家を出ること!”
そういえば、そんな話をしてたっけ?
塾は19時から。
だから、最初の一時間弱なら観れると思ってメモしたんだ。
今でこそ少しはお父さんも緩くなったとはいえ、夜にあるライブには塾のない日でも行きづらい。
だけど、やっぱり一目でも見たくて、この日にって思ってたんだった。
ふと、ベッドの傍に置いてある目覚まし時計を見る。
17:20
今日は早く学校を出られたのもあって、時間にはかなり余裕があった。
今から家を出れば、余裕で間に合う時間だ。
駅前のライブは、偶然にもお父さんとお母さんと喧嘩して家を飛び出した夜に、一度だけ観てる。
だけど、あのときは偶然だったし……。
何だかんだで、これからライブを見に行く気満々な自分に気づいてため息を吐き出す。
行ったって、奏ちゃんには迷惑かもしれないのに……。
それに、また新島先輩と奏ちゃんの見たくない光景を見る可能性もゼロじゃないんだ……。
どうしよう。
どうしよう……。
気づいたときには、私は自分の部屋を飛び出していた。
途中、花町三丁目交差点で手を合わせて、塾の横を素通りして、駅前へと走る。
あまりにも悩みすぎて、駅前に着くのは走って18時頃だろうというくらいにギリギリの状態。
駅前のロータリーが見えてきたとき、その奥に期間限定で設置されている簡易のステージの周りに、たくさんの人が集まっているのが見えた。
肩で息をしながら、その人混みの中にたどり着いたとき──。
シャンシャンシャンというドラムの合図のあとに、一番最初の演奏がスタートした。
「皆さん、今日は来てくれてありがとうー! 今日のトップバッターは、俺たち、Wild Wolfでーす!」
曲の間奏の合間にそう叫ぶ奏ちゃん。
長袖でも肌寒いくらいの気温なのに、奏ちゃんは赤いタンクトップ姿。
激しい演奏に、次第に見ているこちらも熱くなる。
マイクに叫ぶ声。
激しく奏でるギター。
そして、力強くも甘い歌声。
そのどれもが懐かしくて、愛しくて。
「奏、ちゃん……」
ついこの前までは、私の一番近くにいた人。
今も、手を伸ばせば届きそうな位置にいるのに。
もう、届かない……。
とてつもなく、遠い存在の人になってしまったかのようにさえ、感じる。
涙で、目の前のステージのライトがぼやける。
奏ちゃん……。
いろんなバンドが順に演奏していくスタンスになっている、この駅前でのライブ。
どうやらWild Wolfは、最初の40分ほどが持ち時間だったようだ。
この前、偶然ここでWild Wolfのライブに遭遇したときは、私の姿を見つけてくれた奏ちゃん。
今日はさすがに見つからないような位置にいたとはいえ、一度もこちらの方に視線を向けなかった奏ちゃんに、少し胸が痛んだ。
次のバンドとの入れ替わりでざわついてる間に、私は目元の涙を拭うと、そそくさと塾へと向かった。
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