空に想いを乗せて

美和優希

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第5章

想いは複雑に絡み合って(2)

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「でもあの様子を見る限り、奏ちゃんもちゃんと愛されてたんだな、って思って、ちょっと安心した。奏ちゃんは全然気にしてない素振りを見せてたけど、やっぱり見てるこっちは切なかったしさ」


 そうだったんだ……。

 あのとき聞いた言葉の意味は、何でお兄さんは亡くなってしまったのに奏ちゃんは生きてるの? っていう意味だったんだね……。


 あの事故があってから、ずっとそう言われて来たんだよね。


 奏ちゃんは気にしてない素振りだったとは言っても、やっぱり辛かったよね。


 大切なお兄さんを亡くした上に、お母さんにはそう言われて。

 それでも、そんな中でも真っ直ぐに生きてきた奏ちゃん。

 奏ちゃんは、本当にすごいよ。


 ねぇ、奏ちゃん。

 奏ちゃんのお母さん、奏ちゃんのこと心配してたくさん涙流してくれてるよ。

 たくさん取り乱して、奏ちゃんの名前を呼んでるよ。

 奏ちゃんに、今の奏ちゃんのお母さんの姿を見せてあげたいよ……。


 だから奏ちゃん、お願いだから、目を開けて……!


 私が両手を握りしめてお祈りしていると、今更のように苦笑いを浮かべる北原くん。


「ってか、俺から勝手にいろいろ話しちまったけど、良かったのかな」

「それは私にもわからないよ。でも、話してくれてありがとう。私も、奏ちゃんの家に行ったときから奏ちゃんの家のことは心配だったし、聞けて良かった」

「そうか。それならいっか。ってか、そもそも奏ちゃんがいろいろ委員長に隠し事しながら付き合ってたのが悪ぃんだし、何よりなかなか目を覚まさねぇのが悪ぃんだからな」


 隠したって隠しきれる内容じゃないだろうに。

 北原くんは、さらにブチブチと文句を垂れているようだった。


 事故のことも、お兄さんのことも、奏ちゃんのお母さんのことも。私、一度は奏ちゃんの彼女だったのに何も知らなかったんだよね。


 奏ちゃんは、何でここまで何も話してくれなかったんだろう……?


 何回でも、言うチャンスはあっただろうに。

 私が、あの事故のことを話した日とかさ。

 私たちが別れたときでさえ、話してくれなかったんだもん。


 奏ちゃんが私と別れてまで必死で隠してたことは、これで全部ではないんだと思う。

 新島先輩のこととか、まだあやふやなままだし。


 奏ちゃん、また目が覚めたら、今度こそ全部聞かせてほしい。


 例えそれが、私のことを恨んでるっていう内容だとしても。


 今まで二人で過ごしてきた時間は、全て偽りだったっていう内容だとしても。


 ちゃんと、受け入れるから──。




 奏ちゃんが目を覚ましたのは、それから二日後の夕方のことだった。


 北原くんから連絡をもらった私は、学校からダッシュで奏ちゃんの入院する病院に駆けつけた。


「……岸本花梨です」


 コンコンと病室の扉をノックして、中からの返事を待つ。

 中から返事が来る前に、ガララと病室の引き戸が開けられた。


「来たか、委員長。奏ちゃん、委員長が来てくれたぞ」


 戸を開けてくれたのは、北原くん。

 クラス委員長の仕事で今日も少し学校に残ってた私だけど、北原くんは学校の授業が終わるなり、この病院に直行してたみたい。


 北原くんの後ろに見えるのは、ベッドの傍に置かれた椅子に座る、増川先輩と新島先輩。


 そして、ベッドの上で上体を起こす奏ちゃんの姿があった。


 まだ腕には点滴が繋がれていて、頭には包帯が巻かれていて、表情もちょっと疲れているけれど。


「花梨……」

 そう呼ぶ声も、柔らかく細められる瞳も、私の知っている奏ちゃんだった。


「良かった……」

 そんな奏ちゃんの姿を見て、思わず込み上げて来るものを堪える。


「花梨、ごめん。本当に、ごめん……」

 だけど、私が奏ちゃんの傍に近づくなり、奏ちゃんはベッドの上で深々と頭を下げた。


「花町三丁目交差点での事故のこと、ずっと黙ってて本当にごめん。あの日、花梨を助けたのは俺の兄ちゃんだったんだって、聞いたんだよな……?」

「うん……。新島先輩から、聞いたよ」

「でも、それを知ってて花梨に近づいたわけじゃないから……」


 あの花町三丁目交差点での事故のとき、奏ちゃんはその場にいたわけでもなければ、私と接触があったわけでもなかった。


 だから、本当に私と出会って、付き合って、私があの事故のことを打ち明けるまで全くわからなかったと、奏ちゃんは話してくれた。


「花梨がいつかの塾の帰り、あの交差点の事故で助けられたんだって話してくれたとき、俺も本当のことを話すべきだったんだ。だけどあのときの俺は、突然知った事実を受け入れるのに精一杯で、何も言えなかった。それからは、どう打ち明けようか考えるようになった。でも、ただでさえ兄ちゃんに罪悪感を感じながら生きてきた花梨が本当のこと知ったら、花梨はきっと俺に対しても罪悪感を抱えてしまうんじゃないかって。余計に悩ませることになるかもしれないって考えるようになって、結局話せなかった」


 その結果として、私に知られないようにするために、どんどん隠し事や嘘が増えて。結局私のことを傷つける結果になってしまったんだと、奏ちゃんは話してくれた。
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