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第5章
残されたメッセージ(2)
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「おいおい。俺の打ち明けてもらえなかった理由、酷くね? なんかまるで俺が言いふらすかのような言い方じゃねぇか」
「……実際にお前、そんなところあっただろうが」
その話を聞いて不満を口にした増川先輩に、慎司さんがボソリと一言告げる。
増川先輩はムッとした表情を浮かべたけれど、そこで「あ」と一言漏らした。
「そういや、慎ちゃんについては何も書かれてないのか!?」
増川先輩の声に、再び奏ちゃんは便箋の文字に視線を落とす。
するとその続きには、和真さんは、慎司さんには本当のことを話していたと書かれていた。
慎司さんなら大きく取り乱すこともなければ、誰かに口外してしまう心配もないと思ったから、と。
だけど、和真さんはいろいろ考えていたけど、結局慎司さんに話をした段階で例の事故が起こり、亡くなってしまった。
その時点で、まだ余命は来てなくても突然死んだときのためにと和真さんが残してあったのが、今、奏ちゃんの手元に渡った便箋の冊子だったということだそうだ。
「次のページからは一人ずつ手紙が書かれてるみたいだね。みんなの分、順に読んでいってもいい?」
次のページをめくった奏ちゃんが、病室にいたみんなをぐるりと見回すと、みんな無言のまま小さくうなずいた。
それを確認して、奏ちゃんは再び便箋の文字を一文字ずつ読み始めた。
「奏真へ。なかなか病気のこと言い出せなくてごめんな。奏真に俺のポジションを譲るって話したの、覚えてるか? あれ、冗談じゃないから。Wild Wolfは、奏真に任せる。奏真ならできると思う。いつも奏真は俺に遠慮ばかりしてたけど、自分の気持ちに素直に生きていってほしい。奏真は俺の自慢の弟だよ。ありがとう。母さんのことも、よろしく頼む」
そこで、奏ちゃんは1ページめくる。
「咲へ。俺、死ぬまでに咲に病気のことを話せてたかな。傷つけてごめん。幸せにできなくてごめん。でも、勝手かもしれないけど咲には笑っててほしいから、Wild Wolfは続けてほしい。そして、咲のことを大切にしてくれそうな人に出会ったら、迷わずその人のところに行ってな。好きだよ、咲。本当に、愛してた。本当にありがとう」
新島先輩は涙を流しながら、その手紙の内容を聞いていた。
「駿ちゃんへ。多分死ぬまでには話してると思うけど、俺、病気みたい。手遅れらしい。無責任って怒られるかもしれないけど、俺がいなくなったら、咲をよろしく頼む。駿ちゃんの持ち前の明るさで、咲を元気づけてあげてほしい。俺もいつも駿ちゃんに元気もらってた。ありがとな」
そして、奏ちゃんはさらに1ページめくる。
「慎ちゃんへ。いつの日だったか、Wild Wolfとして一緒にプロ入りを目指そうって言ってくれたこと、本当に嬉しかった。だけど現実問題なかなか厳しい上に、俺がこんなことになってしまって本当にごめんな。でも、やっぱり慎ちゃんにはプロ入りの夢を追い続けてほしい。俺のワガママだけど、慎ちゃんのベースはWild Wolfで留めておくのは勿体ないと思うんだ。何回も慎ちゃんには断られたけどさ、やっぱり慎ちゃんにはWild Wolfを出てでもプロ入りしてほしい。慎ちゃんの腕なら、冗談抜きでいけると思う。後任が気になるなら、瑛ちゃんなんてどうだろう? 瑛ちゃんも慎ちゃんの見よう見まねでベースやってるんだしさ。本当に最期まで一番慎ちゃんに弱音とか吐いてんだろうな、俺。いつも本当に救われてた。ありがとな」
慎司さんへの手紙の内容に、北原くんも新島先輩も増川先輩も、驚いたように慎司さんを見ていた。
「瑛ちゃんへ。びっくりさせてごめんな。もし、慎ちゃんがWild Wolfを抜けてプロ入りしたら、それは俺のせい。俺が最期の願いでそう頼んだんだ。だから、慎ちゃんを責めないで。そのときが来たら、見てるだけじゃなくて瑛ちゃんもWild Wolfのベースとして活躍してほしい。奏真とも、仲良くやっていってな。今までありがとう」
そして、奏ちゃんが最後の北原くん宛の手紙を読み終えたとき。
「クソ兄貴! どういうことだよ!」
北原くんは勢いよく慎司さんのところへ行き、そう怒鳴った。
「うるせ。どうもこうもねぇよ。和ちゃんの手紙のままだ」
顔をしかめて、北原くんのいる側の耳元を押さえる慎司さん。
「何でそんな事情があったんなら、一言そう言ってくれなかったんだよ」
北原くんは、ドンドンと慎司さんの胸元を両方の拳で叩く。
「はぁ? 簡単に説明したが、お前が聞く耳をもたなかっただけだろうが」
「……んだよ、それ。奏ちゃんに和ちゃんのあとを継がせて、俺にはベースを代われって言ってきて……。仕舞いには“和ちゃんとの約束だ”と言い残してWild Wolfを抜けるとか、こっちとしては“は?”ってなるだろうが」
「仕方ねぇだろ。少なくとも病気のことは、和ちゃんがお前や奏ちゃんや咲や駿ちゃんに話してなかったんだから、俺から話すわけにはいかねぇし」
「それでも……」
北原くんが悔しげにそう言ったとき、奏ちゃんは静かに口を開いた。
「……実際にお前、そんなところあっただろうが」
その話を聞いて不満を口にした増川先輩に、慎司さんがボソリと一言告げる。
増川先輩はムッとした表情を浮かべたけれど、そこで「あ」と一言漏らした。
「そういや、慎ちゃんについては何も書かれてないのか!?」
増川先輩の声に、再び奏ちゃんは便箋の文字に視線を落とす。
するとその続きには、和真さんは、慎司さんには本当のことを話していたと書かれていた。
慎司さんなら大きく取り乱すこともなければ、誰かに口外してしまう心配もないと思ったから、と。
だけど、和真さんはいろいろ考えていたけど、結局慎司さんに話をした段階で例の事故が起こり、亡くなってしまった。
その時点で、まだ余命は来てなくても突然死んだときのためにと和真さんが残してあったのが、今、奏ちゃんの手元に渡った便箋の冊子だったということだそうだ。
「次のページからは一人ずつ手紙が書かれてるみたいだね。みんなの分、順に読んでいってもいい?」
次のページをめくった奏ちゃんが、病室にいたみんなをぐるりと見回すと、みんな無言のまま小さくうなずいた。
それを確認して、奏ちゃんは再び便箋の文字を一文字ずつ読み始めた。
「奏真へ。なかなか病気のこと言い出せなくてごめんな。奏真に俺のポジションを譲るって話したの、覚えてるか? あれ、冗談じゃないから。Wild Wolfは、奏真に任せる。奏真ならできると思う。いつも奏真は俺に遠慮ばかりしてたけど、自分の気持ちに素直に生きていってほしい。奏真は俺の自慢の弟だよ。ありがとう。母さんのことも、よろしく頼む」
そこで、奏ちゃんは1ページめくる。
「咲へ。俺、死ぬまでに咲に病気のことを話せてたかな。傷つけてごめん。幸せにできなくてごめん。でも、勝手かもしれないけど咲には笑っててほしいから、Wild Wolfは続けてほしい。そして、咲のことを大切にしてくれそうな人に出会ったら、迷わずその人のところに行ってな。好きだよ、咲。本当に、愛してた。本当にありがとう」
新島先輩は涙を流しながら、その手紙の内容を聞いていた。
「駿ちゃんへ。多分死ぬまでには話してると思うけど、俺、病気みたい。手遅れらしい。無責任って怒られるかもしれないけど、俺がいなくなったら、咲をよろしく頼む。駿ちゃんの持ち前の明るさで、咲を元気づけてあげてほしい。俺もいつも駿ちゃんに元気もらってた。ありがとな」
そして、奏ちゃんはさらに1ページめくる。
「慎ちゃんへ。いつの日だったか、Wild Wolfとして一緒にプロ入りを目指そうって言ってくれたこと、本当に嬉しかった。だけど現実問題なかなか厳しい上に、俺がこんなことになってしまって本当にごめんな。でも、やっぱり慎ちゃんにはプロ入りの夢を追い続けてほしい。俺のワガママだけど、慎ちゃんのベースはWild Wolfで留めておくのは勿体ないと思うんだ。何回も慎ちゃんには断られたけどさ、やっぱり慎ちゃんにはWild Wolfを出てでもプロ入りしてほしい。慎ちゃんの腕なら、冗談抜きでいけると思う。後任が気になるなら、瑛ちゃんなんてどうだろう? 瑛ちゃんも慎ちゃんの見よう見まねでベースやってるんだしさ。本当に最期まで一番慎ちゃんに弱音とか吐いてんだろうな、俺。いつも本当に救われてた。ありがとな」
慎司さんへの手紙の内容に、北原くんも新島先輩も増川先輩も、驚いたように慎司さんを見ていた。
「瑛ちゃんへ。びっくりさせてごめんな。もし、慎ちゃんがWild Wolfを抜けてプロ入りしたら、それは俺のせい。俺が最期の願いでそう頼んだんだ。だから、慎ちゃんを責めないで。そのときが来たら、見てるだけじゃなくて瑛ちゃんもWild Wolfのベースとして活躍してほしい。奏真とも、仲良くやっていってな。今までありがとう」
そして、奏ちゃんが最後の北原くん宛の手紙を読み終えたとき。
「クソ兄貴! どういうことだよ!」
北原くんは勢いよく慎司さんのところへ行き、そう怒鳴った。
「うるせ。どうもこうもねぇよ。和ちゃんの手紙のままだ」
顔をしかめて、北原くんのいる側の耳元を押さえる慎司さん。
「何でそんな事情があったんなら、一言そう言ってくれなかったんだよ」
北原くんは、ドンドンと慎司さんの胸元を両方の拳で叩く。
「はぁ? 簡単に説明したが、お前が聞く耳をもたなかっただけだろうが」
「……んだよ、それ。奏ちゃんに和ちゃんのあとを継がせて、俺にはベースを代われって言ってきて……。仕舞いには“和ちゃんとの約束だ”と言い残してWild Wolfを抜けるとか、こっちとしては“は?”ってなるだろうが」
「仕方ねぇだろ。少なくとも病気のことは、和ちゃんがお前や奏ちゃんや咲や駿ちゃんに話してなかったんだから、俺から話すわけにはいかねぇし」
「それでも……」
北原くんが悔しげにそう言ったとき、奏ちゃんは静かに口を開いた。
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