きみに駆ける

美和優希

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 今年の春。高校に入学した直後に、私は中学から続けていた陸上部に入部した。

 昔から走ることが好きで、中学のときは百メートル走者として日々努力を惜しまなかった。
 その甲斐あって、中学の最後の大会では百メートルで地区大会の記録を更新したことは、自分の中でとても誇りに思っている。

 そういった実績を買われて、私は入部早々先輩を差し置いてリレーの選手に選ばれた。リレーを構成するメンバーは四人。元々三年生と二年生の先輩四人で構成されていたのだが、そのうちのひとりと交代する形でメンバーに加わることになったのだ。

 光栄ではあったが、先輩たちで構成されていたチームに入れてもらったことに最初こそ抵抗があった。
 それでも先輩たちは私の実力を信じて、快く私をチームの一員に入れてくれた。四人のタイムから考えても地区大会で三位以内に入賞して次のステージに進むことは可能だと期待されていたし、私自身もかなり手応えを感じていた。
 私はそんな先輩たちの期待に応えたいと、いまだかつてないくらいに練習した。
 部活以外の時間も、暇があれば走っていた。

 一方で、地区大会の三日ほど前から脚に違和感を感じていた。
 いつもに増して走り込んでいたから、疲れによるものだと思い込んでいた。
 大会前に負傷だなんてシャレにならないと私自身思っていたから、異変が負傷によるものからきているものだと気づけなかったのだ。

 大会当日。私が任されていたのは第三走者だ。
 予選は順調に勝ち進んだが、問題が起こったのは決勝戦だった。
 決勝でも群を抜いて速かった第一走者の先輩は、なんと一位で第二走者にバトンを渡した。途中、抜かれてしまい、二位でバトンは私に渡った。
 私の役目は、三位以内を保ったままアンカーの先輩にバトンを託すことだ。
 アンカーの先輩は万が一のことがあっても巻き返すと言ってくれてたけど、私は誰にも抜かされないつもりで走り始めたし、むしろ一位の走者を追い越すつもりでいた。

 先輩からバトンを受け継ぐ。
 最初こそ順調な走り出しだったと思う。
 だけど、一位の走者との距離を詰めて、いよいよ追い越そうとしたとき、突然、思うように脚が動かなくなってしまったんだ。

 それでも何とか脚を動かした。
 けれど、自分でも信じられないくらいにスピードが落ちてしまった私は、一位の走者を追い越すどころか、アンカーにバトンを繋いだ時点で四位になっていた。
 三位までの差もかなりついている。
 アンカーの先輩は、それでも必死で巻き返した。
 一気に三位までの距離を詰めたけれど、結局、僅かな差で三位には届かなかった。
 私たちの地区大会突破の夢は、ここで敗れた。

 私が走り終わったあと「あの子、本気出してなかったんじゃない?」「調子乗ってんじゃないの?」と先輩たちに陰で言われていた声で、耳が痛かった。
 先輩を差し置いて出場させてもらったのに、取り返しのつかないことをしてしまったのだから、当然だ。

 一方で、高校生活初めての大会だった私にはまた次があると声をかけてくれた先輩もいたけれど、私にはそうは思えなかった。

 確かに私にとっては高校最初の大会で、高校での部活生活はまだまだこれからだ。だけど、先輩たちは違う。特に三年生の先輩はこれで引退なんだから。

 先輩の目が怖かった。
 みんなの目が怖かった。
 負傷が明るみになった私に向けられた憐れみの目も、責められているように見えて苦しかった。
 負傷により休養を要された私は、それを言い訳にして陸上部から姿を消したのだった。
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