秘密の恋人は鬼上司!?~ウソから始まるSweet Love~

美和優希

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2.お相手は、まさかの鬼上司!?

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「今日は、ごちそうさまでした」

「ん」

 駅まで送ると言われて、お店をあとにした私たちは駅までの道すがらを歩く。

 暖かかった店内に比べて外は寒い。冷たい夜風に、思わず身震いさせてしまう。

 三月になったばかりとはいえ、まだまだ夜は冷える。


「悪い。ちょっと飲み物買ってくる」

 細い路地を歩いていると、ぼうっと明かりを放つ、自動販売機が見えてくる。

 本郷さんがそこまで走って、飲み物を購入した。


「ほらよ。なんかフレンチのあとで、自販機の飲み物とか、ちょっと味気ないかもしれねぇけど」

 私が自動販売機の傍まで来たときに渡されたのは、ホットココアの缶だった。

 本郷さんの手には、ホットのブラックコーヒーの缶が握られている。


 シュポッと音を立てて缶を開けると、本郷さんは喉を鳴らしてホットコーヒーを体内に流し込む。

 私もホットココアの缶を開けるけれど、一口飲む前に聞こえた本郷さんの言葉に、思わず身を強ばらせた。


「次の予定だが……」


 次の予定なんて、作っちゃいけない。

 断らなきゃ……。

 今の私は、作られた姿。

 梨緒でも奈緒でもない、見た目が梨緒の高倉奈緒なのだから。


「お前、いつが空いてるんだよ」 


「……もう、次はないと思います」


 最初は遊ばれてるのかと思った。

 今日も待ち合わせの場所にちゃんといるか、本郷さんの姿を見るまで、半信半疑だった。


「……は?」


 だけど、もし本当に本郷さんが、本気で梨緒の姿の私を気に入ってくれてるのなら、このまま会い続けることは失礼に当たると思った。


「本郷さんとは、もう会えないです。ごめんなさい」


 本郷さんは、何も言わない。
 黙って、私を見ているだけ。


「本郷さんには申し訳ないけど、私……」


 本郷さんの方へと足を踏み出す。

 しかし、その瞬間何につまずいてしまったのか、私の身体は突然前のめりになった。


「きゃっ」


 バランスを完全に崩してしまった私は体勢を立て直すことはできず、バシャッという音とともに、思いっきり本郷さんの身体にダイブしてしまっていた。


「お、おい。大丈夫か!?」

「す、すみません。私……」


 顔を上げた瞬間、間近に本郷さんの整った顔が見えた。

 自動販売機の明かりで、はっきりとその熱い瞳と目が合ってしまった。


「あ、あの……っ」


 いつの間にか本郷さんの腕は、私の身体を包み込むように回されている。

 気づいたときには、私は本郷さんの腕の中にすっぽりと抱き締められていた。

 一気に心拍数と体温が上昇するのを感じる。


「だ、ダメですって……」


 本郷さんの甘い雰囲気に流されそうになるけれど、理性で踏みとどまって、渾身の力で本郷さんを押し返す。

 思いの外、本郷さんはすぐに私から身体を離してくれた。

 自動販売機の明かりに照らされたその姿に、思わず絶句した。


「悪い。つい、自分を抑えられなかった。……って、お前、どうした?」


 本郷さんが私の様子に気づいて、私の視線の先をたどる。

 行き着いた本郷さんの右の胸元あたりを見て、目を丸くした。


「うわっ。さっきの拍子でかかったのか。お前は、大丈夫か!? 俺は上着にかかっただけだから何ともなかったけど、やけどとかしてねぇか?」

「……だ、大丈夫です」

「ならいいが。いくらこの寒さで少し冷えてたとはいえ、ホットの飲み物だったからな。服も大丈夫だったか?」


 さっき抱きしめられたときに触れ合った私の左の胸元あたりに視線を落として、本郷さんはホッとした表情を浮かべる。


「す、すすすすみませんでした」

 一方で私は、思いっきり本郷さんに向かって頭を下げた。

 私には何もなかったとはいえ、本郷さんのベージュの上着の胸元にはしっかりと染みを作ってしまっている。

 さっき私がつまずいた拍子に、まだほとんど飲んでいなかったココアが缶から飛び出したのだろう。

 私の手の中に握られたままになっているココアの量が明らかに減っていることから、かなりの量を本郷さんにかけてしまったのは明らかだ。

 本郷さんがやけどをしてなさそうなことが、せめてもの救いだ。
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