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4.ドキドキさせるようなことばかりしないでください!

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「……やっぱり、取らなきゃダメですか? 登販の資格」

「会社も強制してるわけじゃないから、取らなきゃダメってことはないと思うが、今後うちに限らずドラッグストア業界で働くなら、あって損な資格じゃない。そうでなくても、せっかくドラッグストアで働いてるんだから、少しくらい薬のことがわかるようになってもらえると、俺としては嬉しいかな」 

「……はい」

「その気になれば、俺も次長も登販持ってるし、何でも聞いてくれたら良いからな。薬のことだけで言えば、俺らよりも断然薬剤師の坂口さんの方が詳しいから、坂口さんに聞くのでもいいし」


 本郷店長はそう言うと、私の手元にあったビニールの袋から什器のパーツを取り出すと、その土台となる部分を組み立てる。


「まずは、医薬品の接客だからと俺らや坂口さんに丸投げせずに、もう少し頑張ってみろ。本当にわからないときは、頼ってくれたらいいから。それが一番の勉強だ。何もやろうとしなければ、人は成長できないからな」


 ──ピロピロン。

『店長、接客お願いします』

 そのとき、呼び出し音とともに店内アナウンスが流れる。


「呼ばれたな。じゃあ、残りはよろしく頼む」

「は、はい……」


 本郷店長は、急いで事務室から売り場の方へと出ていってしまった。


 登録販売者の資格かぁ……。

 いつか結婚して子どもができたら、この会社はやめてしまうかもしれない。そう思ったら、資格を取ってまで頑張らなくてもいいやって、ずっと思ってた。

 だからといって、今すぐ頑張って勉強します、と頭を切り替えられたわけではないけれど、少しは勉強した方がいいのかな。

 いつも医薬品関連の接客は自信が持てなくて、薬剤師の小梅ちゃんや店長や次長に頼ってばかりだったもんな……。


 黙々と什器を組み立てながら、思う。


 “お客様の視点”か……。
 こんなこと言ったら失礼かもしれないけど、本郷店長がそんなことまで考えてるなんて、思わなかった。

 鬼店長、なんて言われるくらいだから、一に売り上げ、二に売り上げ、三に売り上げ、みたいな人なのかと思ってたのに……。

 まずはお客様視点で、売り上げは二の次のような言い方だったもんね。

 でも、その方がお客様からの信頼はきっと得られるし、間違ってはないと思う。


 意外と、って言い方もまた失礼なのかもしれないけど、いろいろ考えてる人なんだな、本郷店長って……。

 お客様のこともちゃんと考えて、出来損ないの社員の私なんかのことも期待して気にかけてくれるなんて……。
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