51 / 75
9.お前は一体誰なんだよ。
(1)
しおりを挟む
翌週。四月も終わりに近づいた月曜日。
この日は、本郷店長と完全にお休みが被っていたため、一日デートをすることになった。
「わぁ! 見ましたか!? 今、一瞬だけこっち見ましたよ!」
一面の青空の広がる今日は、本郷店長と朝から動物園に来ていた。
目の前のガラスで仕切られた檻の中には、のんびりと歩くトラの姿がある。
結構近くまで来てくれていたのになかなかこっちを向いてくれなくて、やっと今こっちを向いてくれたのだ。
「梨緒って、水族館に連れていったときも思ったけど、こういったところ好きだよな。水族館とか動物園とかいった類いのところ」
「はい!」
動物園に連れてきてもらったのは、実は私の希望だ。
たまには私の行きたいところに、って言われたのがきっかけだ。
「最初は嫌々俺と会ってくれてるって感じだったのに、最近はそんな素振りなくなったな」
背後に感じる体温に、本郷店長が私のすぐ後ろに来たということがわかった。
ガラスの手前に設置された柵にかけていた私の右手に、本郷店長の大きな手が重ねられる。
「……やけどの痕、だいぶよくなったな」
本郷店長に耳元でふわりと囁かれる。
重ねられた手の親指が、私の親指の付け根にうっすらと残るやけどの痕に触れた。
仕事中に本郷店長に傷痕を見られてしまったときは、正体に気づかれるのではないかと心配した。あの出来事があってから、高倉奈緒の姿のときは油断せず常にカットバンを貼った状態にしているから、恐らくそのあとは本郷店長に見られていないだろう。
本郷店長の様子にも特に大きな変化はなく、私が高倉奈緒だということは気づかれてなさそうだ。
私が立っているすぐ前には、腰くらいまでの高さの柵がある。そのため、私は背後にいる本郷店長と柵に挟まれたような状況になっていた。
やけに密着した状態に、ドキドキと胸打つ音が加速するのと同時に、本郷店長に触れている背中が熱くなる。
──ガウゥッ!
そのとき、ガラス越しにこちらを見たトラに吠えられて、思わずあとずさってしまった。
「ひゃ……っ」
同時に、ドンと背中から本郷店長にぶつかる。
「す、すすすすみません……っ!」
本郷店長が私のすぐ真後ろに立っていたことは、わかっていたはずなのに、ぶつかってしまったことに動揺してしまう。
「気にするな。むしろ、お前から俺の胸に飛び込んで来てくれるなら、いつでも受け止めてやる」
「え、えと……」
いつの間にか、私の前に回されていた本郷店長の両腕に、ドギマギする。
「ほ、本郷さん、ここ外です……」
周りの目が気になって、本郷店長の身体を押し返しながら辺りを見回すと、どういうわけか、ラブラブオーラの出ているカップルが数組いるだけだった。
「残念ながら、周りの奴らの方がイチャついてるぞ。それとも、その言い方、部屋で二人きりなら良いってことか?」
「や、そ、そういうわけでは……っ」
だけど、その瞬間チュッというリップ音とともに、額にキスを落とされていた。
「ほ、ほほほほ本郷さん……っ!」
「悪い、我慢できなかった。恨むなら、お前の可愛さを恨め」
えぇーっ!? な、何ですか、それ!
行くぞ、と私と重ねていた手を握って、本郷店長は私を引っ張るようにして歩き出した。
この日は、本郷店長と完全にお休みが被っていたため、一日デートをすることになった。
「わぁ! 見ましたか!? 今、一瞬だけこっち見ましたよ!」
一面の青空の広がる今日は、本郷店長と朝から動物園に来ていた。
目の前のガラスで仕切られた檻の中には、のんびりと歩くトラの姿がある。
結構近くまで来てくれていたのになかなかこっちを向いてくれなくて、やっと今こっちを向いてくれたのだ。
「梨緒って、水族館に連れていったときも思ったけど、こういったところ好きだよな。水族館とか動物園とかいった類いのところ」
「はい!」
動物園に連れてきてもらったのは、実は私の希望だ。
たまには私の行きたいところに、って言われたのがきっかけだ。
「最初は嫌々俺と会ってくれてるって感じだったのに、最近はそんな素振りなくなったな」
背後に感じる体温に、本郷店長が私のすぐ後ろに来たということがわかった。
ガラスの手前に設置された柵にかけていた私の右手に、本郷店長の大きな手が重ねられる。
「……やけどの痕、だいぶよくなったな」
本郷店長に耳元でふわりと囁かれる。
重ねられた手の親指が、私の親指の付け根にうっすらと残るやけどの痕に触れた。
仕事中に本郷店長に傷痕を見られてしまったときは、正体に気づかれるのではないかと心配した。あの出来事があってから、高倉奈緒の姿のときは油断せず常にカットバンを貼った状態にしているから、恐らくそのあとは本郷店長に見られていないだろう。
本郷店長の様子にも特に大きな変化はなく、私が高倉奈緒だということは気づかれてなさそうだ。
私が立っているすぐ前には、腰くらいまでの高さの柵がある。そのため、私は背後にいる本郷店長と柵に挟まれたような状況になっていた。
やけに密着した状態に、ドキドキと胸打つ音が加速するのと同時に、本郷店長に触れている背中が熱くなる。
──ガウゥッ!
そのとき、ガラス越しにこちらを見たトラに吠えられて、思わずあとずさってしまった。
「ひゃ……っ」
同時に、ドンと背中から本郷店長にぶつかる。
「す、すすすすみません……っ!」
本郷店長が私のすぐ真後ろに立っていたことは、わかっていたはずなのに、ぶつかってしまったことに動揺してしまう。
「気にするな。むしろ、お前から俺の胸に飛び込んで来てくれるなら、いつでも受け止めてやる」
「え、えと……」
いつの間にか、私の前に回されていた本郷店長の両腕に、ドギマギする。
「ほ、本郷さん、ここ外です……」
周りの目が気になって、本郷店長の身体を押し返しながら辺りを見回すと、どういうわけか、ラブラブオーラの出ているカップルが数組いるだけだった。
「残念ながら、周りの奴らの方がイチャついてるぞ。それとも、その言い方、部屋で二人きりなら良いってことか?」
「や、そ、そういうわけでは……っ」
だけど、その瞬間チュッというリップ音とともに、額にキスを落とされていた。
「ほ、ほほほほ本郷さん……っ!」
「悪い、我慢できなかった。恨むなら、お前の可愛さを恨め」
えぇーっ!? な、何ですか、それ!
行くぞ、と私と重ねていた手を握って、本郷店長は私を引っ張るようにして歩き出した。
1
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完】経理部の女王様が落ちた先には
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位
高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け
ピンヒールの音を響かせ歩く
“経理部の女王様”
そんな女王様が落ちた先にいたのは
虫1匹も殺せないような男だった・・・。
ベリーズカフェ総合ランキング4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
関連物語
『ソレは、脱がさないで』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『初めてのベッドの上で珈琲を』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる