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8.まさか気づいてないですよね?
(8)
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特に私は次長とか店長になりたいわけじゃないし、このまま平社員としてゆるゆると働いていくつもりだった。
だから登録販売者の資格には、最初は興味もなかった。
「……やってみようと、思います」
だけど、さっきの女性客に“ありがとう”と言われた直後だからだろうか。もっと薬の勉強をして、もっと誰かの役に立てるような人になりたいって思っていた。
私って、とても単純なのかもしれない。
「そうか。俺も可能な限り力になるから、頑張れよ。じゃあ、この書類に必要事項を記入してくれ」
本郷店長にもう一枚の紙とボールペンを差し出されて、名前や配属店舗名といったものを記入していく。
平然を装って書いてるけど、なんだか本郷店長の視線を感じて、手が震えそうだよ……。
「痛そうだな」
私が一通り書き終わったところで、心配そうな声色の本郷店長の声が降ってくる。
「……え?」
本郷店長の視線の先をたどって、思わず背筋が強ばるような感覚が走った。
だって本郷店長が見ていたのは、服の裾から覗く昨夜のやけどの痕だったのだから。
や、やだ。
朝、ちゃんとカットバン貼ってきてたのに、多分さっきオリコンを片付けてたときに剥がれちゃったんだ……。
「それ、やけどでもしたのか?」
「い、いえ! す、すりむいただけです……!」
苦し紛れな嘘だと自分でも思った。
けれど、本郷店長はその嘘に騙されてくれたのだろうか。
「そうか。やけどっぽい痕に見えたけど違ったか。早く良くなるといいな」
あっさりとそう言って、私の書いた書類のチェックをし始めた。
大丈夫、だったんだよね……?
“やけど”なんて言うから、私が“いつも本郷店長と会ってる梨緒”だと気づかれたのかと思ってしまった。
でも、本当に気づかれてないんだよね……?
本郷店長は、昨日もこのやけど痕を見ている。
だからこの痕を見て、単発でやけどかと聞いたんだと思う。
疑うような目でじっと見ていると、顔を上げた本郷店長に不思議そうな顔をされた。
「どうした? そんな目で見なくても、書類は記入漏れなく書けてたぞ?」
「え、あ、はい」
「また来月以降のシフトに、ところどころ研修が入ると思う」
「わかりました」
「またわからないことがあれば、何でも聞いてくれていいからな。じゃあ、発注に戻ってくれていいぞ」
「はい」
本郷店長はクリアファイルに私の書いた書類を挟んで、店長机の引き出しにしまう。
私は、その姿を横目に売り場へと戻った。
ひとつ嘘をつけば、その嘘を隠すために、どんどん嘘をつき続けなければならない。
さっきの苦し紛れな嘘、“偽者の梨緒”、それらを隠すためにつく嘘には、どんな意味があるのだろう。
ただ、私が梨緒としてでも良いから、本郷店長の傍にいたいだけ。
いつまでもこんなことを続けられるわけがないことなんて最初からわかっているのに、そう思うと胸が張り裂けそうな痛みに襲われた。
だから登録販売者の資格には、最初は興味もなかった。
「……やってみようと、思います」
だけど、さっきの女性客に“ありがとう”と言われた直後だからだろうか。もっと薬の勉強をして、もっと誰かの役に立てるような人になりたいって思っていた。
私って、とても単純なのかもしれない。
「そうか。俺も可能な限り力になるから、頑張れよ。じゃあ、この書類に必要事項を記入してくれ」
本郷店長にもう一枚の紙とボールペンを差し出されて、名前や配属店舗名といったものを記入していく。
平然を装って書いてるけど、なんだか本郷店長の視線を感じて、手が震えそうだよ……。
「痛そうだな」
私が一通り書き終わったところで、心配そうな声色の本郷店長の声が降ってくる。
「……え?」
本郷店長の視線の先をたどって、思わず背筋が強ばるような感覚が走った。
だって本郷店長が見ていたのは、服の裾から覗く昨夜のやけどの痕だったのだから。
や、やだ。
朝、ちゃんとカットバン貼ってきてたのに、多分さっきオリコンを片付けてたときに剥がれちゃったんだ……。
「それ、やけどでもしたのか?」
「い、いえ! す、すりむいただけです……!」
苦し紛れな嘘だと自分でも思った。
けれど、本郷店長はその嘘に騙されてくれたのだろうか。
「そうか。やけどっぽい痕に見えたけど違ったか。早く良くなるといいな」
あっさりとそう言って、私の書いた書類のチェックをし始めた。
大丈夫、だったんだよね……?
“やけど”なんて言うから、私が“いつも本郷店長と会ってる梨緒”だと気づかれたのかと思ってしまった。
でも、本当に気づかれてないんだよね……?
本郷店長は、昨日もこのやけど痕を見ている。
だからこの痕を見て、単発でやけどかと聞いたんだと思う。
疑うような目でじっと見ていると、顔を上げた本郷店長に不思議そうな顔をされた。
「どうした? そんな目で見なくても、書類は記入漏れなく書けてたぞ?」
「え、あ、はい」
「また来月以降のシフトに、ところどころ研修が入ると思う」
「わかりました」
「またわからないことがあれば、何でも聞いてくれていいからな。じゃあ、発注に戻ってくれていいぞ」
「はい」
本郷店長はクリアファイルに私の書いた書類を挟んで、店長机の引き出しにしまう。
私は、その姿を横目に売り場へと戻った。
ひとつ嘘をつけば、その嘘を隠すために、どんどん嘘をつき続けなければならない。
さっきの苦し紛れな嘘、“偽者の梨緒”、それらを隠すためにつく嘘には、どんな意味があるのだろう。
ただ、私が梨緒としてでも良いから、本郷店長の傍にいたいだけ。
いつまでもこんなことを続けられるわけがないことなんて最初からわかっているのに、そう思うと胸が張り裂けそうな痛みに襲われた。
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