53 / 75
9.お前は一体誰なんだよ。
(3)
しおりを挟む
残りの園内を回り終えるのは、あっという間だったように感じた。
「今のパンダが最後だったみたいだな」
「そうみたいですね」
お弁当を食べたあとは、残りの動物園内を見て回った。
「じゃあ、最後はあれ乗って帰るか」
本郷店長が指したのは、出口付近にある大観覧車だった。
この動物園の目玉のひとつで、色々な動物の形をしたゴンドラがゆっくりと上空を回っている。
「え、……あ、はい」
「もしかして、お前、高所恐怖症だったりする?」
「い、いえ。そんなこと、ないです……」
「じゃあ、決まりだな」
私の手を引きながら、本郷店長は観覧車の乗り場の方へと歩いていく。
わああ、本郷店長と観覧車かぁ。
乗りたいような、乗りたくないような。
ここの動物園に来るって決まったときから、もしかしたら、とは思ってたけど、心の準備が追いついてないよ……。
観覧車のチケットを購入すると、大して混んでなかったことから、すぐに私たちは観覧車のゴンドラ内へと案内された。
「それではごゆっくり」
係員の人の声とともに、ガシャンと音を立てて扉が閉められる。
周りの音から一気に遮蔽されて、自分の心臓の音だけが大きく響いて聞こえた。
「おい」
「……は、はい」
「せっかく観覧車乗ったのに、何足元ばかり見てんだよ」
「す、すみません……」
そう断って、視線を窓の外へと向ける。
近くに見えるのは、最後に見たパンダ舎の屋根だ。
さっきまで本郷店長と歩いた動物園内の全体像が、小さくなっていく。
「……こ、このあと、どうしますか?」
近くに建っていた時計台の時刻は、15時前だった。
本郷店長からは、夜はディナーに連れていってくれると聞いているけれど、それにしては時間が余ってしまった。
「そうだな……。とりあえず、この辺りには何もねぇから、街まで電車で出ようと思ってる。あそこには、最近大きなショッピングセンターができただろ?」
「はい」
「そのあとのことまで、まだ決めてはなかったんだが、お前はどうしたい? ショッピングセンター内には映画館もあるし、映画でも観に行くか? それとも、せっかくショッピングセンターに行くなら、買い物の方がいいか?」
「……じゃ、じゃあ、映画で」
そう答えて、ぎゅっと両手を握りしめる。
会話をしたことで、自然と視線を窓の外から本郷店長へと移動していた。
その視線の次のやり場に迷って、結局自分の手元を見つめてしまう。
そのとき、ガタンとゴンドラ内が揺れたかと思えば、目の前には本郷店長の姿がが迫ってきていた。
座席に座ったままの私の背後にある窓に右手をついて、私と目線の高さを合わせるようにかがんできた。
とっさに視線を上げてしまったことで、整った本郷店長の顔が間近に見えた。
「あ、あの……っ」
「こういうの、壁ドンって言うらしいな」
「……え?」
「こういうことされると、女ってドキドキするものなのか?」
そりゃ、ドキドキはしてるけど……。
何の突拍子もない会話に、思わず目をぱちくりさせる。
「って、何言ってんだ。俺は……」
そんな私を見て、本郷店長はフッと嘲るように笑う。
「ゆっくりでいい、急かすつもりはないって、この前も言ったばかりなのにな。一刻も早く、もっとお前をドキドキさせてやりたくて堪らない」
梨緒の姿でいるときは、必ず視界に映る、栗色のウェーブのかかったロングヘアの毛先。
それを一束つかむと、本郷店長は本当にいとおしむようにそこにキスを落とした。
「……俺にこうされるの、嫌か?」
聞かれて、思わず首を横に振っていた。
「嫌じゃ、ないです……」
好きの気持ちが、今にも溢れ出てしまいそうだ。
だって私は、見た目は梨緒でも、中身は本郷店長に恋してしまった高倉奈緒なんだから──。
私の言葉を聞くなり、本郷店長はもっと距離を詰めてくる。
「……これは、嫌か?」
額をくっつけて、鼻先を触れ合わせてくる。
「嫌じゃ、ないです……」
「今のパンダが最後だったみたいだな」
「そうみたいですね」
お弁当を食べたあとは、残りの動物園内を見て回った。
「じゃあ、最後はあれ乗って帰るか」
本郷店長が指したのは、出口付近にある大観覧車だった。
この動物園の目玉のひとつで、色々な動物の形をしたゴンドラがゆっくりと上空を回っている。
「え、……あ、はい」
「もしかして、お前、高所恐怖症だったりする?」
「い、いえ。そんなこと、ないです……」
「じゃあ、決まりだな」
私の手を引きながら、本郷店長は観覧車の乗り場の方へと歩いていく。
わああ、本郷店長と観覧車かぁ。
乗りたいような、乗りたくないような。
ここの動物園に来るって決まったときから、もしかしたら、とは思ってたけど、心の準備が追いついてないよ……。
観覧車のチケットを購入すると、大して混んでなかったことから、すぐに私たちは観覧車のゴンドラ内へと案内された。
「それではごゆっくり」
係員の人の声とともに、ガシャンと音を立てて扉が閉められる。
周りの音から一気に遮蔽されて、自分の心臓の音だけが大きく響いて聞こえた。
「おい」
「……は、はい」
「せっかく観覧車乗ったのに、何足元ばかり見てんだよ」
「す、すみません……」
そう断って、視線を窓の外へと向ける。
近くに見えるのは、最後に見たパンダ舎の屋根だ。
さっきまで本郷店長と歩いた動物園内の全体像が、小さくなっていく。
「……こ、このあと、どうしますか?」
近くに建っていた時計台の時刻は、15時前だった。
本郷店長からは、夜はディナーに連れていってくれると聞いているけれど、それにしては時間が余ってしまった。
「そうだな……。とりあえず、この辺りには何もねぇから、街まで電車で出ようと思ってる。あそこには、最近大きなショッピングセンターができただろ?」
「はい」
「そのあとのことまで、まだ決めてはなかったんだが、お前はどうしたい? ショッピングセンター内には映画館もあるし、映画でも観に行くか? それとも、せっかくショッピングセンターに行くなら、買い物の方がいいか?」
「……じゃ、じゃあ、映画で」
そう答えて、ぎゅっと両手を握りしめる。
会話をしたことで、自然と視線を窓の外から本郷店長へと移動していた。
その視線の次のやり場に迷って、結局自分の手元を見つめてしまう。
そのとき、ガタンとゴンドラ内が揺れたかと思えば、目の前には本郷店長の姿がが迫ってきていた。
座席に座ったままの私の背後にある窓に右手をついて、私と目線の高さを合わせるようにかがんできた。
とっさに視線を上げてしまったことで、整った本郷店長の顔が間近に見えた。
「あ、あの……っ」
「こういうの、壁ドンって言うらしいな」
「……え?」
「こういうことされると、女ってドキドキするものなのか?」
そりゃ、ドキドキはしてるけど……。
何の突拍子もない会話に、思わず目をぱちくりさせる。
「って、何言ってんだ。俺は……」
そんな私を見て、本郷店長はフッと嘲るように笑う。
「ゆっくりでいい、急かすつもりはないって、この前も言ったばかりなのにな。一刻も早く、もっとお前をドキドキさせてやりたくて堪らない」
梨緒の姿でいるときは、必ず視界に映る、栗色のウェーブのかかったロングヘアの毛先。
それを一束つかむと、本郷店長は本当にいとおしむようにそこにキスを落とした。
「……俺にこうされるの、嫌か?」
聞かれて、思わず首を横に振っていた。
「嫌じゃ、ないです……」
好きの気持ちが、今にも溢れ出てしまいそうだ。
だって私は、見た目は梨緒でも、中身は本郷店長に恋してしまった高倉奈緒なんだから──。
私の言葉を聞くなり、本郷店長はもっと距離を詰めてくる。
「……これは、嫌か?」
額をくっつけて、鼻先を触れ合わせてくる。
「嫌じゃ、ないです……」
1
あなたにおすすめの小説
【R18】幼馴染がイケメン過ぎる
ケセラセラ
恋愛
双子の兄弟、陽介と宗介は一卵性の双子でイケメンのお隣さん一つ上。真斗もお隣さんの同級生でイケメン。
幼稚園の頃からずっと仲良しで4人で遊んでいたけど、大学生にもなり他にもお友達や彼氏が欲しいと思うようになった主人公の吉本 華。
幼馴染の関係は壊したくないのに、3人はそうは思ってないようで。
関係が変わる時、歯車が大きく動き出す。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
【完】経理部の女王様が落ちた先には
Bu-cha
恋愛
エブリスタにて恋愛トレンドランキング4位
高級なスーツ、高級な腕時計を身に付け
ピンヒールの音を響かせ歩く
“経理部の女王様”
そんな女王様が落ちた先にいたのは
虫1匹も殺せないような男だった・・・。
ベリーズカフェ総合ランキング4位
2022年上半期ベリーズカフェ総合ランキング53位
2022年下半期ベリーズカフェ総合ランキング44位
関連物語
『ソレは、脱がさないで』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高4位
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高2位
『大きなアナタと小さなわたしのちっぽけなプライド』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高13位
『初めてのベッドの上で珈琲を』
エブリスタさんにて恋愛トレンドランキング最高9位
『“こだま”の森~FUJIメゾン・ビビ』
ベリーズカフェさんにて恋愛ランキング最高 17位
私の物語は全てがシリーズになっておりますが、どれを先に読んでも楽しめるかと思います。
伏線のようなものを回収していく物語ばかりなので、途中まではよく分からない内容となっております。
物語が進むにつれてその意味が分かっていくかと思います。
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
人狼な幼妻は夫が変態で困り果てている
井中かわず
恋愛
古い魔法契約によって強制的に結ばれたマリアとシュヤンの14歳年の離れた夫婦。それでも、シュヤンはマリアを愛していた。
それはもう深く愛していた。
変質的、偏執的、なんとも形容しがたいほどの狂気の愛情を注ぐシュヤン。異常さを感じながらも、なんだかんだでシュヤンが好きなマリア。
これもひとつの夫婦愛の形…なのかもしれない。
全3章、1日1章更新、完結済
※特に物語と言う物語はありません
※オチもありません
※ただひたすら時系列に沿って変態したりイチャイチャしたりする話が続きます。
※主人公の1人(夫)が気持ち悪いです。
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる