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9.お前は一体誰なんだよ。
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人だかりが近づくにつれて、何やら女性が言い争うような声が聞こえてくる。
「なんだよ、こんなところで喧嘩か? 野次馬もすげぇな」
眉を寄せて、本郷店長は前方に見える人だかりを見つめる。
「サッと通り過ぎるぞ」
本郷店長が私の手を握る力を強める。
きっと、万が一私に危険が及ぶことがあったらいけないと思って、そう言ってくれたんだと思う。
だけど、私はその人だかりの方から聞こえてきた声を、無視できなかった。
「だから、人違いだって言ってるでしょ!?」
聞き間違えるはずのない、双子の片割れの梨緒の声だったのだから。
私は思わずその人だかりの方へと視線を向ける。
人と人との隙間から少しでも人だかりの中心部が見えないか、目を凝らした。
ほんの少しの隙間から見えたのは、やっぱり梨緒だった。
その隣には、きっと今の梨緒の彼氏だと思われる背の高い男性が困ったような表情で立っている。
月曜日の今日は、梨緒の勤める美容院のお休みの日だ。
そういえば、梨緒は今日はデートだって言っていた。
梨緒からは、今日は隣町にドライブだと聞いていたはずだったけど、お昼を過ぎてお茶をしに移動して来たのかもしれない。
そう言う私も、動物園に行くことしか梨緒に伝えておらず、流れでここのショッピングセンターに来たのだ。
お互いの行き先を把握していたつもりだったのに、完全に詰めが甘かったということだ。
ど、どうしよう……。まさか梨緒と出くわしてしまうなんて、想定外だよ……。
「浮気現場がバレたからって、見え透いたウソつかないでよ」
そのとき、梨緒と対峙していた相手が梨緒につかみかかった。
相手の女性を見て、思わず目を疑った。
梨緒と対峙していたのは、本郷店長の元カノでもある紗枝子さんだったからだ。
何で梨緒と紗枝子さんが一緒にいるの!?
理由わからないけれど、聞こえてきた会話の内容だけでも、瞬時に二人が何に揉めてるのか嫌でもわかった。
もしかしなくても紗枝子さんは、“本物の梨緒”を“梨緒の姿で本郷店長と会ってる私”と勘違いしてるんだ……。
どうしよう。
このままじゃ、梨緒が……。
「梨緒、どうした?」
その場で足を止めてしまった私に、本郷店長もさすがに私の異変に気づいてしまったみたい。
「すみません。ちょっとここで待っててください」
私のせいで思わぬトラブルに巻き込まれてしまった梨緒を、見て見ぬフリできるわけがなかった。
「ちょ、おい……!」
私は本郷店長の手を離すと、人だかりの中心へと飛び込んでいった。
「もうっ! 何回言ったらわかるのよ!」
「紗枝子さん、違うんです!」
相変わらず声を張り上げて怒鳴る梨緒の声に負けないように、大きな声を出して二人の前に飛び出した。
「奈緒……っ!?」
突然出てきた私を見て、梨緒が咄嗟にそう口走ったのが口の形でわかった。それと同時に梨緒はハッと自分の口に両手を当てた。
だけど、梨緒が思ってるよりその声は声になってなかったからだろう。紗枝子さんは全くそんな梨緒を気に留めるような様子はなく、むしろ私と梨緒を交互に見て固まっていた。
「ちょ、何よ。同じ顔が、二つ……!?」
それも無理もない。
野次馬が現れようが、本物の梨緒のことを人違いであるわけがないと思い込んでいたんだから。
「梨緒は、浮気なんてしてないです。本郷さんとずっと一緒にいたのは、梨緒じゃなくて、この私だったんです」
紗枝子さんの言葉に勘違いしてしまってるような雰囲気の梨緒の彼氏にも聞こえるように、そう言った。
私のせいで起きた梨緒の誤解をとかなければ……!
「そんな……っ。え、つ、司っ!?」
軽くパニックを起こしている紗枝子さんは、さらに私の後ろを見て驚き慌てふためく。
紗枝子さんの視線の先をたどると、待っててくださいと伝えたはずの本郷店長が、すぐそばで私たちを見ていた。
「紗枝子、この人だかりはお前の仕業かよ。何を勘違いしてんのか知らねぇけど、他人に迷惑かけんなよ」
「私はただ、司が騙されてたらいけないと思って……」
「余計なお世話だ。もう俺がお前とどうこうなるとかあり得ないから。いい加減俺のこと嗅ぎ回るの、やめろよな」
本郷店長にそう言われて、紗枝子さんは悔しさと恥ずかしさの混ざった表情で唇を噛み締めると、人だかりを押し退けるように、私たちに背を向けて走っていってしまった。
それを合図に、野次馬も一人、また一人と減っていった。
「なんだよ、こんなところで喧嘩か? 野次馬もすげぇな」
眉を寄せて、本郷店長は前方に見える人だかりを見つめる。
「サッと通り過ぎるぞ」
本郷店長が私の手を握る力を強める。
きっと、万が一私に危険が及ぶことがあったらいけないと思って、そう言ってくれたんだと思う。
だけど、私はその人だかりの方から聞こえてきた声を、無視できなかった。
「だから、人違いだって言ってるでしょ!?」
聞き間違えるはずのない、双子の片割れの梨緒の声だったのだから。
私は思わずその人だかりの方へと視線を向ける。
人と人との隙間から少しでも人だかりの中心部が見えないか、目を凝らした。
ほんの少しの隙間から見えたのは、やっぱり梨緒だった。
その隣には、きっと今の梨緒の彼氏だと思われる背の高い男性が困ったような表情で立っている。
月曜日の今日は、梨緒の勤める美容院のお休みの日だ。
そういえば、梨緒は今日はデートだって言っていた。
梨緒からは、今日は隣町にドライブだと聞いていたはずだったけど、お昼を過ぎてお茶をしに移動して来たのかもしれない。
そう言う私も、動物園に行くことしか梨緒に伝えておらず、流れでここのショッピングセンターに来たのだ。
お互いの行き先を把握していたつもりだったのに、完全に詰めが甘かったということだ。
ど、どうしよう……。まさか梨緒と出くわしてしまうなんて、想定外だよ……。
「浮気現場がバレたからって、見え透いたウソつかないでよ」
そのとき、梨緒と対峙していた相手が梨緒につかみかかった。
相手の女性を見て、思わず目を疑った。
梨緒と対峙していたのは、本郷店長の元カノでもある紗枝子さんだったからだ。
何で梨緒と紗枝子さんが一緒にいるの!?
理由わからないけれど、聞こえてきた会話の内容だけでも、瞬時に二人が何に揉めてるのか嫌でもわかった。
もしかしなくても紗枝子さんは、“本物の梨緒”を“梨緒の姿で本郷店長と会ってる私”と勘違いしてるんだ……。
どうしよう。
このままじゃ、梨緒が……。
「梨緒、どうした?」
その場で足を止めてしまった私に、本郷店長もさすがに私の異変に気づいてしまったみたい。
「すみません。ちょっとここで待っててください」
私のせいで思わぬトラブルに巻き込まれてしまった梨緒を、見て見ぬフリできるわけがなかった。
「ちょ、おい……!」
私は本郷店長の手を離すと、人だかりの中心へと飛び込んでいった。
「もうっ! 何回言ったらわかるのよ!」
「紗枝子さん、違うんです!」
相変わらず声を張り上げて怒鳴る梨緒の声に負けないように、大きな声を出して二人の前に飛び出した。
「奈緒……っ!?」
突然出てきた私を見て、梨緒が咄嗟にそう口走ったのが口の形でわかった。それと同時に梨緒はハッと自分の口に両手を当てた。
だけど、梨緒が思ってるよりその声は声になってなかったからだろう。紗枝子さんは全くそんな梨緒を気に留めるような様子はなく、むしろ私と梨緒を交互に見て固まっていた。
「ちょ、何よ。同じ顔が、二つ……!?」
それも無理もない。
野次馬が現れようが、本物の梨緒のことを人違いであるわけがないと思い込んでいたんだから。
「梨緒は、浮気なんてしてないです。本郷さんとずっと一緒にいたのは、梨緒じゃなくて、この私だったんです」
紗枝子さんの言葉に勘違いしてしまってるような雰囲気の梨緒の彼氏にも聞こえるように、そう言った。
私のせいで起きた梨緒の誤解をとかなければ……!
「そんな……っ。え、つ、司っ!?」
軽くパニックを起こしている紗枝子さんは、さらに私の後ろを見て驚き慌てふためく。
紗枝子さんの視線の先をたどると、待っててくださいと伝えたはずの本郷店長が、すぐそばで私たちを見ていた。
「紗枝子、この人だかりはお前の仕業かよ。何を勘違いしてんのか知らねぇけど、他人に迷惑かけんなよ」
「私はただ、司が騙されてたらいけないと思って……」
「余計なお世話だ。もう俺がお前とどうこうなるとかあり得ないから。いい加減俺のこと嗅ぎ回るの、やめろよな」
本郷店長にそう言われて、紗枝子さんは悔しさと恥ずかしさの混ざった表情で唇を噛み締めると、人だかりを押し退けるように、私たちに背を向けて走っていってしまった。
それを合図に、野次馬も一人、また一人と減っていった。
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