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3.恋する特製カレーオムライス
3ー5
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食堂で執り行われていた宴会が終わり、後片付けに入った晃さんと拓也さんに事情を説明した。
今回の団体客は清美さんが呼び寄せたものであるということと、彼女の未練の対象となっている史也さんが団体客の中にいることを話すと、晃さんは清美さんのむすび屋での滞在を認め、改めて清美さんの担当を任せると私に告げた。
そうは言っても、むすび屋の客室は満室だ。
恐らく団体客の滞在中が清美さんの滞在期間になるのだろう。
そこで、清美さんからの許可をもらって、今夜はむすび屋のはなれにある宿舎の空き部屋を使ってもらうことにした。
部屋に移動する前に、むすび屋の中を見て回りたいという清美さんにの要望に応えて、建物内を案内する。
すると、ちょうど受付カウンター横に設置していた自動販売機のところでたむろしていた団体客を見て、清美さんが声を上げた。
「あの人です。あの、背が少し低くて可愛い感じの……」
見ると、若い男性三人と女性が一人。各部屋に人数分用意してある縦縞模様の紺色の浴衣を身につけて、各々缶コーヒーやスポーツドリンクの入ったペットボトルを片手に談笑している。
「静ちゃん、プリン味のジュース飲んでるの?」
「はい、普通に美味しいですよ。プリンをそのまま流動物にして飲んでる感じです。あ、史也くんも飲む?」
背の高い男性にそう答えたあと、清美さんの言った特徴の男性に向かって、静ちゃんと呼ばれた女性は缶を差し出す。
「は、俺? いや、いいよ」
「えー。史也くん、甘いの好きじゃん」
「そうだけど……。そんなにおすすめなら明日買って飲んでみることにするよ」
静さんは、不服そうに頬を膨らませる。
そんな史也さんと静さん、そして周囲の人のやり取りを、清美さんは少し寂しげな顔で見つめていた。
「静さんっていう人、史也の同僚の子なんですけど、史也のこと絶対狙ってますよね」
「あ……」
確かに。それは私も遠目からでも感じていた。
当然のことながら、一般のお客様には清美さんの存在は見えていない。
さすがに従業員の私が不自然に突っ立ってお客様の方を見ているのはまずいので、今は受付カウンターのところにいたなずなさんに事情を小声で説明して、受付のところから様子をうかがっている。
しばらく史也さんたち四人の様子を遠目から見ていた清美さんと私の耳に、不意に別の男性の会話が聞こえてきた。
「またやってる、静ちゃんと史也のやつ」
「いい加減付き合えばいいのに、あの二人。史也も絶対意識してるだろ、静ちゃんのこと」
私たちが史也さんたちに集中している間に来たのだろう。団体客の別の男性二人が、受付カウンターの前を歩きながら遠目で史也さんたちを見ていた。
チラリと清美さんの方を見ると、ジッと目をそらすことなく史也さんと静さんの方を見つめていて、まるで苦痛に耐えるようにきつく唇を噛みしめていた。
さりげなく視線を史也さんたちの方へ移したときだ。どういう流れでそうなったのか、静さんが史也さんの腕に抱きついたのが目に入った。
「……っ」
あ、と思ったのと同時、清美さんは声にならない悲鳴のような声上げたあと、突然その場を駆け出した。
「ちょっ……!」
とっさに清美さんを呼び止めようと、口から飛び出しそうになったところを、なずなさんの手により塞がれる。
自販機周辺の団体客からは訝しげな視線がこちらに向けられているのを見て、自分が今、しようとした事の重大さに気がついた。
一般のお客様には清美さんの姿が見えていないと、あれほど心に留めていたはずなのに……。
それ以前に、たとえ見えていたとしても、民宿での勤務中にこんな風に突然声を上げること自体タブーだろう。
私はその場で「失礼いたしました」と頭を下げて、いそいそと清美さんのあとを追うように早足で移動した。
*
一旦見失ってしまった清美さんを見つけたのは、むすび屋の建物とはなれの周りを取り囲む生垣の上だった。
清美さんはそこで膝を抱えるように座っていた。
普通ならそんなところに座れば生垣が折れてしまいそうなものだが、そうならないのは彼女が幽霊だからなのだろう。
「うう……っ。ひっく……」
その場から動こうとしない清美さんをなんとか説得して、はなれにある私の部屋まで連れて来たはいいが、ずっとこんな調子で号泣している。
「すびばせん……。こんなになってしまって……」
「いえ……」
私のベッドに腰を下ろした清美さんは、肩を震わせる。
むすび屋の建物から出てしまったことで、今は清美さんに触れられない。だから涙を拭くこともできなくて、私は見守るようにそばにいるだけだ。
「……史也は、やっぱり静って呼ばれていた人のことを好きだと思いますか?」
しばらくして、少し落ち着いた清美さんが涙を拭ってこちらを見る。
食堂で執り行われていた宴会が終わり、後片付けに入った晃さんと拓也さんに事情を説明した。
今回の団体客は清美さんが呼び寄せたものであるということと、彼女の未練の対象となっている史也さんが団体客の中にいることを話すと、晃さんは清美さんのむすび屋での滞在を認め、改めて清美さんの担当を任せると私に告げた。
そうは言っても、むすび屋の客室は満室だ。
恐らく団体客の滞在中が清美さんの滞在期間になるのだろう。
そこで、清美さんからの許可をもらって、今夜はむすび屋のはなれにある宿舎の空き部屋を使ってもらうことにした。
部屋に移動する前に、むすび屋の中を見て回りたいという清美さんにの要望に応えて、建物内を案内する。
すると、ちょうど受付カウンター横に設置していた自動販売機のところでたむろしていた団体客を見て、清美さんが声を上げた。
「あの人です。あの、背が少し低くて可愛い感じの……」
見ると、若い男性三人と女性が一人。各部屋に人数分用意してある縦縞模様の紺色の浴衣を身につけて、各々缶コーヒーやスポーツドリンクの入ったペットボトルを片手に談笑している。
「静ちゃん、プリン味のジュース飲んでるの?」
「はい、普通に美味しいですよ。プリンをそのまま流動物にして飲んでる感じです。あ、史也くんも飲む?」
背の高い男性にそう答えたあと、清美さんの言った特徴の男性に向かって、静ちゃんと呼ばれた女性は缶を差し出す。
「は、俺? いや、いいよ」
「えー。史也くん、甘いの好きじゃん」
「そうだけど……。そんなにおすすめなら明日買って飲んでみることにするよ」
静さんは、不服そうに頬を膨らませる。
そんな史也さんと静さん、そして周囲の人のやり取りを、清美さんは少し寂しげな顔で見つめていた。
「静さんっていう人、史也の同僚の子なんですけど、史也のこと絶対狙ってますよね」
「あ……」
確かに。それは私も遠目からでも感じていた。
当然のことながら、一般のお客様には清美さんの存在は見えていない。
さすがに従業員の私が不自然に突っ立ってお客様の方を見ているのはまずいので、今は受付カウンターのところにいたなずなさんに事情を小声で説明して、受付のところから様子をうかがっている。
しばらく史也さんたち四人の様子を遠目から見ていた清美さんと私の耳に、不意に別の男性の会話が聞こえてきた。
「またやってる、静ちゃんと史也のやつ」
「いい加減付き合えばいいのに、あの二人。史也も絶対意識してるだろ、静ちゃんのこと」
私たちが史也さんたちに集中している間に来たのだろう。団体客の別の男性二人が、受付カウンターの前を歩きながら遠目で史也さんたちを見ていた。
チラリと清美さんの方を見ると、ジッと目をそらすことなく史也さんと静さんの方を見つめていて、まるで苦痛に耐えるようにきつく唇を噛みしめていた。
さりげなく視線を史也さんたちの方へ移したときだ。どういう流れでそうなったのか、静さんが史也さんの腕に抱きついたのが目に入った。
「……っ」
あ、と思ったのと同時、清美さんは声にならない悲鳴のような声上げたあと、突然その場を駆け出した。
「ちょっ……!」
とっさに清美さんを呼び止めようと、口から飛び出しそうになったところを、なずなさんの手により塞がれる。
自販機周辺の団体客からは訝しげな視線がこちらに向けられているのを見て、自分が今、しようとした事の重大さに気がついた。
一般のお客様には清美さんの姿が見えていないと、あれほど心に留めていたはずなのに……。
それ以前に、たとえ見えていたとしても、民宿での勤務中にこんな風に突然声を上げること自体タブーだろう。
私はその場で「失礼いたしました」と頭を下げて、いそいそと清美さんのあとを追うように早足で移動した。
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一旦見失ってしまった清美さんを見つけたのは、むすび屋の建物とはなれの周りを取り囲む生垣の上だった。
清美さんはそこで膝を抱えるように座っていた。
普通ならそんなところに座れば生垣が折れてしまいそうなものだが、そうならないのは彼女が幽霊だからなのだろう。
「うう……っ。ひっく……」
その場から動こうとしない清美さんをなんとか説得して、はなれにある私の部屋まで連れて来たはいいが、ずっとこんな調子で号泣している。
「すびばせん……。こんなになってしまって……」
「いえ……」
私のベッドに腰を下ろした清美さんは、肩を震わせる。
むすび屋の建物から出てしまったことで、今は清美さんに触れられない。だから涙を拭くこともできなくて、私は見守るようにそばにいるだけだ。
「……史也は、やっぱり静って呼ばれていた人のことを好きだと思いますか?」
しばらくして、少し落ち着いた清美さんが涙を拭ってこちらを見る。
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