伊予むすび屋の思い出ごはん

美和優希

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3.恋する特製カレーオムライス

3ー13

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「お願いがあるんです。私の気持ちを、史也に伝えてくれませんか?」

「それは……」

「お願いです。私が隣で史也への気持ちを話すので、それをそのまま伝えてくれるだけでいいんです」

 藁にもすがるような眼差しでこちらを見つめられる。


「史也は純粋だから、私がケイさんの隣にいるって聞いたら信じてくれると思います」

 どうしよう……。

 出来るならそうしたい気持ちはある。けれど、頭の中を過るのは晃さんの幽霊民宿というフレーズだ。

 むすび屋は、生きている人間のお客様の宿泊による収入で成り立っている。だからもし、表立ってそんな噂が囁かれることがあれば、細々と運営しているむすび屋はあっという間に存続の危機に陥るだろう。

 私が今簡単に決められる問題じゃない。


 私がこたえを出せずに唇を噛みしめていると、まるで救世主のようにコンコンと部屋をノックされる音が聞こえた。

 玄関の覗き穴から外を覗くと、そこには晃さんの姿があった。

 はなれの宿舎の自室に戻ったあとに、晃さんがこんな風に訪ねて来ることは初めてだ。

 たいてい何か連絡があるときはスマホの方に電話をかけてくるので、宿舎での行き来はなかった。

 清美さんに一言断って、玄関の鍵を開けて「はい」と顔を出すと、私の目の前に赤色の手帳のような物を突き出された。


「これ、食堂のテーブルに置き忘れてたぞ」

「ああっ!」

 赤色の手帳のようなものに見えたそれは、赤色の手帳型のケースにおさまったスマホだ。

 慌てて今着ている作務衣のポケットを確認するが、いつも入れているはずのところにスマホはなかった。


「すみません。ありがとうございます」

 きっと、夜のまかないをいただいたときに忘れてきたんだ。


「あの、晃さん!」

 私がスマホを受け取った瞬間、清美さんがまるで私を押し退けるような勢いで、晃さんの目の前に立ちはだかる。


「私、どうしても史也ともう一度話したいんです。ケイさんを通して史也と会話することはできませんか?」

 珍しく驚きに目を見開いた晃さんは、清美さんが私の部屋にいたことに少しホッとしたようだった。


「……清美さん。見つかったのか」

 だけど、清美さんは晃さんの安堵する言葉を気に留めることなく、涙ながらに自らの想いを訴える。


「史也に幸せになってほしいんです。史也が過去に縛られたままでいる限り、私は成仏できません。成仏したら今みたいに史也のそばには居られなくなるのかもしれないけれど、あんな史也を見続けるのはもっとつらいです。だから私の言葉を史也に届けてほしいんです……」


 晃さんは、何てこたえるのだろう。

 ほとんど表情を変化させていないから、何を考えているのかイマイチわからない。

 数秒間の沈黙の後、晃さんが口を開いた。


「……わかりました。清美さんの想いを私たちの方から伝えるという形を取るのであれば、可能だと思います」

 その瞬間、ぱああと花が咲くように清美さんの顔がほころぶ。


「本当に!?」

「それでもよろしいですか?」

「もちろん。やったー!」

 許可が下りて、清美さんは子どもみたいに無邪気に喜ぶ。


「ええっ!?」

 私もつい驚きの声をあげてしまった。

 ちょっと、晃さん、さっき言ってたことと違う!

 そんな私の無言の訴えに気づいたのだろう。

 晃さんは私にそっと耳打ちする。


「さっきの話。清美さんと史也さんを直接会話させようとすることに無理があるって言ったんだ。和樹のときにもしたように、清美さんの想いをケイの言葉で伝えることならできるだろ」

「え……。でもそれじゃあ胡散臭く聞こえませんか?」


 和樹くんのときとは状況が違う。あのときは彼女役としてお兄さんに会っていたからどうにかなったけど、史也さんにとって私は清美さんと何の関係もない、ただの民宿の従業員だ。


「史也さんと接触がなかった昨日までならともかく、史也さんはおまえに清美さんと静さんの件で自分から話を持ちかけている。それとなく、清美さんの意向に添うように史也さんの背を押すことならできるんじゃないか?」

「…………」
 
 どうだろう。私にそんな大役できるのかな……。 

 できるともできないとも言えず、言葉に詰まる。

 だけど、すでにこちらの話は全く耳に届いてないであろう、くるくると部屋を回って喜ぶ清美さんを前にして、無理ですとも言いづらかった。

 腹をくくるしかないのだろう。


「……わかりました。自信はないですがやるだけやってみます」

「大丈夫だ。おまえは一人じゃない。俺らもできる限りのことはする」

 再びもらった一人じゃないという言葉に、胸がじんと熱くなった。
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