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4.親子をむすぶいよかんムース
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「だからその方法を一緒に考えるんです」
「考えたって無駄よ。もういいのよ。自業自得だから、仕方ないもの」
お母さんに最初のときのような勢いはなく、あきらめた声に悲しくなる。
「どうしてですか。ここまで晃さんに会いに来たんでしょう? それなのに、見てるだけだなんて……」
「いいのよ、それで。この前のであの子の気持ちはわかったから」
「ですが、……」
「もう良いじゃない。死んでまで、もうこれ以上傷つきたくないの」
叫ぶように告げた彼女は、絶望を滲ませた瞳でこちらを見つめていた。
晃さんは、確かにお母さんに傷つけられた。
だけど一方で、生きていたときからずっとお母さんも傷ついていたことを、その目が物語っているようだった。
これ以上、心が傷つかないように、守りに入っているのだろう。
「同情なんていらないわ」
小さな声で吐き捨てるように言うと、放っておいてと言わんばかりにむすび屋から山の茂みの方へ消えていった。
私はその背中を追いかけることはできなかった。
お母さんの悲痛の叫びを聞いて、絶望を表した顔を見て、同情なんかいらないと言われて、何とも言いがたいモヤモヤとした気持ちが私の中に渦巻いていた。
私は、お母さんに同情していたのだろうか。
少し考えて、小さく首を横にふる。
元夫の借金も、恋人の死も、そこから起こったすれ違いも、お母さんがとてもつらい想いをしてきたことはわかる。
けれど、私はそれが可哀想だから同情したわけではないのだ。
私はただ助けたかったのだ、むすび屋に居場所をくれた晃さんのことを。
お母さんと話して本当の気持ちを、真実を知ってしまったから、余計に無視できなかった。
また複雑に絡まった糸をほどくことで、晃さんだけでなくお母さんのことも救えるのではないかと思っていた。
しかしお母さんは過去に相手を傷つけておきながら自分は傷つきたくないからと遠巻きに様子をうかがうだけで、晃さんは頑なに母親の存在を拒絶している。
どうしたら上手くいくのだろう。
助けたい気持ちは確かなのに、今の状況を打破する方法がわからない。悔しくて思わず拳を握りしめる。
アスファルトにできた数粒の小さな黒い染みを、私は見つめた。
「ケイちゃんやん。どしたん?」
少しして不意に呼びかけられて顔を上げると、拓也さんが前かごに新鮮な野菜が入ったポリ袋を突っ込んだ自転車を押しながら歩いてきていた。
両親の経営する旅館の方に食材を分けてもらいに行ってくると聞いていたが、今戻ってきたのだろう。
「いえ、何でもないです」
拓也さんは道路の端で自転車のスタンドを立てると、野菜の袋はそのままおいて、私の方へ近づいてくる。
そして、私の目をじっと見つめてきたかと思いきや、軽くおでこを人さし指で小突かれた。
「わっ」
「嘘つくなや」
それ自体は大した力ではなかったけれど、全く想定していなかったために、思わず二、三歩後ろによろける。
踏みとどまって拓也さんの顔を見上げると、拓也さんはふざけていない真剣な面持ちでこちらを見つめていた。
「晃のお母さんと、何を話しとったん?」
「だから何も話してな……」
「ほやけん、嘘つくなって言よろうが!」
すごい剣幕で怒る拓也さんに、思わず肩をビクつかせる。
そんな私を見て、拓也さんは小さく息を吐き出すと「ごめん、怖がらせるつもりはなかったんよ」と呟くように言った。
「でも嘘つかれるんは悲しい。俺らはケイちゃんの味方やと思っとるのに、ケイちゃんは違うん? そこで見とったけん。ケイちゃんが、晃のお母さんと話しよんの。やけん、本当のこと言ってや」
「……え」
拓也さんが指さしたのは、私がさっきお母さんと話していた場所のすぐそばだ。
ちょうど私がそこに対して背を向けて立っているような形になっていたために、全く気がつかなかった。
「考えたって無駄よ。もういいのよ。自業自得だから、仕方ないもの」
お母さんに最初のときのような勢いはなく、あきらめた声に悲しくなる。
「どうしてですか。ここまで晃さんに会いに来たんでしょう? それなのに、見てるだけだなんて……」
「いいのよ、それで。この前のであの子の気持ちはわかったから」
「ですが、……」
「もう良いじゃない。死んでまで、もうこれ以上傷つきたくないの」
叫ぶように告げた彼女は、絶望を滲ませた瞳でこちらを見つめていた。
晃さんは、確かにお母さんに傷つけられた。
だけど一方で、生きていたときからずっとお母さんも傷ついていたことを、その目が物語っているようだった。
これ以上、心が傷つかないように、守りに入っているのだろう。
「同情なんていらないわ」
小さな声で吐き捨てるように言うと、放っておいてと言わんばかりにむすび屋から山の茂みの方へ消えていった。
私はその背中を追いかけることはできなかった。
お母さんの悲痛の叫びを聞いて、絶望を表した顔を見て、同情なんかいらないと言われて、何とも言いがたいモヤモヤとした気持ちが私の中に渦巻いていた。
私は、お母さんに同情していたのだろうか。
少し考えて、小さく首を横にふる。
元夫の借金も、恋人の死も、そこから起こったすれ違いも、お母さんがとてもつらい想いをしてきたことはわかる。
けれど、私はそれが可哀想だから同情したわけではないのだ。
私はただ助けたかったのだ、むすび屋に居場所をくれた晃さんのことを。
お母さんと話して本当の気持ちを、真実を知ってしまったから、余計に無視できなかった。
また複雑に絡まった糸をほどくことで、晃さんだけでなくお母さんのことも救えるのではないかと思っていた。
しかしお母さんは過去に相手を傷つけておきながら自分は傷つきたくないからと遠巻きに様子をうかがうだけで、晃さんは頑なに母親の存在を拒絶している。
どうしたら上手くいくのだろう。
助けたい気持ちは確かなのに、今の状況を打破する方法がわからない。悔しくて思わず拳を握りしめる。
アスファルトにできた数粒の小さな黒い染みを、私は見つめた。
「ケイちゃんやん。どしたん?」
少しして不意に呼びかけられて顔を上げると、拓也さんが前かごに新鮮な野菜が入ったポリ袋を突っ込んだ自転車を押しながら歩いてきていた。
両親の経営する旅館の方に食材を分けてもらいに行ってくると聞いていたが、今戻ってきたのだろう。
「いえ、何でもないです」
拓也さんは道路の端で自転車のスタンドを立てると、野菜の袋はそのままおいて、私の方へ近づいてくる。
そして、私の目をじっと見つめてきたかと思いきや、軽くおでこを人さし指で小突かれた。
「わっ」
「嘘つくなや」
それ自体は大した力ではなかったけれど、全く想定していなかったために、思わず二、三歩後ろによろける。
踏みとどまって拓也さんの顔を見上げると、拓也さんはふざけていない真剣な面持ちでこちらを見つめていた。
「晃のお母さんと、何を話しとったん?」
「だから何も話してな……」
「ほやけん、嘘つくなって言よろうが!」
すごい剣幕で怒る拓也さんに、思わず肩をビクつかせる。
そんな私を見て、拓也さんは小さく息を吐き出すと「ごめん、怖がらせるつもりはなかったんよ」と呟くように言った。
「でも嘘つかれるんは悲しい。俺らはケイちゃんの味方やと思っとるのに、ケイちゃんは違うん? そこで見とったけん。ケイちゃんが、晃のお母さんと話しよんの。やけん、本当のこと言ってや」
「……え」
拓也さんが指さしたのは、私がさっきお母さんと話していた場所のすぐそばだ。
ちょうど私がそこに対して背を向けて立っているような形になっていたために、全く気がつかなかった。
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