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4.親子をむすぶいよかんムース
4ー17
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ほんのわずか、晃さんが迷いを見せるように瞳が揺れ動いたのを見逃さなかった。
私は最後にもう一度訴えかけるように晃さんを見つめた。
「だから、一緒に戻りましょう」
一度、お母さんに拒絶された晃さんの心は傷ついたまま、今も疼いている。
私だって同じ幽霊が見える体質を持ってうまれたから、拒絶されるつらさはわかっているつもりだ。
たとえはっきりと声に出さなくても、その場の空気が自分を受け入れてくれない居心地の悪さは、何度も味わってきた。
幽霊が見える人はかなり少数派で、受け入れてもらえないのが怖くて、突き放されるのが怖くて、ほんの数ヶ月前までは自分を偽って生きてきた。
そんな私をむすび屋で受け入れてくれた晃さんが、以前私にかけてくれた言葉と想いを、私も晃さんに贈りたい。
「私は晃さんの味方です。晃さんは一人じゃないですよ」
すでに飲み干された缶コーヒーを持つ大きな手に手を添えると、クールのコーヒー缶で冷えたのか晃さんの手は冷たかった。
暫しの沈黙が続く。
やっぱり、また突っぱねられるのだろうか。
不安に駆られてネガティブな思考が巡りはじめたそのとき、私の頭上から大きく息を吐き出す音が聞こえた。
再び見上げると、晃さんがこちらを見て口を開くところだった。
「……わかったよ。おまえに免じて行ってやる」
「本当ですか!?」
「今回だけだからな」
よかった……。
あとは、二人が上手く想いを伝えられるかどうかだ。
*
「戻りました」
むすび屋の食堂に戻ると、拓也さんは厨房に、お母さんは私が出て行ったときと同じ場所にいた。
「……お帰り。本当に連れて帰ってきたし」
拓也さんは驚いたように呟いていたけれど、さっき晃さんと揉み合ったからか、晃さんとは目を合わさないようにしているように見える。
お母さんは、晃さんの再登場に声が出ないようだった。
そんな二人を見て、晃さんはひとつため息を落とすと、お母さんの座っている席のすぐ近くへと歩いていく。
「何で幽霊になってまで会いに来た」
「……晃。ごめんなさい。ごめんなさい……」
声をかけたものの、ごめんなさいを繰り返して涙を流すお母さんに、晃さんは困ったように眉を寄せた。
「あなたを傷つけて、寂しい想いをさせて、ごめんなさい」
ひとしきり謝ったあと、お母さんは話を切り出した。
「覚えてる? 春彦おじさんのこと」
「母さんの再婚相手だろ。俺は会ったことないけど」
「そうね、再婚する予定だと以前一度だけ話したことがあったわよね。でも結局、再婚はしなかったの」
私に話してくれた、亡くなってしまった恋人というのが春彦さんという男性なのだろう。
「……は?」
晃さんもその存在を知っていたみたいだけど、まるで再婚していると思い込んでいるような反応だ。
「再婚できなくなってしまった、というのが合ってるかな。気持ちの整理がつかなくて話せてなかったけど、春彦おじさんはね、あなたを手放す前に亡くなっていたの。交通事故だったわ」
「嘘だ……。だって母さんは、再婚するのに俺が邪魔で捨てたんじゃ……」
「違う! 本当は、再婚して三人で暮らしていくつもりだったの」
「……じゃあ何で」
責めるような晃さんの口調。
お母さんはそれにも怯まず、晃さんを見据える。
「再婚しようとしていたときに、別れた夫、つまりあなたのお父さんのことだけど……。彼が私の名前で借金をしていたことが発覚したの」
晃さんの眉が、ピクリと反応する。
「けれど、借金のことは春彦さんも一緒に返していこうって言ってくれたわ。申し訳なさもあったけど心の支えだった。三人で過ごす未来も前向きに考えられていた。それなのに、すぐに春彦さんが亡くなってしまって、私はどうしていいかわからなくなってしまった……」
ひとつ、ひとつ、過去、伝えられなかった真実が、お母さんの口から紡がれていく。
晃さんは初めて聞く内容に静かに耳を傾けているようだった。
「心が不安定になってパニックを起こす度に、晃を傷つけてしまって、本当にごめんなさい。信じてもらえないかもしれないけれど、本心なんかじゃなかった。あなたを邪魔に思ったことなんて一度もないの。晃をおじいちゃんたちに託したのも、借金を抱えて一緒に生活することで、晃に不自由な思いやつらい思いをさせたくなかったからよ。私も自分の感情をコントロールできなくなっていたから、余計に今まで通りの生活はできないと思ったの……」
泣いてしまうと上手く話せなくなってしまうから、お母さんはあふれそうになる涙を堪えながら伝えていく。
私は最後にもう一度訴えかけるように晃さんを見つめた。
「だから、一緒に戻りましょう」
一度、お母さんに拒絶された晃さんの心は傷ついたまま、今も疼いている。
私だって同じ幽霊が見える体質を持ってうまれたから、拒絶されるつらさはわかっているつもりだ。
たとえはっきりと声に出さなくても、その場の空気が自分を受け入れてくれない居心地の悪さは、何度も味わってきた。
幽霊が見える人はかなり少数派で、受け入れてもらえないのが怖くて、突き放されるのが怖くて、ほんの数ヶ月前までは自分を偽って生きてきた。
そんな私をむすび屋で受け入れてくれた晃さんが、以前私にかけてくれた言葉と想いを、私も晃さんに贈りたい。
「私は晃さんの味方です。晃さんは一人じゃないですよ」
すでに飲み干された缶コーヒーを持つ大きな手に手を添えると、クールのコーヒー缶で冷えたのか晃さんの手は冷たかった。
暫しの沈黙が続く。
やっぱり、また突っぱねられるのだろうか。
不安に駆られてネガティブな思考が巡りはじめたそのとき、私の頭上から大きく息を吐き出す音が聞こえた。
再び見上げると、晃さんがこちらを見て口を開くところだった。
「……わかったよ。おまえに免じて行ってやる」
「本当ですか!?」
「今回だけだからな」
よかった……。
あとは、二人が上手く想いを伝えられるかどうかだ。
*
「戻りました」
むすび屋の食堂に戻ると、拓也さんは厨房に、お母さんは私が出て行ったときと同じ場所にいた。
「……お帰り。本当に連れて帰ってきたし」
拓也さんは驚いたように呟いていたけれど、さっき晃さんと揉み合ったからか、晃さんとは目を合わさないようにしているように見える。
お母さんは、晃さんの再登場に声が出ないようだった。
そんな二人を見て、晃さんはひとつため息を落とすと、お母さんの座っている席のすぐ近くへと歩いていく。
「何で幽霊になってまで会いに来た」
「……晃。ごめんなさい。ごめんなさい……」
声をかけたものの、ごめんなさいを繰り返して涙を流すお母さんに、晃さんは困ったように眉を寄せた。
「あなたを傷つけて、寂しい想いをさせて、ごめんなさい」
ひとしきり謝ったあと、お母さんは話を切り出した。
「覚えてる? 春彦おじさんのこと」
「母さんの再婚相手だろ。俺は会ったことないけど」
「そうね、再婚する予定だと以前一度だけ話したことがあったわよね。でも結局、再婚はしなかったの」
私に話してくれた、亡くなってしまった恋人というのが春彦さんという男性なのだろう。
「……は?」
晃さんもその存在を知っていたみたいだけど、まるで再婚していると思い込んでいるような反応だ。
「再婚できなくなってしまった、というのが合ってるかな。気持ちの整理がつかなくて話せてなかったけど、春彦おじさんはね、あなたを手放す前に亡くなっていたの。交通事故だったわ」
「嘘だ……。だって母さんは、再婚するのに俺が邪魔で捨てたんじゃ……」
「違う! 本当は、再婚して三人で暮らしていくつもりだったの」
「……じゃあ何で」
責めるような晃さんの口調。
お母さんはそれにも怯まず、晃さんを見据える。
「再婚しようとしていたときに、別れた夫、つまりあなたのお父さんのことだけど……。彼が私の名前で借金をしていたことが発覚したの」
晃さんの眉が、ピクリと反応する。
「けれど、借金のことは春彦さんも一緒に返していこうって言ってくれたわ。申し訳なさもあったけど心の支えだった。三人で過ごす未来も前向きに考えられていた。それなのに、すぐに春彦さんが亡くなってしまって、私はどうしていいかわからなくなってしまった……」
ひとつ、ひとつ、過去、伝えられなかった真実が、お母さんの口から紡がれていく。
晃さんは初めて聞く内容に静かに耳を傾けているようだった。
「心が不安定になってパニックを起こす度に、晃を傷つけてしまって、本当にごめんなさい。信じてもらえないかもしれないけれど、本心なんかじゃなかった。あなたを邪魔に思ったことなんて一度もないの。晃をおじいちゃんたちに託したのも、借金を抱えて一緒に生活することで、晃に不自由な思いやつらい思いをさせたくなかったからよ。私も自分の感情をコントロールできなくなっていたから、余計に今まで通りの生活はできないと思ったの……」
泣いてしまうと上手く話せなくなってしまうから、お母さんはあふれそうになる涙を堪えながら伝えていく。
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