65 / 69
4.親子をむすぶいよかんムース
4ー18
しおりを挟む
「借金が返し終わって、パニックの症状も出なくなったときには、晃をまた引き取りたいという思いがあったわ。一緒に暮らさなくなってからも、毎日晃に会いたいと思っていたし、声だけでも聞きたかった。だけど……晃をおじいさんに預ける頃には、散々あなたの心を傷つけてしまったせいで私と口も効いてくれなくなっていたから、もう話す資格すらないんだと思ったら電話すらできなかった。それからは拒絶されるのが怖くて、ずっと逃げ続けていたわ」
お母さんは懺悔するように言葉を続けた。
晃さんも、少し前までお母さんのことをあれだけ拒絶していたのが嘘のように、言葉のひとつひとつを受け取っているように見える。
「だけど、晃から嫌われてたって電話して会いに行けばよかった……。借金を返し終わって、ようやく謝りに行こうと決心した矢先、それまでの過労がたたって、死んじゃった」
悲しそうに、でも、重苦しくなった空気を壊すようにお母さんは小さく笑った。
「あなたのことが嫌いだったわけでも要らなくなったわけでもないの。あの頃も、今も、あなたは変わらずに私の大切な一人息子よ」
一通りお母さんの話を聞き終えて、ようやく晃さんが口を開いた。
「……何だよ、それ」
困惑、怒り、悲しみ。やっぱりそのような感情が滲み出ているように見えるが、今までと違って、晃さんの声からは攻撃的な印象はなくなっていた。
「俺はずっと、母さんが再婚するのに俺が邪魔になったから、キモチワルイ能力を持った子どもを連れて再婚したって父さんのときみたいに幸せになれないから、俺のことを家から追い出したんだと思ってた」
晃さんが幼い頃に抱いた気持ちをぶつけると、お母さんは即座に声を上げた。
「それは違うわ……! 春彦おじさんは、あなたのことを話しても受け入れてくれてたわ。だから再婚を考えたんだもの!」
誤解を与えないよう必死に言葉を紡いでいるのが、そばで見ててわかった。
「それに実は、あなたも一度、春彦おじさんを見たことがあるのよ。覚えているかしら……。お母さんに寄り添うように、眼鏡をかけた優しそうな男の人がいるって、教えてくれたことがあったでしょう?」
晃さんはまるで信じられないとばかりに目を見張って、戸惑うように口を開いた。
「あの人が……? じゃあ、あのときにはもう亡くなって……」
自分が見えたものを話した。晃さんにとっては悪気ない発言がお母さんの傷を抉ってしまったと思ったのだろう。
晃さんは先ほどまでの勢いをなくして唇を噛み締める。
「あのときはつらくて、酷い言葉を言ってごめんなさい。だけど、私は晃に感謝しているの」
「感謝って?」
「春彦おじさんがお母さんのそばにいるって、晃が教えてくれたから。晃を預けて一人になってから毎日つらかったけれど、どんなことがあってもそばで見守ってくれている存在がいるからと心強く思えたの。だから、ありがとう」
お母さんが深く頭を下げると、床に涙が落ちるのが見えた。
しばらくの沈黙のあと、晃さんが小さく息を吐き出した。
「……再婚相手のことも、父さんの借金のことも、母さんのパニックのことも、何も知らなかったんだから、今更なんて言っていいかわかんねえよ」
晃さんは何も知らされていなかったのだから無理ないだろう。
お母さんにも理解できたのか、グッと押し黙る。
「本当のことを知っていたら、俺だって高校からバイトしたのに……。そうすれば少しは母さんの負担も減って、過労死だって防げたんじゃないのかよ」
「晃ならそう言うと思った。晃は優しい子だったから。無理させたくなかったの」
「…………」
「ごめんね、晃の気持ちを無視してばっかりの母親で。本当にごめんなさい。謝ったって許されないようなことをしたっていうのはわかってるつもりよ。だから許してくれなくていいの。むしろ、今日、話を聞いてくれて嬉しかったわ」
何を言い返すでもなく、晃さんは唇を噛み締めながらお母さんの話を聞いているようだった。
お母さんは本当に想いを伝えることが第一だったようで、そんな晃さんの様子を見て、少しお母さんを取り巻く空気が変わった。
お母さんが、うっすらと光っているのだ。
むすび屋に初めて来たときから、こういった光景は何度も見てきた。
もうお別れの時間は近い。
お母さんは懺悔するように言葉を続けた。
晃さんも、少し前までお母さんのことをあれだけ拒絶していたのが嘘のように、言葉のひとつひとつを受け取っているように見える。
「だけど、晃から嫌われてたって電話して会いに行けばよかった……。借金を返し終わって、ようやく謝りに行こうと決心した矢先、それまでの過労がたたって、死んじゃった」
悲しそうに、でも、重苦しくなった空気を壊すようにお母さんは小さく笑った。
「あなたのことが嫌いだったわけでも要らなくなったわけでもないの。あの頃も、今も、あなたは変わらずに私の大切な一人息子よ」
一通りお母さんの話を聞き終えて、ようやく晃さんが口を開いた。
「……何だよ、それ」
困惑、怒り、悲しみ。やっぱりそのような感情が滲み出ているように見えるが、今までと違って、晃さんの声からは攻撃的な印象はなくなっていた。
「俺はずっと、母さんが再婚するのに俺が邪魔になったから、キモチワルイ能力を持った子どもを連れて再婚したって父さんのときみたいに幸せになれないから、俺のことを家から追い出したんだと思ってた」
晃さんが幼い頃に抱いた気持ちをぶつけると、お母さんは即座に声を上げた。
「それは違うわ……! 春彦おじさんは、あなたのことを話しても受け入れてくれてたわ。だから再婚を考えたんだもの!」
誤解を与えないよう必死に言葉を紡いでいるのが、そばで見ててわかった。
「それに実は、あなたも一度、春彦おじさんを見たことがあるのよ。覚えているかしら……。お母さんに寄り添うように、眼鏡をかけた優しそうな男の人がいるって、教えてくれたことがあったでしょう?」
晃さんはまるで信じられないとばかりに目を見張って、戸惑うように口を開いた。
「あの人が……? じゃあ、あのときにはもう亡くなって……」
自分が見えたものを話した。晃さんにとっては悪気ない発言がお母さんの傷を抉ってしまったと思ったのだろう。
晃さんは先ほどまでの勢いをなくして唇を噛み締める。
「あのときはつらくて、酷い言葉を言ってごめんなさい。だけど、私は晃に感謝しているの」
「感謝って?」
「春彦おじさんがお母さんのそばにいるって、晃が教えてくれたから。晃を預けて一人になってから毎日つらかったけれど、どんなことがあってもそばで見守ってくれている存在がいるからと心強く思えたの。だから、ありがとう」
お母さんが深く頭を下げると、床に涙が落ちるのが見えた。
しばらくの沈黙のあと、晃さんが小さく息を吐き出した。
「……再婚相手のことも、父さんの借金のことも、母さんのパニックのことも、何も知らなかったんだから、今更なんて言っていいかわかんねえよ」
晃さんは何も知らされていなかったのだから無理ないだろう。
お母さんにも理解できたのか、グッと押し黙る。
「本当のことを知っていたら、俺だって高校からバイトしたのに……。そうすれば少しは母さんの負担も減って、過労死だって防げたんじゃないのかよ」
「晃ならそう言うと思った。晃は優しい子だったから。無理させたくなかったの」
「…………」
「ごめんね、晃の気持ちを無視してばっかりの母親で。本当にごめんなさい。謝ったって許されないようなことをしたっていうのはわかってるつもりよ。だから許してくれなくていいの。むしろ、今日、話を聞いてくれて嬉しかったわ」
何を言い返すでもなく、晃さんは唇を噛み締めながらお母さんの話を聞いているようだった。
お母さんは本当に想いを伝えることが第一だったようで、そんな晃さんの様子を見て、少しお母さんを取り巻く空気が変わった。
お母さんが、うっすらと光っているのだ。
むすび屋に初めて来たときから、こういった光景は何度も見てきた。
もうお別れの時間は近い。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
還暦の性 若い彼との恋愛模様
MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。
そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。
その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。
全7話
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい
設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀
結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。
結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。
それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて
しなかった。
呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。
それなのに、私と別れたくないなんて信じられない
世迷言を言ってくる夫。
だめだめ、信用できないからね~。
さようなら。
*******.✿..✿.*******
◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才 会社員
◇ 日比野ひまり 32才
◇ 石田唯 29才 滉星の同僚
◇新堂冬也 25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社)
2025.4.11 完結 25649字
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる