伊予むすび屋の思い出ごはん

美和優希

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4.親子をむすぶいよかんムース

4ー19

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「そう、最後にね、いよかんムースを作ったの!」

 そして、お母さんは穏やかな表情で両手をぱちんと胸の前で合わせると、厨房の冷蔵庫の方まで早足で移動する。


「晃、好きだったでしょ? これで許してもらおうなんて思ってないけど、今までごめんねと強く生きてくれてありがとうの気持ちを込めて作ったの」

 お盆の上にムースを四つ乗せてこちらに戻ってくると、お母さんはテーブルの上にひとつずつムースを並べる。


「よかったら食べてちょうだい。ケイさんも拓也くんも、ほら」

 お母さんは晃さんだけでなく、私たちのことも手招きしてくれる。

 厨房のそばからこちらの成り行きを見守っていた拓也さんはどうするのかと見やると、私の無言の問いかけに答えるようにうなずいて、お母さんのいるテーブルへと向かう。

 私もそれにならって、お母さんの隣、拓也さんの向かいの席に腰を下ろした。

 私たちの視線を受けた晃さんは、今も硬い表情を浮かべていたものの、ゆっくりこちらに歩いてきてお母さんの真向かいの席まで来てくれた。


「じゃあ食べましょう?」


 お母さんの言葉を合図に「いただきます」と口に含めば、一気にいよかんの香りが広がる。


「美味しい……」

 ヨーグルトといよかんの酸味が良い味を出している。

 本当ならもっと口に出して絶賛したいところだが、それをしてしまうと晃さんやお母さんが何かを伝えようと思ってもそれを妨げてしまう気がする。

 晃さんの方を見ると、最初はじっといよかんムースを見つめているだけだったが、次第にムースを口に運ぶ。


「……懐かしいな」

 数口食べたところで、晃さんは静かにそう言った。

 幼い晃さんが好きで、いつも作っていたといういよかんのムース。

 傷つけ合って最後にはつらい思い出となってしまった二人にも、幸せだった頃の記憶は残っているのだろう。

 その頃の思い出が晃さんの頭の中に蘇っているのかはわからないけれど、晃さんの声は穏やかな優しいもののように聞こえた。


 そして、さっきまでの晃さんから想像できただろうか。

「美味しいよ、母さん。ありがとう」

 晃さんは、はっきりとお母さんに向かってそう言ったのだ。


「晃……」

「俺はずっと母さんのことを恨んでた。再婚相手と幸せになるために俺を捨てたと思っていたし、何だかんだ言って俺のことは邪魔なんだろうなって」

 でも、と晃さんは続ける。


「でも……、誤解してたってのもあるし、思うことはいろいろあるけど、もっとちゃんと母さんの話を聞けてたらよかったな」

「いいのよ、もう。今、こうして話を聞いてくれたじゃない」

「生きてるうちに聞いとけばよかったって意味だよ」


 顔を伏せて片手で覆う晃さんのそばに行って、お母さんは小さい子どもにするように晃さんの頭をよしよしする。


「ごめんね、本当にごめんね」

「……やめろよ」

 晃さんのその声は少し涙ぐんでいて、今まで我慢していた感情や想いの表れなのかなと感じた。言葉とは裏腹に、お母さんの手を押しのけるようなことはしなかった。


「いいじゃない、最後くらい」

 お母さんも泣いていた。


 思うことはいろいろあると言っていた晃さんが、お母さんのしたことを心の底から許せているかはわからない。本当の意味で許すことができるのは、もっと時間が経ってからかもしれない。

 だけど、どんなに傷つけられても、きっとお母さんのことを完全には嫌いになれなかったんだろう。

 幼い頃に傷つけられて、長い間大人になっても強くお母さんのことを恨んでいたのは、きっとそれだけ幼い頃の晃さんがお母さんのことを大好きだったからなのかな……。

 お母さんは、晃さんがいよかんムースを食べ終えるのを見届けて、空気に溶けるように消えていった。

 晃さんは、いつも通りに戻っていたけれど、その表情はどこか晴れやかで穏やかなものに見えた。
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