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2.嘘つきな僕と初恋の思い出
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不安そうに僕の手を引いて、突然その場に立ち止まったのだ。
「どうしたの? しんどくなった?」
「あ。ううん、大丈夫……」
僕を引き留めておきながら、花穂は戸惑うように首を横に振る。
言葉と裏腹に、とてもじゃないけど花穂は大丈夫そうには見えない。
どういうわけか、花穂の視線は少し先の一点に定められているように見える。
何だろうと僕は花穂の視線の先をたどる。その先を見て、ドクンと心臓がいやな音を立てた。だけど、それと同時に合点した。
そこにあったのは、お祭りのあった公園へと続く路地だったのだから。
ここから遠目に、公園のフェンスが見えていたんだ。
花穂が事故のショックで記憶をなくしているのなら、事故現場の公園は刺激が強すぎるだろうと思って、後回しにするはずだった。
しかし今日は通っていた中学に足を運んでみることにしていたのだが、わりと近くの大通りを通らなければならなかったんだ。
事故現場の公園の目の前を通るわけではないから、完全に盲点になっていた。
というのも、否応なしに公園が目に飛び込んでくるような感じではなく、知ってる人が見れば、公園の広場の部分を囲むように立てられた背の高いフェンスが遠目に見えている程度だったのだから。
フェンスの一部は事故によって破れてしまい、今は部分的に青いシートで覆われているのが小さく見える。
少し離れているというのに、目ざとく事故現場の公園を見つけてしまうあたり、花穂の潜在的な何かがその場所に敏感に反応してしまっているのだろう。
「辛い……?」
僕が聞くと、花穂は弾かれたように僕を見る。
「ううん。あそこは、何?」
事故現場の公園から目をそらすことなく、花穂は僕にたずねる。
「事故のあった夏祭りのあった公園だよ」
「あそこが……」
花穂は事故に遭った瞬間のことも覚えていない。
けど、事故に遭ったことは聞かされて知っているからか、それほど驚いた様子ではなかった。
なるべく早く通りすぎてしまった方がいいのかと思った。
「……少し、見て行っていい?」
しかし、花穂はそんなことを言って、さっきまで不安げに僕を引き留めた手を引いて歩き始める。
花穂は特別何も言わないけど、何か思うところがあるのだろうか。
目的の場所で足を止めると、花穂はお祭りのあった事故現場の公園をフェンス越しに見つめる。
事故現場はすでに綺麗に片付けられていて、一見、ボール遊びもできる広場のついた何の変哲もない公園だ。
かつては子どもの声が響いていたものの、事故があってからはどこか閑散としてしまった公園内。その中にどこか重々しい空気が流れているように感じるのは、きっと気のせいではないだろう。
破れたフェンスを覆うブルーシートの前には、いくつかの花が供えられている。
花穂は、何を言うでもなく、ただ誰もいない広場の地面に視線を落としているようだった。
その横顔はどこか寂しそうで、もしかして何かを思い出したんじゃないのかと感じた。
「花穂……?」
だけど、僕に声をかけられた花穂は少し驚いたように肩を震わせると、僕の方を向いて困ったように眉を下げた。
「ごめんね、何となく事故現場って聞いたら何か思い出せると思ったのにね。胸が苦しくなるだけで、何も思い出せなかった……」
「そっか……」
花穂が本当に何も思い出せていないことは、どんな事故だったの?と続けて聞いてきたことからも明らかだった。
兄ちゃんのことまでは、さすがに話せなかった。
事故の概要を聞いたあと僕の供えた花に向かって手を合わせる花穂を見ていると、何ともいえない罪悪感に襲われるのだった。
そして、ここまで花穂にとって印象深いところを目にしても花穂の記憶がほとんど戻らないことに、僕自身ショックを受けた。
だけど、何も思い出せなかったとしても、この場所に花穂が反応したということから、花穂の中で些細な変化があったのだと願いたい。
小さな記憶のカケラを探していくことしか、僕たちにはできないのだから。
「どうしたの? しんどくなった?」
「あ。ううん、大丈夫……」
僕を引き留めておきながら、花穂は戸惑うように首を横に振る。
言葉と裏腹に、とてもじゃないけど花穂は大丈夫そうには見えない。
どういうわけか、花穂の視線は少し先の一点に定められているように見える。
何だろうと僕は花穂の視線の先をたどる。その先を見て、ドクンと心臓がいやな音を立てた。だけど、それと同時に合点した。
そこにあったのは、お祭りのあった公園へと続く路地だったのだから。
ここから遠目に、公園のフェンスが見えていたんだ。
花穂が事故のショックで記憶をなくしているのなら、事故現場の公園は刺激が強すぎるだろうと思って、後回しにするはずだった。
しかし今日は通っていた中学に足を運んでみることにしていたのだが、わりと近くの大通りを通らなければならなかったんだ。
事故現場の公園の目の前を通るわけではないから、完全に盲点になっていた。
というのも、否応なしに公園が目に飛び込んでくるような感じではなく、知ってる人が見れば、公園の広場の部分を囲むように立てられた背の高いフェンスが遠目に見えている程度だったのだから。
フェンスの一部は事故によって破れてしまい、今は部分的に青いシートで覆われているのが小さく見える。
少し離れているというのに、目ざとく事故現場の公園を見つけてしまうあたり、花穂の潜在的な何かがその場所に敏感に反応してしまっているのだろう。
「辛い……?」
僕が聞くと、花穂は弾かれたように僕を見る。
「ううん。あそこは、何?」
事故現場の公園から目をそらすことなく、花穂は僕にたずねる。
「事故のあった夏祭りのあった公園だよ」
「あそこが……」
花穂は事故に遭った瞬間のことも覚えていない。
けど、事故に遭ったことは聞かされて知っているからか、それほど驚いた様子ではなかった。
なるべく早く通りすぎてしまった方がいいのかと思った。
「……少し、見て行っていい?」
しかし、花穂はそんなことを言って、さっきまで不安げに僕を引き留めた手を引いて歩き始める。
花穂は特別何も言わないけど、何か思うところがあるのだろうか。
目的の場所で足を止めると、花穂はお祭りのあった事故現場の公園をフェンス越しに見つめる。
事故現場はすでに綺麗に片付けられていて、一見、ボール遊びもできる広場のついた何の変哲もない公園だ。
かつては子どもの声が響いていたものの、事故があってからはどこか閑散としてしまった公園内。その中にどこか重々しい空気が流れているように感じるのは、きっと気のせいではないだろう。
破れたフェンスを覆うブルーシートの前には、いくつかの花が供えられている。
花穂は、何を言うでもなく、ただ誰もいない広場の地面に視線を落としているようだった。
その横顔はどこか寂しそうで、もしかして何かを思い出したんじゃないのかと感じた。
「花穂……?」
だけど、僕に声をかけられた花穂は少し驚いたように肩を震わせると、僕の方を向いて困ったように眉を下げた。
「ごめんね、何となく事故現場って聞いたら何か思い出せると思ったのにね。胸が苦しくなるだけで、何も思い出せなかった……」
「そっか……」
花穂が本当に何も思い出せていないことは、どんな事故だったの?と続けて聞いてきたことからも明らかだった。
兄ちゃんのことまでは、さすがに話せなかった。
事故の概要を聞いたあと僕の供えた花に向かって手を合わせる花穂を見ていると、何ともいえない罪悪感に襲われるのだった。
そして、ここまで花穂にとって印象深いところを目にしても花穂の記憶がほとんど戻らないことに、僕自身ショックを受けた。
だけど、何も思い出せなかったとしても、この場所に花穂が反応したということから、花穂の中で些細な変化があったのだと願いたい。
小さな記憶のカケラを探していくことしか、僕たちにはできないのだから。
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