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「いつか巡り会えたなら、私はきっとまたきみに恋をする」
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一目散にいっくんの元へ移動する。
初めて自分が幽霊でよかったと思った。
だって、いっくんのところへ文字通り飛んで移動できるのだから。
「いっくん、ダメーー!」
外でも私の声はちゃんといっくんに届いているようで、いっくんは目を見開いてこちらを見つめた。
勝手に外に出たことを怒られるかなと思ったけれど、いっくんは「なんで……」と力なく呟いただけだった。
「いっくん、今、何しようとしてたの? まさか飛び降りようなんてしてないよね?」
私の直感が正しければ、いっくんは恐らく、ここから飛び降りようとしていた。
──それはきっと、いっくんは私のあとを追おうとしていたから。
「ダメだよ、そんなことしちゃ」
というのも、いっくんがフェンスに足をかけたのを見た瞬間、ずっと気がかりでいたことが頭の中に蘇ったのだ。
いっくんは無愛想なところに反して甘えん坊で、付き合いはじめてからは何をするにも基本的に一緒だった。
そして甘えん坊な一面の裏には、とても寂しがりやな一面をいっくんはあわせ持っていて、くわえてメンタル面はあまり強くなかった。
だから、
“お前がいないと生きていけない”
とか
“お前がいなくなったらマジで死ぬ”
とか、いっくんは口癖のように言っていた。
周りはそれを聞いて“バカップル”と面白がっていたけれど、いっくんの弱い一面に気づいていた私は、ずっと気がかりだった。
私はいっくんの弱い一面も含めていっくんのことが大好きで、いっくんから離れることはないから大丈夫だと思っていた。
だけど自分がこんなに早く死んでしまって、本当に言葉通り死のうとしている彼の姿を見て、どうして死んでしまったのだろうと悔しい気持ちになる。
死んだ理由も全て思い出した。
今まで思い出せなかったのは、私が思い出すことをためらっていたのかもしれない。
だって私が死んだのは、いっくんの彼女という立場に嫉妬されたことによる嫌がらせの結果だったのだから。
端正な顔立ちのいっくんには、隠れファンの女子たちが多くて、いっくんと付き合いはじめてから私は度重なる嫌がらせにあっていた。
だけどいっくんがそれに気づくと、きっといっくんは自分自身を責めてしまうだろうから、私はいっくんには気づかれないように気丈にふるまっていた。
最初こそ物を隠される程度だったのだけど、全く怯まない私が気に入らなかったのか、日々それはエスカレートしていったのだった。
私が死んだあの日。私は押し付けられた実験道具の片付けに向かった先で、複数の男子生徒に襲われかけた。
私に嫌がらせをしてきてた面々の指示だったらしい。
危機一髪で難を逃れた私は、無我夢中でその研究棟から飛び出した。
怒りと悲しみで押し潰されそうになりながら、行く当てもなくただ安心できる安全な場所を求めて、ただ逃げるように走った。
そのときキャンパスを出たところで、車道の向こう側の歩道をいっくんが歩いてくるのを見つけた。
何か用事で外に出ていたのだろう。
『いっくん……!』
このときばかりは、私の気持ちも相当やられていたんだと思う。
早くいっくんに癒してもらいたくて、まるで助けを求めるようにいっくんに飛びつこうとした、つもりだった。
相当驚いたようないっくんの表情が、切羽詰まったような表情に変わる。
『危ない!』
今まで聞いたことのないようないっくんの叫び声が、生きていた私が聞いた最後のいっくんの声だった。
無我夢中でいっくんの方に向かって飛び出した私は気づいてなかったのだ。
日頃そんなに車通りの多くないキャンパス前の道路に飛び出したとき、そこへ大型の乗用車が走ってきていたことに。
そして、気づいたときには、私は記憶をなくした状態でいっくんの部屋にいた。
なかなか生きていたときのことを思い出せなかったのは、きっと死ぬ前の出来事があまりに辛すぎたからなのだろう。
それでも幽霊になってなおいっくんの傍で目覚めたのは、それだけ私はいっくんのことが心配だったのだと思う。
私がいないとダメだと毎日のように言っていたいっくんを残して死んでしまったのだから──。
「ダメだよ、いっくん。私、生きていたときのことを思い出したの」
「……え?」
私の言葉に、いっくんはさらに驚く。
初めて自分が幽霊でよかったと思った。
だって、いっくんのところへ文字通り飛んで移動できるのだから。
「いっくん、ダメーー!」
外でも私の声はちゃんといっくんに届いているようで、いっくんは目を見開いてこちらを見つめた。
勝手に外に出たことを怒られるかなと思ったけれど、いっくんは「なんで……」と力なく呟いただけだった。
「いっくん、今、何しようとしてたの? まさか飛び降りようなんてしてないよね?」
私の直感が正しければ、いっくんは恐らく、ここから飛び降りようとしていた。
──それはきっと、いっくんは私のあとを追おうとしていたから。
「ダメだよ、そんなことしちゃ」
というのも、いっくんがフェンスに足をかけたのを見た瞬間、ずっと気がかりでいたことが頭の中に蘇ったのだ。
いっくんは無愛想なところに反して甘えん坊で、付き合いはじめてからは何をするにも基本的に一緒だった。
そして甘えん坊な一面の裏には、とても寂しがりやな一面をいっくんはあわせ持っていて、くわえてメンタル面はあまり強くなかった。
だから、
“お前がいないと生きていけない”
とか
“お前がいなくなったらマジで死ぬ”
とか、いっくんは口癖のように言っていた。
周りはそれを聞いて“バカップル”と面白がっていたけれど、いっくんの弱い一面に気づいていた私は、ずっと気がかりだった。
私はいっくんの弱い一面も含めていっくんのことが大好きで、いっくんから離れることはないから大丈夫だと思っていた。
だけど自分がこんなに早く死んでしまって、本当に言葉通り死のうとしている彼の姿を見て、どうして死んでしまったのだろうと悔しい気持ちになる。
死んだ理由も全て思い出した。
今まで思い出せなかったのは、私が思い出すことをためらっていたのかもしれない。
だって私が死んだのは、いっくんの彼女という立場に嫉妬されたことによる嫌がらせの結果だったのだから。
端正な顔立ちのいっくんには、隠れファンの女子たちが多くて、いっくんと付き合いはじめてから私は度重なる嫌がらせにあっていた。
だけどいっくんがそれに気づくと、きっといっくんは自分自身を責めてしまうだろうから、私はいっくんには気づかれないように気丈にふるまっていた。
最初こそ物を隠される程度だったのだけど、全く怯まない私が気に入らなかったのか、日々それはエスカレートしていったのだった。
私が死んだあの日。私は押し付けられた実験道具の片付けに向かった先で、複数の男子生徒に襲われかけた。
私に嫌がらせをしてきてた面々の指示だったらしい。
危機一髪で難を逃れた私は、無我夢中でその研究棟から飛び出した。
怒りと悲しみで押し潰されそうになりながら、行く当てもなくただ安心できる安全な場所を求めて、ただ逃げるように走った。
そのときキャンパスを出たところで、車道の向こう側の歩道をいっくんが歩いてくるのを見つけた。
何か用事で外に出ていたのだろう。
『いっくん……!』
このときばかりは、私の気持ちも相当やられていたんだと思う。
早くいっくんに癒してもらいたくて、まるで助けを求めるようにいっくんに飛びつこうとした、つもりだった。
相当驚いたようないっくんの表情が、切羽詰まったような表情に変わる。
『危ない!』
今まで聞いたことのないようないっくんの叫び声が、生きていた私が聞いた最後のいっくんの声だった。
無我夢中でいっくんの方に向かって飛び出した私は気づいてなかったのだ。
日頃そんなに車通りの多くないキャンパス前の道路に飛び出したとき、そこへ大型の乗用車が走ってきていたことに。
そして、気づいたときには、私は記憶をなくした状態でいっくんの部屋にいた。
なかなか生きていたときのことを思い出せなかったのは、きっと死ぬ前の出来事があまりに辛すぎたからなのだろう。
それでも幽霊になってなおいっくんの傍で目覚めたのは、それだけ私はいっくんのことが心配だったのだと思う。
私がいないとダメだと毎日のように言っていたいっくんを残して死んでしまったのだから──。
「ダメだよ、いっくん。私、生きていたときのことを思い出したの」
「……え?」
私の言葉に、いっくんはさらに驚く。
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