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「いつか巡り会えたなら、私はきっとまたきみに恋をする」

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「それじゃ行ってくるから。お前はここにいろよ」


 さらに数日が過ぎて、この日もいっくんを玄関までお見送りしたときに、今にもいっくんについて行きそうな私に、いっくんは釘を刺すように言った。


「はーい」


 だけど梅雨の合間の晴れ間が広がっていたこの日、私は初めていっくんとの約束を破った。


 彼が出て行って数秒後、私は思いきって玄関のドアをすり抜ける。

 いっくんの部屋の中でも壁をすり抜けられてたから、玄関のドアもすり抜けられるだろうと思っていたけれど、やっぱりできた。


 マンションのドアから外に出れば、直接降り注ぐ太陽の陽射しに思わず目が眩む。

 キョロキョロと見回すと、数メートル先の歩道にいっくんの後ろ姿が見えた。

 道に迷ったらいけないから、私は一定の距離を保ちながら、いっくんに気づかれないように彼の背中を追う。

 最初こそ、いっくんからはぐれないようにと必死だったけど……。


 あれ? 私、この道、知ってるかも。

 いっくんの後をついて移動しているうちに、自然と今いる場所から大学までの道のりが、頭の中に浮かんできたのだ。

 途端に、見えていた風景も既視感を覚える。


 “いっくん”

 そう呼んで、いっくんと過ごした過去さえもぼんやりと脳内に浮かび上がる。

 それなのに、思い出せそうで、肝心なことは何も思い出せない。

 頭がクラクラして、困惑する。

 全てを思い出すのが怖いと思う気持ちはあるものの、思い出せないことにもどかしさを感じる。


 でももしかしたら大学に行けば、さらに何かを思い出せるかもしれない。

 私はいっくんに気づかれない程度に距離を取って、大学へと向かった。



 大学の建物が見えてきたとき、胸がツンと痛むと同時に、何ともいえない懐かしさが広がった。

 久しぶりだな……。

 大学のキャンパス内に入ってもそれは変わらなかった。


 頭の中には、今まで思い出せなかった記憶がひとつ、ふたつと出てくる。

 やっぱりここまでの道のりも、この大学も、私は知っていたんだ。



 ──私といっくんは、大学一年生のときに共通のサークルを通して出会った。

 同じ学年で同じ学部だった私といっくんは、次第に話すようになって、付き合い始めた。


 その頃からいっくんは不器用で、優しいけど少し無愛想なところがあった。

 私はいっくんのことをやっぱり“いっくん”と呼んでいた。


 順調にお付き合いは進んで、私は何回かいっくんの住むワンルームマンションにもお邪魔して。

 ……あれ?

 一気に蘇ってくる記憶に思いを馳せていたものの、はたと思う。

 いっくんの隣でとても幸せな日々を過ごしていたはずなのに、どうして私は死んでしまったの……?

 肝心なところの記憶は、まだ思い出せない。


 最初はいっくんのあとをつけて出てきたはずなのに、気づいたときには思い出に浸りながらキャンパス内を散策していた。

 あの写真を撮った場所も見つけたし、そのときのことも思い出した。


 そうしているうちに今日はいつもの何倍も早く時間が過ぎて、気づいたときには夕陽が西に沈みかけていた。


 そろそろ帰らなきゃ。

 いっくんより先に帰ってないと、勝手に部屋を抜け出したのがバレてしまう。


 少し名残惜しい気持ちになりながらもキャンパス内を出て、今まで居た場所をふり返ったとき。


 ……いっくん?


 私は、キャンパス内の研究棟の屋上に、いっくんが立っていることに気づいた。


 何してるんだろう……?


 一人で屋上のフェンスにつかまって突っ立ってるその姿があまりに不自然で、思わず目を奪われる。


 すると次の瞬間、いっくんが屋上のフェンスに足をかけたのだ。


 いっくんの様子がおかしいと、直感で感じた。


 フェンスの外に出て、両手を頭上に掲げるいっくんの姿を見て、まさか飛び降りるつもりじゃないだろうかと胸騒ぎを覚えた。
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