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「いつか巡り会えたなら、私はきっとまたきみに恋をする」
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──ガタガタガタ。
午後四時前。
まだまだ窓からは黄色い陽射しが降り注ぐ中、突然、部屋の中が揺れた。
地震……?
幽霊である私は地面に足がついていないから、地面が揺れたところで何ともないのだけれど、部屋中がガタガタと音を立てた。
家具が倒れるほどの大きな地震ではないみたいだけど、揺れてる最中にバサッと何かが落ちる音が聞こえた。
何だろう?
音のした部屋の隅を見てみると、いっくんがいつも使っている勉強机の本立てからノートが数冊倒れていた。
机の上には、倒れたノートに挟んであったものが飛び出している。
いっくんのことなら何でも知りたい私は、ついその散らばったものを見るけれど、思わず目に入ったものに息を呑んだ。
「……え?」
だって、これ、私……?
私の視線の先にあるのは、いっくんの写真だった。
そこはいい。なんと写真の中のいっくんの隣には、私が幸せそうに笑っていたのだ。
どうなってるの!? 何で私が……。
頭の中は軽くパニック状態だ。
自分のことは、何一つ覚えていない。
だけど、私といっくんの後ろに見える背景──大学のキャンパスの風景は見覚えがある上に、どう見ても写真の中の女性は私だ。
隣にいる、毎日のように目にしているカバンを持った男性も、いっくんに間違いない。
何度見てもそれは変わらなかった。
つまり私は生きていたときから、いっくんのことを知っていたということだ。
そして、いっくんも私のことを知っていたということだ。
それなら、どうしていっくんは今まで私のことを知っていたことを黙っていたのだろう?
……わからない。
どんなに頭を抱えて考えても、いっくんの部屋で目覚める以前の記憶が全くもって思い出せず、何もわからない私自身に腹が立つ。
そんな風にしているうちに、窓の外は次第に曇りはじめて、天気予報通り雨が降りはじめた。
「……ただいま」
玄関から聞こえた声に私はハッとする。
いけない! 私ったら……!
気づけば外は暗く染まっていた。
私は今帰宅した大好きないっくんのもとへと飛んで行く。
「いっくん、お帰り~! 疲れたでしょ。雨は大丈夫だった?」
「……まぁ。傘持っていってたし平気だった」
部屋に上がりカバンを置くと、いっくんは傘をさしていたとはいえ、少し濡れてしまった腕をタオルで拭う。
「昼間、少し揺れたけど大丈夫だった?」
「え……っ!? あ、うん……! 私、幽霊だし平気平気。部屋も無事だよ……!」
平然を装っていたものの、昼間の地震のことを出されてドキリとする。
「……そうか」
「あ、あのね、いっくん……」
そのときに見た写真のことが頭から離れなくて思わず口から飛び出しそうになる。
しかしいっくんが勉強机の方へ移動するのが見えて、思わず出かけた言葉は喉元で消えてしまった。
「……何?」
「う、ううん。何でも、ない……」
結局、何一つ聞くことができなかった。
だって、見てしまったから。
机の上に散乱したものをかき集めるいっくんの視線が写真のある方を捉えたとき、いっくんの手が一瞬ピクリと小さく反応していたのを。
それってつまり、その写真に何かあるってことだよね……?
幽霊として出会った日に死んだ理由がわからない、生きていたときの記憶がないと話した私には話せない何かが……。
いっくんが話したくないって思っているかもしれないと思うと、自分のこととはいえ聞くことができない。
いっくんは訝しげにこちらを見ていたけれど、私はそれには気づかないフリをして、勉強机から対角線上に離れたベッド脇に隠れるように移動した。
結局この日はこれ以上何かを詮索されることはなかったけど、あの写真のことが気になって仕方なかった。
*
例の写真を見てから数日が過ぎる。
この日は朝から生憎の雨。
最近雨が多いと感じていたら、とうとう梅雨入りしたと今朝のニュースでは言っていた。
写真のことがあってから、何となく私といっくんの関係はぎくしゃくしてしまったように感じる。
あんな写真を見てしまって、私が一方的にいっくんとどう接していいかわからなくなってしまっただけかもしれないけれど……。
あの写真に関しては、いっくんに聞く以外に確認する術はない。
だけど本人に確認する勇気すらないなら、どうしたらいいだろう?
──やっぱり、私が生前の出来事を思い出すしかないのかな。
写真に写っていた背景は、私の知っているものだった。
ということは、私はその場所に行けば、もしかしたら記憶を取り戻すことができるかもしれないよね。
恐らくあの場所は、生前の私が通っていた、いっくんが通っている大学のキャンパスなのだろうから。
午後四時前。
まだまだ窓からは黄色い陽射しが降り注ぐ中、突然、部屋の中が揺れた。
地震……?
幽霊である私は地面に足がついていないから、地面が揺れたところで何ともないのだけれど、部屋中がガタガタと音を立てた。
家具が倒れるほどの大きな地震ではないみたいだけど、揺れてる最中にバサッと何かが落ちる音が聞こえた。
何だろう?
音のした部屋の隅を見てみると、いっくんがいつも使っている勉強机の本立てからノートが数冊倒れていた。
机の上には、倒れたノートに挟んであったものが飛び出している。
いっくんのことなら何でも知りたい私は、ついその散らばったものを見るけれど、思わず目に入ったものに息を呑んだ。
「……え?」
だって、これ、私……?
私の視線の先にあるのは、いっくんの写真だった。
そこはいい。なんと写真の中のいっくんの隣には、私が幸せそうに笑っていたのだ。
どうなってるの!? 何で私が……。
頭の中は軽くパニック状態だ。
自分のことは、何一つ覚えていない。
だけど、私といっくんの後ろに見える背景──大学のキャンパスの風景は見覚えがある上に、どう見ても写真の中の女性は私だ。
隣にいる、毎日のように目にしているカバンを持った男性も、いっくんに間違いない。
何度見てもそれは変わらなかった。
つまり私は生きていたときから、いっくんのことを知っていたということだ。
そして、いっくんも私のことを知っていたということだ。
それなら、どうしていっくんは今まで私のことを知っていたことを黙っていたのだろう?
……わからない。
どんなに頭を抱えて考えても、いっくんの部屋で目覚める以前の記憶が全くもって思い出せず、何もわからない私自身に腹が立つ。
そんな風にしているうちに、窓の外は次第に曇りはじめて、天気予報通り雨が降りはじめた。
「……ただいま」
玄関から聞こえた声に私はハッとする。
いけない! 私ったら……!
気づけば外は暗く染まっていた。
私は今帰宅した大好きないっくんのもとへと飛んで行く。
「いっくん、お帰り~! 疲れたでしょ。雨は大丈夫だった?」
「……まぁ。傘持っていってたし平気だった」
部屋に上がりカバンを置くと、いっくんは傘をさしていたとはいえ、少し濡れてしまった腕をタオルで拭う。
「昼間、少し揺れたけど大丈夫だった?」
「え……っ!? あ、うん……! 私、幽霊だし平気平気。部屋も無事だよ……!」
平然を装っていたものの、昼間の地震のことを出されてドキリとする。
「……そうか」
「あ、あのね、いっくん……」
そのときに見た写真のことが頭から離れなくて思わず口から飛び出しそうになる。
しかしいっくんが勉強机の方へ移動するのが見えて、思わず出かけた言葉は喉元で消えてしまった。
「……何?」
「う、ううん。何でも、ない……」
結局、何一つ聞くことができなかった。
だって、見てしまったから。
机の上に散乱したものをかき集めるいっくんの視線が写真のある方を捉えたとき、いっくんの手が一瞬ピクリと小さく反応していたのを。
それってつまり、その写真に何かあるってことだよね……?
幽霊として出会った日に死んだ理由がわからない、生きていたときの記憶がないと話した私には話せない何かが……。
いっくんが話したくないって思っているかもしれないと思うと、自分のこととはいえ聞くことができない。
いっくんは訝しげにこちらを見ていたけれど、私はそれには気づかないフリをして、勉強机から対角線上に離れたベッド脇に隠れるように移動した。
結局この日はこれ以上何かを詮索されることはなかったけど、あの写真のことが気になって仕方なかった。
*
例の写真を見てから数日が過ぎる。
この日は朝から生憎の雨。
最近雨が多いと感じていたら、とうとう梅雨入りしたと今朝のニュースでは言っていた。
写真のことがあってから、何となく私といっくんの関係はぎくしゃくしてしまったように感じる。
あんな写真を見てしまって、私が一方的にいっくんとどう接していいかわからなくなってしまっただけかもしれないけれど……。
あの写真に関しては、いっくんに聞く以外に確認する術はない。
だけど本人に確認する勇気すらないなら、どうしたらいいだろう?
──やっぱり、私が生前の出来事を思い出すしかないのかな。
写真に写っていた背景は、私の知っているものだった。
ということは、私はその場所に行けば、もしかしたら記憶を取り戻すことができるかもしれないよね。
恐らくあの場所は、生前の私が通っていた、いっくんが通っている大学のキャンパスなのだろうから。
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