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第1章
突然の依頼(1)
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いつもと変わらない朝。
季節は秋に移り変わる頃のことだった。
一通の白い封筒がある芸能事務所に、所属歌手、TAKU宛てで届いた。
「願い叶え隊……?」
TAKUが「何それ?」と言いたげな表情で手紙の差出人を見る。
「TAKUさんダメですよ! 手紙を見るのは我々を通してからです」
しかし、大柄なおじさんマネージャーの松本にTAKUはいとも簡単に手紙を取り上げられてしまった。
「ちょっ、それっ、俺宛てですよね?」
「ダメですっ! 何かのイタズラでTAKUさんに何かあったら困るじゃないですか!! 少しはトップ歌手であることを自覚して下さい!!」
そう厳しく松本は言い放って手紙ごと隣の部屋へ去って行った。
そう。彼は今、日本中を騒がせている大人気バンド『NEVER』のボーカル。
TAKUこと本名、杉本 拓人、21歳だ。
高校在学中にオーディションに受かり、NEVERのボーカルとして歌手デビューを果たした。
NEVERはTAKUを含む男性5人グループで、メンバー各々の実力はかなり高い。
今ではその名を知らない人の方が少ないくらいだ。
NEVERのメンバー各々の人気も高いが、その中でも最も高い人気を持つTAKU。
整った顔立ちに、明るいオレンジがかった髪。
そして何より人々を魅了する歌声。
そんなTAKUは多くのファンの心を惹き付けた。
しかし、あまりにも早いスピードで人気を獲得したため、未だに有名人である自覚がない。
今では何かあったら困るからと、手紙や小包などは、NEVERのマネージャーである松本を通して手渡されている。
「ちぇっ、つまんねぇの」
拓人は少し過保護すぎるぞと思いながら、ため息混じりに傍にあったソファーに腰を下ろした。
「TAKUさん、仕事の依頼です」
ようやく松本が大きな身体を拓人の前に現した。
「仕事といっても、無償の仕事になりますが」
「?」
(無償……ってそれじゃまるで)
「ボランティアの依頼です」
拓人が自分の頭に問いかけた答えが出るのと同時に松本が口を開いた。
「ボランティア!? しかも俺にですか?」
「ええ。願い叶え隊というボランティア団体をご存知ですか?」
拓人の返事を待たずに松本は話を続ける。
「願い叶え隊とは、難病の未成年者の願いを叶える協力をすることで、病気の子ども達を元気づけることを目的に活動しているボランティア団体だそうです。TAKUさんの自宅の近くに大きな病院がありますよね? そこの病院が主催している団体だそうです」
「そうですか。で、俺は何をしに行けばいいのでしょう?」
「どうやら、TAKUさんに一目会うことを望んでいる女の子がいるようです」
「へ!?」
拓人はかなり間の抜けた返事を返した。
「会うだけって言われても……」
てっきり入院中の子ども達の前で歌えとでも言われると思っていた拓人は、あまりに意外な依頼に驚きを隠せない。
「はい。詳細は後日担当の方が一度来られるそうなのでその時にと書かれています。でも、TAKUさんが嫌なら断ってもいいそうです」
「会うのは女の子1人なんですか?」
「この手紙の感じだとそうみたいです」
(会うだけって言っても相手は病気、しかも難病の女の子……。わざわざボランティア団体に頼んでまで俺と会うことを望んでいるだなんて、一体どんな顔して会えばいいんだ?)
拓人はそんな風に思いながら、頭を抱え考え込んでしまった。
「TAKUさん、そんなに深刻に捉えないで下さい。私の考えとしてはその女の子を喜ばすためにも、会ってみるのもいいと思いますよ。TAKUさんにとってもきっと良い経験になると思われます」
松本はにこやかな笑顔を拓人に向ける。
「そうですね。あまり自信はないですが、やってみます」
「かしこまりました。ではスケジュールが決まり次第、お伝え致しますね」
そう言い残し、松本は足早に去っていった。
松本に言われるがままに依頼を受けたが、やっぱり自信が持てない拓人だった。
季節は秋に移り変わる頃のことだった。
一通の白い封筒がある芸能事務所に、所属歌手、TAKU宛てで届いた。
「願い叶え隊……?」
TAKUが「何それ?」と言いたげな表情で手紙の差出人を見る。
「TAKUさんダメですよ! 手紙を見るのは我々を通してからです」
しかし、大柄なおじさんマネージャーの松本にTAKUはいとも簡単に手紙を取り上げられてしまった。
「ちょっ、それっ、俺宛てですよね?」
「ダメですっ! 何かのイタズラでTAKUさんに何かあったら困るじゃないですか!! 少しはトップ歌手であることを自覚して下さい!!」
そう厳しく松本は言い放って手紙ごと隣の部屋へ去って行った。
そう。彼は今、日本中を騒がせている大人気バンド『NEVER』のボーカル。
TAKUこと本名、杉本 拓人、21歳だ。
高校在学中にオーディションに受かり、NEVERのボーカルとして歌手デビューを果たした。
NEVERはTAKUを含む男性5人グループで、メンバー各々の実力はかなり高い。
今ではその名を知らない人の方が少ないくらいだ。
NEVERのメンバー各々の人気も高いが、その中でも最も高い人気を持つTAKU。
整った顔立ちに、明るいオレンジがかった髪。
そして何より人々を魅了する歌声。
そんなTAKUは多くのファンの心を惹き付けた。
しかし、あまりにも早いスピードで人気を獲得したため、未だに有名人である自覚がない。
今では何かあったら困るからと、手紙や小包などは、NEVERのマネージャーである松本を通して手渡されている。
「ちぇっ、つまんねぇの」
拓人は少し過保護すぎるぞと思いながら、ため息混じりに傍にあったソファーに腰を下ろした。
「TAKUさん、仕事の依頼です」
ようやく松本が大きな身体を拓人の前に現した。
「仕事といっても、無償の仕事になりますが」
「?」
(無償……ってそれじゃまるで)
「ボランティアの依頼です」
拓人が自分の頭に問いかけた答えが出るのと同時に松本が口を開いた。
「ボランティア!? しかも俺にですか?」
「ええ。願い叶え隊というボランティア団体をご存知ですか?」
拓人の返事を待たずに松本は話を続ける。
「願い叶え隊とは、難病の未成年者の願いを叶える協力をすることで、病気の子ども達を元気づけることを目的に活動しているボランティア団体だそうです。TAKUさんの自宅の近くに大きな病院がありますよね? そこの病院が主催している団体だそうです」
「そうですか。で、俺は何をしに行けばいいのでしょう?」
「どうやら、TAKUさんに一目会うことを望んでいる女の子がいるようです」
「へ!?」
拓人はかなり間の抜けた返事を返した。
「会うだけって言われても……」
てっきり入院中の子ども達の前で歌えとでも言われると思っていた拓人は、あまりに意外な依頼に驚きを隠せない。
「はい。詳細は後日担当の方が一度来られるそうなのでその時にと書かれています。でも、TAKUさんが嫌なら断ってもいいそうです」
「会うのは女の子1人なんですか?」
「この手紙の感じだとそうみたいです」
(会うだけって言っても相手は病気、しかも難病の女の子……。わざわざボランティア団体に頼んでまで俺と会うことを望んでいるだなんて、一体どんな顔して会えばいいんだ?)
拓人はそんな風に思いながら、頭を抱え考え込んでしまった。
「TAKUさん、そんなに深刻に捉えないで下さい。私の考えとしてはその女の子を喜ばすためにも、会ってみるのもいいと思いますよ。TAKUさんにとってもきっと良い経験になると思われます」
松本はにこやかな笑顔を拓人に向ける。
「そうですね。あまり自信はないですが、やってみます」
「かしこまりました。ではスケジュールが決まり次第、お伝え致しますね」
そう言い残し、松本は足早に去っていった。
松本に言われるがままに依頼を受けたが、やっぱり自信が持てない拓人だった。
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