【旧版】桃色恋華

美和優希

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第4章

桃華の母親(2)

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 桃華の母親は微笑んだ。


「やっぱり」


「え……?」


「最近の桃華の様子で、なんとなくそんな気がしたの。あの子照れ屋だから、拓人くんのことはたくさん話してくれるけど、なかなかそういったことまでは教えてくれなくて」


「そうでしたか」


「でも……拓人くん、いいの?」
 母親はまた真剣な表情に戻った。


「何が……ですか?」


「桃華のこと。あの子の病気のこと、分かってる?」


「一応……ある程度のことは分かっているつもりです……」


「それなら良いんだけど……あの子は確かに今はすごく元気そうに見えて、病状も今は安定してるけど、決して良くはないわ。

せっかく恋人同士になれたのに、普通の恋人同士が望むような交際も難しい部分もあると思うわ。

それに……そんなに遠くない未来、あの子は本当にこうやって家に帰って来れなくなるかもしれない……」


 桃華の母親は辛そうな表情で続ける。


「……そうなれば、あなたも最終的には傷つくと思うわ。それでも大丈夫?

桃華と別れろって言ってる訳じゃないんだけど、いざとなった時、桃華を傷つけるようなことはして欲しくないわ……。

それに……あなただってそれなりの歳でしょ? その大切な時間を桃華に捧げてくれる覚悟はあるの?」


 桃華の母親は今にも泣きそうな真剣な表情だった。


 覚悟……?


 そんなのあるに決まってる。


 拓人は迷い無い瞳で真っ直ぐ桃華の母親を見つめて答えた。


「あります。俺は、桃華さんにどのような運命が待っていても、一緒に支えていきたいと思っています。桃華さんが自ら俺を拒まない限りは、いつまでも傍にいたいと思っています。そのくらい彼女を愛しています」


 桃華の母親は安心したような表情を見せた。


「ありがとう。桃華は本当に幸せ者だわ。こんなたくましい恋人ができて」

 桃華の母親の瞳から涙がポロポロこぼれ落ちた。

「あら……ごめんなさいね」

 桃華の母親は涙を拭いながら言った。


「桃華を好きになってくれて、桃華に恋愛を経験させてくれて、ありがとう。これからも仲良くしてやって下さいね」


 そんな母親を見ていると、拓人まで泣きそうになってしまった。


 拓人はそんな気持ちをグッと堪え、
「はい」
 と力強く返事をした。


 拓人が桃華の家を出る頃には、既に外は真っ暗になっていた。


「今日は、本当に桃華がお世話になりました」


 桃華の母親が頭を深く下げた。


「こちらこそ、ごちそうさまでした」


 拓人も同じく頭を深く下げる。


 拓人は真っ暗な道をもと来た方向へ車を走らせる。


 帰り道、桃華に待っている運命を考えて涙ぐんだ。


 普段あまり考えないようにしていたが、いつかは向き合わなければならない現実。


 桃華の病気の行く末──。


 拓人が自分の家に到着すると、すごい数の着信と、3件の留守電が入っていた。
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