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二
織絵と里絵は、母親が違う。
里絵はこの地で生まれたが、織絵は五歳の時、父、大月源兵衛に連れられて来た。
父は、諸国を巡って剣の腕を磨き、この地に辿り着いた。
知り合いに勧められたこともあって、道場を開く。
諸国を連れ回される織絵が不憫だと言われたのだ。
落ち着いたこの地で、身の回りの世話をする郷の娘に子を生ませた。
それが里絵だ。
産後の肥立が悪くて、母親はなくなり、織絵は十歳にならずして、里絵の世話と、家事と、畑仕事と剣の修行に明け暮れることとなった。
家事は、近所の老婆が引き受けてくれ、楽にはなったが、畑仕事と剣の修行はやめなかった。
転機になったのは、七年前だ。
藩の圧政に農村の怒りが爆発し、暴動が起きた。
その暴動に巻き込まれた源兵衛は、右足を負傷し、道場に立てなくなってしまったのだ。
歩けなくなるほどの重傷だった。
当然のように、道場は立ち行かなくなり、閉鎖された。
収入が途絶え、織絵が働きに出ることになった。
働きに出るといっても、農家の手伝いである。
日頃から畑仕事をしている織絵には、容易いことだった。
もともと畑仕事が苦にならず、好きだったので、むしろいきいきと立ち働いた。
力持ちで、どこへ行っても重宝され、引っ張りだこだ。
鍬鋤き、田植え、草刈り、稲刈りなども、誰よりもこなす。
米俵は軽々と両肩に担ぎ上げられるので、荷運びもお手のものだ。
そして、雨降りや冬などの農閑期には、誰もいなくなった道場で剣の修行だ。
織絵は、道場の再建を諦めていなかった。
大きくなった里絵や、近所の子供たちに剣術を教えるようになった。
次第に大人たちからも、教えて欲しいという声が上がり始め、門弟が増えていった。
織姫道場と呼ばれる所以である。
父、源兵衛から受け継いだのではなく、織絵が一から作り上げた道場だったのだ。
そして、運命のあの日。
今から半年ほど前、一人の道場破りが現れた。
「結城才介と申す。一手、お手合わせいただきたい」
突然現れた男は、乞食と見紛うほどのボロの着物をまとい、髪もボサボサで、風呂に入ったことがあるかと聞きたくなるような垢じみた姿だった。
「主人はどこか?」
道場の上座に、でんといる道場主はいない。
「はい」
竹刀を持った織絵が返事をした。
「道場主はおりません」
「いない? では師範代は?」
キョロキョロと、道場内を見回した。
「師範代はわたくしです」
「は?」
結城は目を丸くした。
門弟たちは、固唾を飲んで見守っている。
ここからが、見ものなのだ。
大抵は、ここで威丈高な態度に出るか、あざけるかのどちらかだ。
「無理にとは申しません。お嫌でしたらお帰りください」
結城が黙っているので、織絵が挑発するような言い方をした。
「いや、願ってもない。お手合わせいただこう」
里絵はこの地で生まれたが、織絵は五歳の時、父、大月源兵衛に連れられて来た。
父は、諸国を巡って剣の腕を磨き、この地に辿り着いた。
知り合いに勧められたこともあって、道場を開く。
諸国を連れ回される織絵が不憫だと言われたのだ。
落ち着いたこの地で、身の回りの世話をする郷の娘に子を生ませた。
それが里絵だ。
産後の肥立が悪くて、母親はなくなり、織絵は十歳にならずして、里絵の世話と、家事と、畑仕事と剣の修行に明け暮れることとなった。
家事は、近所の老婆が引き受けてくれ、楽にはなったが、畑仕事と剣の修行はやめなかった。
転機になったのは、七年前だ。
藩の圧政に農村の怒りが爆発し、暴動が起きた。
その暴動に巻き込まれた源兵衛は、右足を負傷し、道場に立てなくなってしまったのだ。
歩けなくなるほどの重傷だった。
当然のように、道場は立ち行かなくなり、閉鎖された。
収入が途絶え、織絵が働きに出ることになった。
働きに出るといっても、農家の手伝いである。
日頃から畑仕事をしている織絵には、容易いことだった。
もともと畑仕事が苦にならず、好きだったので、むしろいきいきと立ち働いた。
力持ちで、どこへ行っても重宝され、引っ張りだこだ。
鍬鋤き、田植え、草刈り、稲刈りなども、誰よりもこなす。
米俵は軽々と両肩に担ぎ上げられるので、荷運びもお手のものだ。
そして、雨降りや冬などの農閑期には、誰もいなくなった道場で剣の修行だ。
織絵は、道場の再建を諦めていなかった。
大きくなった里絵や、近所の子供たちに剣術を教えるようになった。
次第に大人たちからも、教えて欲しいという声が上がり始め、門弟が増えていった。
織姫道場と呼ばれる所以である。
父、源兵衛から受け継いだのではなく、織絵が一から作り上げた道場だったのだ。
そして、運命のあの日。
今から半年ほど前、一人の道場破りが現れた。
「結城才介と申す。一手、お手合わせいただきたい」
突然現れた男は、乞食と見紛うほどのボロの着物をまとい、髪もボサボサで、風呂に入ったことがあるかと聞きたくなるような垢じみた姿だった。
「主人はどこか?」
道場の上座に、でんといる道場主はいない。
「はい」
竹刀を持った織絵が返事をした。
「道場主はおりません」
「いない? では師範代は?」
キョロキョロと、道場内を見回した。
「師範代はわたくしです」
「は?」
結城は目を丸くした。
門弟たちは、固唾を飲んで見守っている。
ここからが、見ものなのだ。
大抵は、ここで威丈高な態度に出るか、あざけるかのどちらかだ。
「無理にとは申しません。お嫌でしたらお帰りください」
結城が黙っているので、織絵が挑発するような言い方をした。
「いや、願ってもない。お手合わせいただこう」
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