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三
「では、まず御身を清めてくださいませ」
「清める?」
いきなり立ち合いは始まらない。
織絵による、道場破り転がしが始まるのだ。
これも、門弟たちの楽しみの一つ。
織絵の言う通りに、一つずつ進んでいかなければ、試合まで辿り着かない。
そうやって、篩にかけられるのだ。
試合までたどり着ける者は、多くない。
むやみやたらと受けないのが織姫流である。
「はい。そのままのお姿では、お断りでございます。・・・奥へ」
「はあ?」
結城才介は、怪訝な表情だ。
織姫道場の噂を聞いてきたのではないことは、織絵が師範代だと知らなかったことでもわかる。
これは面白そうだと、期待で笑いを隠しきれない者も出てきた。
近頃では、噂が広まって、このやりとりは承知の上でやってくる道場破りが多いのだ。
「道場は神聖な場所です。湯でホコリは落としてもらいます。お里、おたけさんに言って、手伝ってもらいなさい」
「はい」
と、里絵が奥へ走る。
おたけさんは、足の不自由な父の世話をしてくれている郷の人だ。
「いや、ホコリなら、井戸端で十分でござる」
「ご遠慮なさらず、まずは旅の疲れを癒されませ」
「・・・」
真意が飲み込めずに、きょとんとしている才介を、面白がっている門弟たちに、
「稽古はどうしました?」
織絵の声が飛んだ。
ここで怒り出す道場破りも多い。
殴り込みのように一方的に叩き潰そうとしてくる乱暴な者には、馬鹿にされているように思えるのかもしれない。
そのときの織絵は、
「そうですか。人の好意を踏みにじり、神聖な道場を泥で汚されると言うのなら、お相手にはなりませぬ。お帰りを」
と突き放す。
なおも威丈高になり、生意気な女と牙をむく輩には、織絵の剣が唸りをあげて叩きのめす。
もちろん、こちらからは仕掛けない。
あくまでも、正当防衛でなければならない。
これは試合とは見做されない。
文字通り、叩き出すといった感じだ。
そして、怒り出すのではなく、図々しくも背中をながせと無茶を言う、すけべな輩もいる。
そんなときは、
「よろしゅうございますが、少々、手荒でございますよ」
とにっこり笑う。
力が強いことも知らず、油断して裸になると、手痛い接待が待っていた。
女の悲鳴ではなく、男の叫び声が、家中に響くことになる。
「もうお帰りですか?」
体を真っ赤にして、ふんどしもつけずに逃げていく。
いつしか男を手玉にとる鬼姫とあだ名されるようになった。
さて、才介はどうなったかというと。
道場の入り口に正座した。
門弟たちは、顛末の見たさに稽古そっちのけで見入っている。
「ありがたいお話だが、それがしのような浪々の身に、湯などと、もったいない」
「遠慮はいらないと申しました。お帰りになりますか? わたくしはどちらでも構いませんが」
「いえ、その・・・」
道場破りがしどろもどろになっている。
またくすくす笑いが起こった。
「清める?」
いきなり立ち合いは始まらない。
織絵による、道場破り転がしが始まるのだ。
これも、門弟たちの楽しみの一つ。
織絵の言う通りに、一つずつ進んでいかなければ、試合まで辿り着かない。
そうやって、篩にかけられるのだ。
試合までたどり着ける者は、多くない。
むやみやたらと受けないのが織姫流である。
「はい。そのままのお姿では、お断りでございます。・・・奥へ」
「はあ?」
結城才介は、怪訝な表情だ。
織姫道場の噂を聞いてきたのではないことは、織絵が師範代だと知らなかったことでもわかる。
これは面白そうだと、期待で笑いを隠しきれない者も出てきた。
近頃では、噂が広まって、このやりとりは承知の上でやってくる道場破りが多いのだ。
「道場は神聖な場所です。湯でホコリは落としてもらいます。お里、おたけさんに言って、手伝ってもらいなさい」
「はい」
と、里絵が奥へ走る。
おたけさんは、足の不自由な父の世話をしてくれている郷の人だ。
「いや、ホコリなら、井戸端で十分でござる」
「ご遠慮なさらず、まずは旅の疲れを癒されませ」
「・・・」
真意が飲み込めずに、きょとんとしている才介を、面白がっている門弟たちに、
「稽古はどうしました?」
織絵の声が飛んだ。
ここで怒り出す道場破りも多い。
殴り込みのように一方的に叩き潰そうとしてくる乱暴な者には、馬鹿にされているように思えるのかもしれない。
そのときの織絵は、
「そうですか。人の好意を踏みにじり、神聖な道場を泥で汚されると言うのなら、お相手にはなりませぬ。お帰りを」
と突き放す。
なおも威丈高になり、生意気な女と牙をむく輩には、織絵の剣が唸りをあげて叩きのめす。
もちろん、こちらからは仕掛けない。
あくまでも、正当防衛でなければならない。
これは試合とは見做されない。
文字通り、叩き出すといった感じだ。
そして、怒り出すのではなく、図々しくも背中をながせと無茶を言う、すけべな輩もいる。
そんなときは、
「よろしゅうございますが、少々、手荒でございますよ」
とにっこり笑う。
力が強いことも知らず、油断して裸になると、手痛い接待が待っていた。
女の悲鳴ではなく、男の叫び声が、家中に響くことになる。
「もうお帰りですか?」
体を真っ赤にして、ふんどしもつけずに逃げていく。
いつしか男を手玉にとる鬼姫とあだ名されるようになった。
さて、才介はどうなったかというと。
道場の入り口に正座した。
門弟たちは、顛末の見たさに稽古そっちのけで見入っている。
「ありがたいお話だが、それがしのような浪々の身に、湯などと、もったいない」
「遠慮はいらないと申しました。お帰りになりますか? わたくしはどちらでも構いませんが」
「いえ、その・・・」
道場破りがしどろもどろになっている。
またくすくす笑いが起こった。
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