織姫道場騒動記

かじや みの

文字の大きさ
10 / 19

 禍々しくも、騒々しい一団が、道場にやってきたのは、数日後のことだった。

 織姫道場には似つかわしくない、れっきとした家中の侍が何人も来るのは、やはり異常なことだと言わざるを得ない。

 場違いな感じが、より一層、この一団が招かれざる客だということを強調している。

「来てやったぜ。鬼姫の妹」
 さすがに土足ではないが、勝手に道場に入り込み、壁に掛けられた木刀を手にして振りだした。

「大人はいねえのかよ」
 結城才介はあいにくの留守で、今道場にいるのは、十代の少年ばかり。
 しかも、ほとんどが農民か町の子だ。

 この異常な雰囲気に、みんな怖がって、おのずと一箇所にかたまっている。

「どっかで見た顔だな」
 若侍の一人が、小弥太を見ている。
「家中の者だろ? 家中でも、ここに通う者がいるんだなあ」
 その言葉には、あざけりが含まれている。
 小弥太の拳が震えた。
 恐ろしいからではなくて、堪えているからだ。

 こんな時に、才介はどこに行ったんだろう。

 里絵は、前に出た。

「用があるのは、私だろ? 他の者に手出しはさせない」

「ここは、道場破りをもてなすんだってな。おれたちをもてなせよ」
「おあいにくさま。おもてなしは、諸国を巡って修行の旅をする武芸者だけ。あんたらはおもてなしに値しない!」
「なんだと! 生意気な」
 胸ぐらを掴まれ、拳が振り上げられた。
「よせ」
 止めたのは、後ろで腕を組んで様子を眺めていた水野だった。
「面白い小娘だ。相変わらずの度胸だな。いいぞ。ゾクゾクする。おれを楽しませろ」
「・・・」
 さして面白くもなさそうに、水野が言った。
 その言葉と、表情の違いに、里絵はゾッと寒気がした。

「憎いのなら、向かって来い。遠慮はいらない」
 それは、里絵に言っているのか、小弥太に言っているのか。

「ちょっとあんた」
 抑えが効かない里絵が、水野に食ってかかる。
 この場で、里絵を抑えられる者はいない。
 家中に属さないものにとって、相手が家老の息子だろうがなんだろうが、関係ない。
 ムカつくものはムカつくのだ。
 それは、小弥太ができないことに違いない。

 また大目玉かもしれないけれど、私がやってやるしかない。
「どういうつもり? 寄ってたかっていじめるのがあんたたちのやり口? だっさ」
「いじめだと?」
 水野ではない、取り巻きが言う。
「聞き捨てならんな。稽古をつけてやってるだけだ。今からたっぷりと稽古をつけてやるよ。なあ」
 若侍たちがどっと笑った。
「おら、かかってこいよ」
 挑発してくる。

 あのときと同じで、挑発に乗れば、向こうの思う壺だ。

 さすがに格が違う。

 だが、里絵も懲りていない。
 身のうちが、かっかと熱くなり、暴れ出しそうだ。

 察した小弥太が、里絵の腕を押さえた。
「ダメだ、里」
 小弥太を見た。
 じゃあ、どうやってこの場を切り抜けるの?
 思わず目でそう訴える。

「この道場には、おれたちに敵う者はいないってことだな」
「相手になれないのなら、看板を下ろせよ」
「おれたちに刃を向けた罪で、道場の看板をもらっていく」

 挑発は続く。
 里絵は小弥太の腕を振り解いた。

「ふざけるな!」
 ここで黙っていたら、一生後悔する。
 叩きのめされても、やらなければならないことがある。

 あのときは、刀を抜いてしまったが、ここは道場だ。
 それなりのやり方がある。

「誰が敵わないって? あんたらなんか、みんな打ち負かしてやる!」
「・・・」
 一瞬、しんとなったが、弾かれたように若侍たちが笑い出した。
 取りすましていた水野までが、声を出して笑っている。
「こいつは面白え」
「おれたちに勝つ気だぜ」

「里・・・」
 小弥太が泣きそうな顔で里絵を見ている。
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし

かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし 長屋シリーズ一作目。 第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。 十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。 頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。 一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

義姉と押し入れに隠れたら、止まれなくなった

くろがねや
恋愛
父の再婚で、義姉ができた。 血は繋がっていない。でも——家族だ。そう言い聞かせながら、涼介はずっと沙耶から距離を取ってきた。 夏休み。田舎への帰省。甥っ子にせがまれて始まったかくれんぼ。急いで飛び込んだ押し入れの中に、先客がいた。 「……涼介くん」 薄い水色の浴衣。下ろした髪。橙色の光に染まった、沙耶の顔。 逃げ場のない暗闇の中で、二人分の体温が混ざり合う。 夜、来て。 その一言が——涼介の、全部を壊した。 甘くて、苦しくて、止まれない。 これは、ある夏の、秘密の話。

剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末

松風勇水(松 勇)
歴史・時代
旧題:剣客居酒屋 草間の陰 第9回歴史・時代小説大賞「読めばお腹がすく江戸グルメ賞」受賞作。 本作は『剣客居酒屋 草間の陰』から『剣客居酒屋草間 江戸本所料理人始末』と改題いたしました。 2025年11月28書籍刊行。 なお、レンタル部分は修正した書籍と同様のものとなっておりますが、一部の描写が割愛されたため、後続の話とは繋がりが悪くなっております。ご了承ください。 酒と肴と剣と闇 江戸情緒を添えて 江戸は本所にある居酒屋『草間』。 美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。 自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。 多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。 その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。 店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき