【完結】誰に抱かれてもあなたへの愛は揺らがない

かじや みの

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恋の舞

別れの舞

 白湯を持って、和馬の部屋にいく。

 和馬はもう寝るだけなので、寝着に着替え、布団も敷いてある。

「あの、お話が」
 燭台の灯りで、書物を読んでいる和馬に声をかけた。

 いつもならば、白湯を置いて、おやすみなさいと声をかけて戻るのだが、今夜が最後だと決めていた。

「どうした」
「お屋敷に置いていただき、ありがとうございました。叔母さまのところへ行きます」
「そうか」
 少し辛そうに目を伏せた。
「仕方がないな」
「お礼になるかどうかわかりませんが、最後に私の舞を、見ていただけますか」
 間があった。
 その間、お互いに見つめあった。
「ああ。おれは、お座敷遊びはしないから、ここで見られるのは、ありがたい」
 と笑った。
「平助に自慢するよ」
 明るい顔をして見せる。
「鳴物も衣装もなくてつまらないと思いますが・・・」
 お座敷は賑やかで、華やかなものだ。
 地味な姿で舞っても、あまり楽しくないかもしれない。
「いや。あの時も、そうだったんだろ? 桜の堤で舞ったときも」
「ええ、そうでした」
 旅姿のままだった。
 でも、あの時は、満開の桜があった。

「おれにわかるかどうか、心許ないが・・・そういうことには、さっぱりだからな」

 確かに、似合わない。
 だからこそ、見てほしい。

「では」

 ゆきは、畳に手をついて、頭を下げた。
(何を舞おう)
 演目は考えていなかった。
 お座敷は、生き物だと叔母が言っていた。

 その時の客、その場の雰囲気で、曲や踊りを選べるのが一人前だと。

 だか、ゆきは、踊りを習ったことがないので、その数が少なかった。
 その代わりに、自分でその場に合わせて舞を作れる。

 客は和馬一人。

 ただ、自分の思いを乗せて舞えばいい。



 ーーもう、二度と会えなくても。
  あなたのことだけを、思い続ける。

  これからも。
  この先ずっと。
  二人は永遠に。

  何があっても、あなたへの愛は揺らがない。
  たとえ、離れ離れになっても。
  あなただけを想う。


 そんな思いを乗せて、動きはゆっくりと、流れるように。
 時々流し目をくれて、和馬に投げかける。
 普段はしない目の動きだが、舞の中の主人公になりきれば、どんな大胆なこともできてしまう。
 思いつく限りの色っぽい動きを入れてみる。
 表情、腰の動き、手の動き。
 下品に、物欲しげにならない程度に。

 想いの強さを込めて舞う。

 和馬は、はじめは戸惑って、目を瞬いていたが、次第にじっとこちらを見てくれている。

 見られるだけで、濡れてくる。

 急に恥ずかしくなって、顔を手で覆って膝をついた。

「ゆき、どうした?」
「すみません。そんなに見ないで・・・」

 見られる感覚に、まだ慣れていなかった。
 いや、和馬の前だからだろう。
 見てほしいと言っておきながら、恥ずかしい。

「こんなことで、恥ずかしいなんて、芸者失格です」
「恥ずかしがることはない。・・・綺麗だった。とても」
「本当ですか?」
「ああ、あの時、ゆきを追いかけていた男たちの気持ちがわかるよ。きっと、いい芸者になれるだろう」
「いいえ、私が聞きたいのは、そんな言葉ではありません」
「ん?」

 素の弱い自分と、舞っていた強い自分とが交差して、わけがわからなくなってくる。

 すっと、また立ち上がると、真っ直ぐ和馬のそばに寄った。

 その胸に倒れ込むようにして顔を近づける。

「抱いてくださいまし」
 舞の主人公になりきって口にする。

「私を好いてくださるのなら、抱いてください」
 目を見つめる。
 和馬の目も、それに応えて、そらさずにゆきの目をとらえていた。

 唇を近づけたのは、ゆきの方だった。

 そっと触れた唇は、柔らかく、温かく包まれる感覚に、全身がしびれた。

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