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氷の舞
氷の瞳
半年が経った。
八丁堀の日常は、何も変わらない。
前に戻っただけなのに、屋敷の中が暗くなったような気がする。
だが、それにももう慣れた。
いなくなったゆきの消息は聞こえて来ず、会いに来ることもなかった。
実物は消えても、まだ、体には、あのときの感覚が残っていて、時々、夢の中でゆきを抱いた。
捨てられて落ち込んでいるように見えるのか、紗江や周りが、やたらと縁談を勧めてくるようになり、平助までが、ゆきのことはもう忘れろと言う。
縁談は断っている。
とてもそんな気分にはなれなかった。
ゆきが帰ってくるのを待つとはなしに待っている。
だが、それを表に出すことはない。
いつまでも待つつもりだ。
寂しくないと言えば嘘になるが、ゆきがこの江戸で元気でいてくれれば、それだけでよかった。
誰かに取られる、といったような焦燥感もない。
ゆきは、おれを愛してくれている。
そんな根拠のない自信があった。
それを、半年前に確かめあったのだ。
ゆきは心変わりするかもしれないが、おれはない。
離れ離れになっても、ずっと愛している。
そう思うことで、なぜか心が落ち着いた。
「旦那! これこれ、ご覧になりやしたか?」
町を歩く和馬に、平助が走り寄ってきた。
「おい、どこで油売ってたんだ」
朝から姿が見えなかったのだ。
「えへへへ、すいやせん。これを買うのに並んでたんですよ。今、すごい人気で・・・」
と笑って首の後ろに手をやった。
「売り切れちゃうんじゃねえかとヒヤヒヤしましたよ」
「なんなんだ」
眉をひそめた和馬に、一枚の紙を見せた。
立ち止まって紙を見る。
錦絵だ。
「これ、おゆきちゃんじゃねえですか?」
芸者の立ち姿を描いている。
扇で口元を隠し、左手は舞っているような動き。
なにより、流し目が印象的だ。
感情を読み取れない目は笑っていない。
周りに椿の木を配し、花の上にも雪が積もっている。
これからの冬の季節に合わせているのか。
白と赤、そして着物の青。
「雪也・・・」
ーー流星のごとく現れた芸者、雪也。
ーーその氷の瞳を溶かす者、ありや。
といった文が書かれている。
「これでまた、人気になるんじゃ」
錦絵に描かれるほど人気になっているのか。
それに加えて売り出そうとしているのだろう。
「うまいことやるもんだな」
「旦那、感心してる場合じゃねえでしょ」
「どうしろって言うんだ」
「まあ、そりゃあ・・・」
平助が言葉に詰まる。
「落籍されちまったら、嫌じゃねえですか」
「そういうこともあるかもしれんな」
「いいんですか?」
「忘れろと言ってなかったか」
「言いましたけど・・・」
「おれは、ゆきが幸せなら、それでいいんだ」
何事もなかったように歩き出した。
錦絵は、懐にしまっておく。
八丁堀の日常は、何も変わらない。
前に戻っただけなのに、屋敷の中が暗くなったような気がする。
だが、それにももう慣れた。
いなくなったゆきの消息は聞こえて来ず、会いに来ることもなかった。
実物は消えても、まだ、体には、あのときの感覚が残っていて、時々、夢の中でゆきを抱いた。
捨てられて落ち込んでいるように見えるのか、紗江や周りが、やたらと縁談を勧めてくるようになり、平助までが、ゆきのことはもう忘れろと言う。
縁談は断っている。
とてもそんな気分にはなれなかった。
ゆきが帰ってくるのを待つとはなしに待っている。
だが、それを表に出すことはない。
いつまでも待つつもりだ。
寂しくないと言えば嘘になるが、ゆきがこの江戸で元気でいてくれれば、それだけでよかった。
誰かに取られる、といったような焦燥感もない。
ゆきは、おれを愛してくれている。
そんな根拠のない自信があった。
それを、半年前に確かめあったのだ。
ゆきは心変わりするかもしれないが、おれはない。
離れ離れになっても、ずっと愛している。
そう思うことで、なぜか心が落ち着いた。
「旦那! これこれ、ご覧になりやしたか?」
町を歩く和馬に、平助が走り寄ってきた。
「おい、どこで油売ってたんだ」
朝から姿が見えなかったのだ。
「えへへへ、すいやせん。これを買うのに並んでたんですよ。今、すごい人気で・・・」
と笑って首の後ろに手をやった。
「売り切れちゃうんじゃねえかとヒヤヒヤしましたよ」
「なんなんだ」
眉をひそめた和馬に、一枚の紙を見せた。
立ち止まって紙を見る。
錦絵だ。
「これ、おゆきちゃんじゃねえですか?」
芸者の立ち姿を描いている。
扇で口元を隠し、左手は舞っているような動き。
なにより、流し目が印象的だ。
感情を読み取れない目は笑っていない。
周りに椿の木を配し、花の上にも雪が積もっている。
これからの冬の季節に合わせているのか。
白と赤、そして着物の青。
「雪也・・・」
ーー流星のごとく現れた芸者、雪也。
ーーその氷の瞳を溶かす者、ありや。
といった文が書かれている。
「これでまた、人気になるんじゃ」
錦絵に描かれるほど人気になっているのか。
それに加えて売り出そうとしているのだろう。
「うまいことやるもんだな」
「旦那、感心してる場合じゃねえでしょ」
「どうしろって言うんだ」
「まあ、そりゃあ・・・」
平助が言葉に詰まる。
「落籍されちまったら、嫌じゃねえですか」
「そういうこともあるかもしれんな」
「いいんですか?」
「忘れろと言ってなかったか」
「言いましたけど・・・」
「おれは、ゆきが幸せなら、それでいいんだ」
何事もなかったように歩き出した。
錦絵は、懐にしまっておく。
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