【完結】誰に抱かれてもあなたへの愛は揺らがない

かじや みの

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氷の舞

芸の肥やし ※

「私には、好きな人がいます」
 言ってもどうなるものでもないことだが、親よりも歳の離れた旦那には、嘘はつけないと思った。

「そうだろう。わかっているよ」
 越後屋は、うなずいた。
 穏やかな表情を崩さない。
 包み込むような大人の余裕だ。
 小娘の思いなど、たわいもないのだろう。

「それでも芸者になったのは、なぜか言ってごらん。添い遂げようとは思わなかったのかね。まさか、舞だけ舞っていればいいと思っていたわけじゃないね」
「わかっています。添い遂げることはできないのです。私は、自分で芸者になることを選びました。他に生きる道はありません」
「ほう。そうかい。その覚悟はあるのだね。ならば、男は、芸の肥やしだと思えばいい。好いた男も、この私も、これから出会う男どもも」
「肥やし・・・」
「男を肥やしにして、芸を磨くのだ。過去のことも、すべてを栄養にするのだよ。それができれば、名声は思いのままだ」
「・・・」
 ゆきは呆然と越後屋を見つめた。
「覚悟はいいかい?」
「・・・」
「売れる覚悟だよ。私の言う通りにすればいい」
「・・・」
「芸者を育てるのも、私の楽しみでね」

 船がゴトンと音を立てて止まった。
 船着場に到着したようだ。
 船頭が屋形船の戸を開けた。
「ついてくるかね? 嫌ならば、そのまま帰るがいい」
 越後屋が腰を上げて船首に出た。
 振り向いて、手を伸ばす。
「さあ、どうするね」
「・・・」
 その手を取れば、どこか知らないところに連れて行かれるのだ。
 恐ろしい。
 それでも、ゆきはその手を取った。



 船宿では、すでに部屋が用意されていた。

「芸歴の短さを恥じることはない。媚びることもない。臆することなく舞えばいい」
 越後屋は、雪也の心構えを話す。
「どちらかといえば、悲恋ものが得意だが、お座敷では、男など興味がないとあしらう。冷たい目で突き放す。だが情がないわけではない。情は舞で見せれば良い」
 酒を飲みながら、雪也以上に興奮している。
「錦絵に描かせよう。楽しみにしているがいい」
「はい」
 売り込むための戦略を練るのが楽しいのだろう。
 錦絵の構想などをあれこれと語り、上機嫌だった。


「さて、仕上げをしようか」
 仕上げとは、床入りのことだろうと、身構えた。
「脱いでみなさい」
「・・・」
「私はもう歳だ。襲うようなことはもはやできん。体力は大事な時のために温存しておきたいのでね」
「嫌でございます」
 雪也ならば、そう言うのでは、とすまして言ってみた。
 越後屋は、声を立てて笑った。
「なるほど、雪也ならばそう言うだろうな。一般の客ならそれでいい。いいが、私のように、金を積んで旦那になろうとする者には通用しない。床でも雪也でいる必要がある。すぐには身に付かんだろうが・・・」
「・・・」
「そこまで作っておかねばな。素人のむつみ合いとは違うのだ。名うての遊び人が相手なのだから」
 と口もとを歪めて笑った。
「水揚げが私でよかった。さすがに吉次には仕込めないからね」
 雪也としての床入り?
 想像がつかなかったが、立ち上がった。
 言われるままにするしかなかった。
 帯を解く。
 慣れているはずなのに、手が震えた。

 着物を脱いで、肌襦袢になり、敷かれた布団のそばまでいく。
「何をしている。全部だよ。そこに座って、足を広げなさい」
 言われた通り、裸になり、布団の上に腰を下ろした。
「なかなかいい体じゃないか」
 足を広げて秘所を晒した。
 恥ずかしさに顔をそむける。
「欲しそうにしてはいけないよ」
 越後屋が羽織を脱ぎ、ゆきに近づく。
 和馬と抱き合って以来、数ヶ月男を受け入れていない体は、ゆきの思いとは裏腹に、愛液を滴らせる。

「あっ・・・」
 思わず声がもれ、首がのけぞった。
 越後屋の指は、絹に触れるような優しさでゆきの肌を撫でさすった。
 ツボを心得ていて、揉みほぐされるように、肌が柔らかくとろけ、腰がもっと快楽を求めて跳ね上がる。
「ほしいのかい?」
「あっ・・・んん、いや・・・」
 首を振った。
「好いた男に抱かれていると思うがいい」
「いや・・・」
 違う。和馬の愛撫とはまったく別のものだ。
 だが、あの時の快感を体が覚えている。
 指が入れられた。
 あくまでも優しくかき回され、二本、三本と指がふえ、出すまいと思った喘ぎ声が漏れる。
「あ、あ、ああっ・・・」
 腰が、体の中が震え、指を締め付ける。いってしまった。
 越後屋が楽しげに笑った。
「そんなに早く気をやってしまってはいけないよ」
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