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炎の舞
引き裂く炎
まだ火は回っていない。
だが、一度火が見えたら一気に燃え広がるだろう。
それも、もう間もなくだ。
冬だというのに、空気が生暖かく、気持ち悪い。
誰もいないかのように、中はひっそりとしている。
なぜ、左京大夫は出てこないのだろう。
「左京さま・・・」
呼ぼうとして、口元を押さえた。
「貴様らも、道連れにしてやる」
左京大夫の声が聞こえた。
刀?
白刃を構えていた。
一人ではない。
刀を抜いた武士が二人がかりで、左京大夫に向き合っている。
あれは、取り巻きたちの中にいた武士だ。
仲間と見せかけて、牙を剥いたのだ。
左京大夫は、すでに負傷しているようだった。
白っぽい着物が、遠くから見ても、黒くなっている。
不意を突かれたに違いなかった。
武芸に通じている左京大夫が、そう易々と討たれるはずがない。
今なら、誰にも見咎められず、左京大夫を亡き者にできる。
これほど絶好な機会はないだろう。
誰も見ていなければ、証拠も火にかき消される。
人を呼ぼうにも、周りにはもう誰もいない。
やめさせなければ。
これ以上、左京大夫が傷つくのを見たくない。
雪也は迷うことなく、左京大夫のそばに走り寄った。
「左京さま! 早く! 早く逃げて!」
「馬鹿な! 来るな!」
見えているはずなのに、周りが目に入らない。
敵がすぐ近くにいるのに、左京大夫しか見えていなかった。
刀を持った侍の脇を通り抜けた。
何が起こったのか。
左京大夫の胸に飛び込んだのはいいが、背中が焼け付くように熱くなり、つんのめって、ぶつかるように倒れ込んだ。
支えようとしてくれた左京大夫ごと、床に倒れた。
体が熱い。
もう、火が近くに迫ってきたのだろうか。
「ばか! なぜ戻ってきたんだ!」
「左京さまを置いては、行けません」
夢中でしがみつく。
一緒に逃げたいのに、倒れたまま、体に力が入らず起こすこともできない。
不思議と痛みは感じなかった。
敵は、とどめを刺すことなく逃げたようだ。
とどめを刺さなくても、火がすべてを呑み込んでくれる。
「逃げましょ・・・」
今なら、まだ間に合う。
お互いの顔が見えるように、横向きに体をずらした。
左京大夫の目が笑った。
「どうやらおれも、焼きが回ったようだ。まさか、お前と過ごしたこの場所で、生涯を終えるとはな」
「左京さまが、弱音を吐くなんて・・・らしくない」
傷を確かめてはいないが、倒れたままだということは、深手なのかもしれない。
「この、跳ねっ返りめ」
手が、愛おしそうに頬を撫でる。
「思い残すことはない。十分遊び尽くした。この子を見ずに逝かなければならんのが、残念だが・・・」
「遊びすぎです」
「あの世でも遊んでくれるわ」
「ばか・・・」
すべての感覚が薄れていく。
火が迫ってきても、これならきっと、熱くない。
「私も、お供します」
道に、座り込んでしまっている女を見つけた。
「おい、大丈夫か。早く逃げろ」
肩を揺すると、見覚えのある顔が振り返った。
「お染」
放心していたお染が、はっとした。
「片桐さま!」
「ゆきはどうした!」
叫ばないと、声が届かない。
建物が激しく燃える音と、風の轟々という音にかき消されてしまう。
「まだ、中に! 松平の殿様と・・・」
お染が指差した建物から、人が出てくるのが見えた。
武士が二人、慌てて去っていく。
「旦那!」
追いついてきた平助が呼んだ。
「お染を安全なところに避難させろ」
「旦那は?」
返事をしている暇はない。
着ている羽織を脱ぎ、頭からかぶった。
中はもう、火が回っているかもしれない。
だが、一度火が見えたら一気に燃え広がるだろう。
それも、もう間もなくだ。
冬だというのに、空気が生暖かく、気持ち悪い。
誰もいないかのように、中はひっそりとしている。
なぜ、左京大夫は出てこないのだろう。
「左京さま・・・」
呼ぼうとして、口元を押さえた。
「貴様らも、道連れにしてやる」
左京大夫の声が聞こえた。
刀?
白刃を構えていた。
一人ではない。
刀を抜いた武士が二人がかりで、左京大夫に向き合っている。
あれは、取り巻きたちの中にいた武士だ。
仲間と見せかけて、牙を剥いたのだ。
左京大夫は、すでに負傷しているようだった。
白っぽい着物が、遠くから見ても、黒くなっている。
不意を突かれたに違いなかった。
武芸に通じている左京大夫が、そう易々と討たれるはずがない。
今なら、誰にも見咎められず、左京大夫を亡き者にできる。
これほど絶好な機会はないだろう。
誰も見ていなければ、証拠も火にかき消される。
人を呼ぼうにも、周りにはもう誰もいない。
やめさせなければ。
これ以上、左京大夫が傷つくのを見たくない。
雪也は迷うことなく、左京大夫のそばに走り寄った。
「左京さま! 早く! 早く逃げて!」
「馬鹿な! 来るな!」
見えているはずなのに、周りが目に入らない。
敵がすぐ近くにいるのに、左京大夫しか見えていなかった。
刀を持った侍の脇を通り抜けた。
何が起こったのか。
左京大夫の胸に飛び込んだのはいいが、背中が焼け付くように熱くなり、つんのめって、ぶつかるように倒れ込んだ。
支えようとしてくれた左京大夫ごと、床に倒れた。
体が熱い。
もう、火が近くに迫ってきたのだろうか。
「ばか! なぜ戻ってきたんだ!」
「左京さまを置いては、行けません」
夢中でしがみつく。
一緒に逃げたいのに、倒れたまま、体に力が入らず起こすこともできない。
不思議と痛みは感じなかった。
敵は、とどめを刺すことなく逃げたようだ。
とどめを刺さなくても、火がすべてを呑み込んでくれる。
「逃げましょ・・・」
今なら、まだ間に合う。
お互いの顔が見えるように、横向きに体をずらした。
左京大夫の目が笑った。
「どうやらおれも、焼きが回ったようだ。まさか、お前と過ごしたこの場所で、生涯を終えるとはな」
「左京さまが、弱音を吐くなんて・・・らしくない」
傷を確かめてはいないが、倒れたままだということは、深手なのかもしれない。
「この、跳ねっ返りめ」
手が、愛おしそうに頬を撫でる。
「思い残すことはない。十分遊び尽くした。この子を見ずに逝かなければならんのが、残念だが・・・」
「遊びすぎです」
「あの世でも遊んでくれるわ」
「ばか・・・」
すべての感覚が薄れていく。
火が迫ってきても、これならきっと、熱くない。
「私も、お供します」
道に、座り込んでしまっている女を見つけた。
「おい、大丈夫か。早く逃げろ」
肩を揺すると、見覚えのある顔が振り返った。
「お染」
放心していたお染が、はっとした。
「片桐さま!」
「ゆきはどうした!」
叫ばないと、声が届かない。
建物が激しく燃える音と、風の轟々という音にかき消されてしまう。
「まだ、中に! 松平の殿様と・・・」
お染が指差した建物から、人が出てくるのが見えた。
武士が二人、慌てて去っていく。
「旦那!」
追いついてきた平助が呼んだ。
「お染を安全なところに避難させろ」
「旦那は?」
返事をしている暇はない。
着ている羽織を脱ぎ、頭からかぶった。
中はもう、火が回っているかもしれない。
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