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炎の舞
橋を渡る
抱き合うように横たわる二人を見つけた。
燃え盛る火が迫っていて、昼間のように明るくなっている。
それでもまだ、二人はかろうじて火に巻かれてはいない。
「ゆき!」
戸が開け放たれて、ほとんど縁側に近いところに倒れているために、すぐに見つかった。
反応はないが、息はしているようだ。
左京大夫の方が、傷が深く、黒々と血溜まりができている。
その血で、ゆきの着物も染まっていた。
「松平さま!」
頬を叩いたが、ひどく冷たかった。
瞼が震え、目が開く。
唇が動き、ニヤリと笑っているようだった。
「八丁堀か。よく来た・・・」
言葉はところどころ途切れるが、唇の動きで言いたいことはわかる。
「ゆきを返していただきます」
「よかろう。・・・あとは頼む。おれはこのまま置いていってかまわぬ」
助かろうとは思っていないようだ。
「ご安心ください。ゆきは、それがしが、きっと幸せにします」
穏やかな瞳がうなずいたように見えた。
「早く行け」
うなずき、頭を下げた。
羽織でゆきを包んで抱き上げる。
火の粉が雪のように降りしきった。
炎は待ってくれない。
(一生後悔するかもしれないな)
左京大夫を置き去りにしたことを、和馬も、ゆきも、悔やむだろう。
建物が崩れる前に外に出た。
道にはもう誰もいなかった。
お染は平助が避難させたようだ。
橋の袂まで、そのまま行き、背中の傷を刺激しないよう、背に負う。
羽織でゆきの体をきつく、己の体にくくりつけた。
橋を渡る。
あれほどごった返していた人々も、少なくなっている。
「これは・・・夢?・・・和馬さまが」
ゆすられて気がついたのか、背中でゆきがつぶやいた。
「花が、舞ってる・・・」
火の粉が舞っているのを、花と見間違えているのか。
「和馬さま・・・本当に、和馬さま?」
「帰ろう」
「嬉しい・・・最後に和馬さまに会えた・・・」
「思い出すな。あのときも、こうして帰ったな」
夜桜が舞う河岸まで迎えに行き、おぶって帰ってきた。
首筋に、雫が落ちた。
「私・・・和馬さまが、好き。・・・和馬さまの、お嫁さんになりたかった」
「うん。・・・なれるさ」
「ううん、無理でしょ。和馬さまはもう・・・」
「ああ、紗江の差し金で平助が、ゆきに言いに行ったこと、気にしてるんだな。・・・おれは、一人だ」
「嘘・・・」
「嘘じゃない。おれが、あんまり煮え切らないから、振られたんだよ。今はもう、他の人の奥方になってる」
「そんなこと・・・」
「屋敷に着けばわかる。・・・人の心は、わからないものさ」
誰かに、操れるものじゃない。
「好きだ。もう、何があっても、離しはしない」
ゆきは、また眠ってしまったのか、何も言わなかった。
燃え盛る火が迫っていて、昼間のように明るくなっている。
それでもまだ、二人はかろうじて火に巻かれてはいない。
「ゆき!」
戸が開け放たれて、ほとんど縁側に近いところに倒れているために、すぐに見つかった。
反応はないが、息はしているようだ。
左京大夫の方が、傷が深く、黒々と血溜まりができている。
その血で、ゆきの着物も染まっていた。
「松平さま!」
頬を叩いたが、ひどく冷たかった。
瞼が震え、目が開く。
唇が動き、ニヤリと笑っているようだった。
「八丁堀か。よく来た・・・」
言葉はところどころ途切れるが、唇の動きで言いたいことはわかる。
「ゆきを返していただきます」
「よかろう。・・・あとは頼む。おれはこのまま置いていってかまわぬ」
助かろうとは思っていないようだ。
「ご安心ください。ゆきは、それがしが、きっと幸せにします」
穏やかな瞳がうなずいたように見えた。
「早く行け」
うなずき、頭を下げた。
羽織でゆきを包んで抱き上げる。
火の粉が雪のように降りしきった。
炎は待ってくれない。
(一生後悔するかもしれないな)
左京大夫を置き去りにしたことを、和馬も、ゆきも、悔やむだろう。
建物が崩れる前に外に出た。
道にはもう誰もいなかった。
お染は平助が避難させたようだ。
橋の袂まで、そのまま行き、背中の傷を刺激しないよう、背に負う。
羽織でゆきの体をきつく、己の体にくくりつけた。
橋を渡る。
あれほどごった返していた人々も、少なくなっている。
「これは・・・夢?・・・和馬さまが」
ゆすられて気がついたのか、背中でゆきがつぶやいた。
「花が、舞ってる・・・」
火の粉が舞っているのを、花と見間違えているのか。
「和馬さま・・・本当に、和馬さま?」
「帰ろう」
「嬉しい・・・最後に和馬さまに会えた・・・」
「思い出すな。あのときも、こうして帰ったな」
夜桜が舞う河岸まで迎えに行き、おぶって帰ってきた。
首筋に、雫が落ちた。
「私・・・和馬さまが、好き。・・・和馬さまの、お嫁さんになりたかった」
「うん。・・・なれるさ」
「ううん、無理でしょ。和馬さまはもう・・・」
「ああ、紗江の差し金で平助が、ゆきに言いに行ったこと、気にしてるんだな。・・・おれは、一人だ」
「嘘・・・」
「嘘じゃない。おれが、あんまり煮え切らないから、振られたんだよ。今はもう、他の人の奥方になってる」
「そんなこと・・・」
「屋敷に着けばわかる。・・・人の心は、わからないものさ」
誰かに、操れるものじゃない。
「好きだ。もう、何があっても、離しはしない」
ゆきは、また眠ってしまったのか、何も言わなかった。
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