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4章 王女、王城へ乗り込む
2 隠れるなら
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セド家にたどり着くと、落ちるように馬を降りて、這っていく。
馬がセド家を覚えていてくれて助かった。
記憶に自信がなかったからだ。
迷っていたら、テオの体力ももたず、不審者としてとらえられたかもしれない。
鍛えていない体に、休みなしの騎乗はきつかった。
夜になったのも、幸いだった。
ラビの鳴き声と馬の嘶きに、異常を察知した護衛が見つけて中に知らせてくれた。
セド家は大騒ぎとなった。
「ユンナ、水だ」
セド侯爵が、自らテオを抱き上げて部屋に運ぶ。
事情を話したくても、喉が渇きすぎて、声が出ない。
「医者はどうしますか」
「いや、まだ呼ぶな。なんとも言えないが、今はできるだけの手当をする。外に漏らすな」
「わかりました」
ユンナは落ち着いている。
「テオさまっ!」
泣きながら名を呼ぶのは、新しくジュートから来た召使だ。
テオは、目を開けて見た。
ジュートで一緒に、召使いとしての教育を受けていたルカという子で、テオより一つ年下だった。
声をかけたかったが、喉がひりついている。
安心するように頷いてやった。
ユンナはテキパキと動き、水をルカに任せると、先回りしてベッドを整え、灯りを入れ、ドアを閉めた。
侯爵がテオをベッドに座らせると、ルカが水の入ったグラスを差し出す。
だが、手が震えて持てない。
それを見た侯爵が、後ろからテオを抱くように座らせ、自身にもたれさせる。
ユンナが水差しを持ってきて、水を入れ替えた。
少しずつ飲ませる。
「無茶なことをする。とんだおてんばだ」
「着替えをお持ちいたします」
とユンナがいい、部屋を出た。
汗と砂埃に塗れている。
「申し訳・・・ございません・・・」
声が出せるようになった。
「何がありましたか」
「シーザスのゼルダさまが・・・王子の城に・・・」
「なんですと?」
「なんの前触れもなく、突然・・・」
「先手を打たれたか」
「私のことも、知られてしまいました」
「まずいな」
「ジュートに使いを・・・」
「どうなさるおつもりですか。逃げた方が良いのでは」
「今は、休ませて・・・」
「もちろんです。まずはゆっくりお休みください」
着替えを持ってきたユンナが入ってくると、侯爵は後を彼女たちに任せて部屋を出ていった。
「ありがとう」
「ご無事でよかった」
ユンナの優しい笑顔に救われるようだった。
翌朝、身体中が痛くて、起き上がれなかった。
「セドさま、すみません。動けそうにありません」
様子を見にきた侯爵に、ベッドに横たわったまま苦笑する。
「なんの、そのままで・・・」
「王子は大丈夫でしょうか」
「心配ないでしょう。ゼルダ王女が、王子を害するとは思えない。それよりご自分の身を案じなければ・・・。ジュートに逃げるつもりはないのですか」
「・・・」
「身を隠すのが先です」
「ジュートに逃げては、攻める口実を与えてしまいます。ゼルダさまは、次はジュートを攻めると・・・」
城での出来事を話した。
「そうか。戦の元は、王女だったのか・・・」
「ジュートに使いを。早く知らせなければ」
「その使いですが、私が行きましょう。直接話した方がいい」
「でも、それでは王太子の不興を買うのではないですか」
「あなたのことが王太子に知られるのも時間の問題です。早くジュートの力を借りた方が・・・」
「そう。でもだからこそ、セドさまにいてもらった方がいいのです。残された者たちの身に危険が及ばないとも限りません」
「では誰を?」
「ルカに行ってもらいましょう。里帰りと思われて目立たないでしょう」
「なるほど」
侯爵はうなずいた。
「あなたはどうなさるのです? 逃げるのではないのですか」
「私は・・・」
自分の思いを確かめるように目をつぶった。
「もう、隠れたくありません」
侯爵の目をまっすぐに見て言った。
「王城に、乗り込みます」
馬がセド家を覚えていてくれて助かった。
記憶に自信がなかったからだ。
迷っていたら、テオの体力ももたず、不審者としてとらえられたかもしれない。
鍛えていない体に、休みなしの騎乗はきつかった。
夜になったのも、幸いだった。
ラビの鳴き声と馬の嘶きに、異常を察知した護衛が見つけて中に知らせてくれた。
セド家は大騒ぎとなった。
「ユンナ、水だ」
セド侯爵が、自らテオを抱き上げて部屋に運ぶ。
事情を話したくても、喉が渇きすぎて、声が出ない。
「医者はどうしますか」
「いや、まだ呼ぶな。なんとも言えないが、今はできるだけの手当をする。外に漏らすな」
「わかりました」
ユンナは落ち着いている。
「テオさまっ!」
泣きながら名を呼ぶのは、新しくジュートから来た召使だ。
テオは、目を開けて見た。
ジュートで一緒に、召使いとしての教育を受けていたルカという子で、テオより一つ年下だった。
声をかけたかったが、喉がひりついている。
安心するように頷いてやった。
ユンナはテキパキと動き、水をルカに任せると、先回りしてベッドを整え、灯りを入れ、ドアを閉めた。
侯爵がテオをベッドに座らせると、ルカが水の入ったグラスを差し出す。
だが、手が震えて持てない。
それを見た侯爵が、後ろからテオを抱くように座らせ、自身にもたれさせる。
ユンナが水差しを持ってきて、水を入れ替えた。
少しずつ飲ませる。
「無茶なことをする。とんだおてんばだ」
「着替えをお持ちいたします」
とユンナがいい、部屋を出た。
汗と砂埃に塗れている。
「申し訳・・・ございません・・・」
声が出せるようになった。
「何がありましたか」
「シーザスのゼルダさまが・・・王子の城に・・・」
「なんですと?」
「なんの前触れもなく、突然・・・」
「先手を打たれたか」
「私のことも、知られてしまいました」
「まずいな」
「ジュートに使いを・・・」
「どうなさるおつもりですか。逃げた方が良いのでは」
「今は、休ませて・・・」
「もちろんです。まずはゆっくりお休みください」
着替えを持ってきたユンナが入ってくると、侯爵は後を彼女たちに任せて部屋を出ていった。
「ありがとう」
「ご無事でよかった」
ユンナの優しい笑顔に救われるようだった。
翌朝、身体中が痛くて、起き上がれなかった。
「セドさま、すみません。動けそうにありません」
様子を見にきた侯爵に、ベッドに横たわったまま苦笑する。
「なんの、そのままで・・・」
「王子は大丈夫でしょうか」
「心配ないでしょう。ゼルダ王女が、王子を害するとは思えない。それよりご自分の身を案じなければ・・・。ジュートに逃げるつもりはないのですか」
「・・・」
「身を隠すのが先です」
「ジュートに逃げては、攻める口実を与えてしまいます。ゼルダさまは、次はジュートを攻めると・・・」
城での出来事を話した。
「そうか。戦の元は、王女だったのか・・・」
「ジュートに使いを。早く知らせなければ」
「その使いですが、私が行きましょう。直接話した方がいい」
「でも、それでは王太子の不興を買うのではないですか」
「あなたのことが王太子に知られるのも時間の問題です。早くジュートの力を借りた方が・・・」
「そう。でもだからこそ、セドさまにいてもらった方がいいのです。残された者たちの身に危険が及ばないとも限りません」
「では誰を?」
「ルカに行ってもらいましょう。里帰りと思われて目立たないでしょう」
「なるほど」
侯爵はうなずいた。
「あなたはどうなさるのです? 逃げるのではないのですか」
「私は・・・」
自分の思いを確かめるように目をつぶった。
「もう、隠れたくありません」
侯爵の目をまっすぐに見て言った。
「王城に、乗り込みます」
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