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一刀三礼
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ー修行開始から25日目ー
ーーキィィィィーン!
四方をコンクリートで囲まれ何もない空間に乾いた金属音が幾度となく響き渡る。
ーーキンッ!
短く詰まったような金属音の直後、日本刀によく似た片手剣が中を舞い地面に突き刺さる。
「参った。ここまでよく頑張ったな」
仰向けに倒れた男が軽く両手を上げ降参の意志を示す。
「はぁ、はぁ、ありがうございます。ジャスパーさん」
クルスは両手剣を地面に突き立て、倒れたジャスパーに手を伸ばす。ジャスパーはクルスの手を取り体を起こした。
二人共満身創痍といった風貌ではあるが向かい合い満足気な表情で笑顔を交わす。
「よくこの短期間で神速を身につけたな。いやはやなかなかの才能だよ」
「ジャスパーさんに散々苛められたお陰ですよ」
クルスは冗談混じりに笑いながらそう返す。
「初めて神速を見た時には何が起こったのか、全く理解できないまま殺されると本気で思いましたからね」
そう、修行初日にジャスパーが見せた『消える』正体が神速だったのだ。
そしてクルスは25日目にして基本移動術『神速』を会得し、神速を利用した戦闘術をマスターしたのであった。
「俺の演技も大したものだろ?」
「一か八かの賭けだったんだよ。この『神速』は通常1ヶ月そこらで身につけることが出来る術じゃないからね。それこそ誰もが身につけられる術でもない。才能も必要なんだ。それを師団長と来たら「1ヶ月でものにしな」ときた。」
「才能がなく、ものにならない時には『誤って殺ってしまった』って言う言い訳も考えた」
冗談交じりで返すジャスパーだが「この人は本気で考えているかもしれない」と思うクルスであった。
修行初日にジャスパーに神速を使った戦闘術を直接見せつけられた。ジャスパーは短期間で神速を身につけさせるため理論的に教えるのではなく、実際の命のやり取りを行なうギリギリの戦闘の中で神速を体得させる方法を取ったのである。
リナリーは12日という短期間で神速をマスターしたが、これはリナリーの才能という他ない。アンナはそれを見抜き倫理的に術の仕組みを教えマスターさせたが通常はそうはいかない。
上級調律師の中で天才と称されるアンナはそれを見抜き、出来る限りの短時間で引き出した。これは今まで霊界統括調律師団で様々なタイプの上級調律師達を指導し、まとめ上げ、引っ張ってきたアンナの『才能を見抜く』手腕の賜物である。
このような『神速』の術を身につけさせるためジャスパーが取った手段は自身が『悪者』になり、殺意を見せつけることでクルスの本気と才能を出来る限り早く引き出したのだ。
初日にジャスパーに倒されたクルスが目を覚ましたのは二日後。丁寧に手当され痛みは残るが動くには問題がない程度に治癒術が施された。
目を覚ましたクルスには戦闘にて見せた『消える』術が『神速』と言う時空間移動術だと言うこと、そして30日以内に自身の見せた『神速』を身につけなければ命を絶つという事を伝えた。
細かな説明は邪魔になると考えたジャスパーは
「一刀三礼」
と言うヒントだけ与え、あとはただひたすら実践にて悪者を演じクルスに自身にて術を身につけるのを待ったのである。
一刀三礼とは直訳では仏像を彫る際一刀掘る事に三度、神仏を慈しみ礼を行なう様を表した言葉である。
ジャスパーの伝えたかった事は『神速』発動の行動パターンと神技への慈しみ(念)である。
神速の発動はまず、
第一に『移動先の着地点イメージ』の念が必要になる。
第二に『時空間移動発動』の念。
第三に『時空間帰還』の念にてイメージした着地点に到達するのだ。
これを一刀振るう極短時間にて行なう神速戦闘術の教えなのである。
合間合間にヒントを与えるある種の優しさを見せるジャスパーにクルスは「演じているのでは」とも感じたが次の瞬間「本気の殺気」を見せつけるアメとムチで見事神速を身につけさせた。
「さすがランドルフ家の長子と言ったところ、剣術の技はそこいらの調律師ではかなわないだろう。しかし、調律師には時空間移動術がある。どれだけ剣術の腕があってもそれだけでは格下の剣使いにもあっという間にやられてしまう」
「はい、それは初日に痛いほど思い知らされました。ジャスパーさんは格下の剣使いではないですけどね」
クルスは苦笑いの表情で答える。
「いや、単純な剣術の腕ならクルスにかなわないだろう」
ジャスパーは謙遜する。
「この神速は剣術ととても相性がいいんだ。剣使いは神速をマスターする事で必殺の技になる」
「はい。」
「ひとつ現時点のクルスの弱点は聖神力の総量だろう。クルスの聖神力はだいたい100弱。神速の発動には約30必要だ。聖神力は一晩寝ればほぼ回復するがそれでも一日に発動できる数は『3回』だな」
「体力的にも3回が限界だろうがそれ以上の発動を無理に行うと時空間に囚われる可能性もある。気をつけるんだな」
「はい。わかりました」
「次、鍛えてやる時には総量の引き上げを手ほどきしてやろう。まぁやり方は今回とさほど変わらないがな」
ジャスパーは笑いながらも冷酷な目付きでクルスを見つめそう話す。
「は、はい」
「あとはリナリーの修行完了まで体を休めるんだな。あと5日ほど残っているだろ」
「はい。もし良ければ残りの時間でもう少し剣術の修行をつけてもらえませんか?あの、出来れば普通に…」
「それは構わないが俺の普通はこれなんだが。殺気はある程度抑えてやるが」
表情を変えずにそう答えるジャスパー。
「お、お願いします」
狼族の冷酷さが所々本心に思え、未だ少し恐怖心が消えないクルスでなのあった。
ーー修行開始から25日目。クルス『神速戦闘術』マスター
ーーキィィィィーン!
四方をコンクリートで囲まれ何もない空間に乾いた金属音が幾度となく響き渡る。
ーーキンッ!
短く詰まったような金属音の直後、日本刀によく似た片手剣が中を舞い地面に突き刺さる。
「参った。ここまでよく頑張ったな」
仰向けに倒れた男が軽く両手を上げ降参の意志を示す。
「はぁ、はぁ、ありがうございます。ジャスパーさん」
クルスは両手剣を地面に突き立て、倒れたジャスパーに手を伸ばす。ジャスパーはクルスの手を取り体を起こした。
二人共満身創痍といった風貌ではあるが向かい合い満足気な表情で笑顔を交わす。
「よくこの短期間で神速を身につけたな。いやはやなかなかの才能だよ」
「ジャスパーさんに散々苛められたお陰ですよ」
クルスは冗談混じりに笑いながらそう返す。
「初めて神速を見た時には何が起こったのか、全く理解できないまま殺されると本気で思いましたからね」
そう、修行初日にジャスパーが見せた『消える』正体が神速だったのだ。
そしてクルスは25日目にして基本移動術『神速』を会得し、神速を利用した戦闘術をマスターしたのであった。
「俺の演技も大したものだろ?」
「一か八かの賭けだったんだよ。この『神速』は通常1ヶ月そこらで身につけることが出来る術じゃないからね。それこそ誰もが身につけられる術でもない。才能も必要なんだ。それを師団長と来たら「1ヶ月でものにしな」ときた。」
「才能がなく、ものにならない時には『誤って殺ってしまった』って言う言い訳も考えた」
冗談交じりで返すジャスパーだが「この人は本気で考えているかもしれない」と思うクルスであった。
修行初日にジャスパーに神速を使った戦闘術を直接見せつけられた。ジャスパーは短期間で神速を身につけさせるため理論的に教えるのではなく、実際の命のやり取りを行なうギリギリの戦闘の中で神速を体得させる方法を取ったのである。
リナリーは12日という短期間で神速をマスターしたが、これはリナリーの才能という他ない。アンナはそれを見抜き倫理的に術の仕組みを教えマスターさせたが通常はそうはいかない。
上級調律師の中で天才と称されるアンナはそれを見抜き、出来る限りの短時間で引き出した。これは今まで霊界統括調律師団で様々なタイプの上級調律師達を指導し、まとめ上げ、引っ張ってきたアンナの『才能を見抜く』手腕の賜物である。
このような『神速』の術を身につけさせるためジャスパーが取った手段は自身が『悪者』になり、殺意を見せつけることでクルスの本気と才能を出来る限り早く引き出したのだ。
初日にジャスパーに倒されたクルスが目を覚ましたのは二日後。丁寧に手当され痛みは残るが動くには問題がない程度に治癒術が施された。
目を覚ましたクルスには戦闘にて見せた『消える』術が『神速』と言う時空間移動術だと言うこと、そして30日以内に自身の見せた『神速』を身につけなければ命を絶つという事を伝えた。
細かな説明は邪魔になると考えたジャスパーは
「一刀三礼」
と言うヒントだけ与え、あとはただひたすら実践にて悪者を演じクルスに自身にて術を身につけるのを待ったのである。
一刀三礼とは直訳では仏像を彫る際一刀掘る事に三度、神仏を慈しみ礼を行なう様を表した言葉である。
ジャスパーの伝えたかった事は『神速』発動の行動パターンと神技への慈しみ(念)である。
神速の発動はまず、
第一に『移動先の着地点イメージ』の念が必要になる。
第二に『時空間移動発動』の念。
第三に『時空間帰還』の念にてイメージした着地点に到達するのだ。
これを一刀振るう極短時間にて行なう神速戦闘術の教えなのである。
合間合間にヒントを与えるある種の優しさを見せるジャスパーにクルスは「演じているのでは」とも感じたが次の瞬間「本気の殺気」を見せつけるアメとムチで見事神速を身につけさせた。
「さすがランドルフ家の長子と言ったところ、剣術の技はそこいらの調律師ではかなわないだろう。しかし、調律師には時空間移動術がある。どれだけ剣術の腕があってもそれだけでは格下の剣使いにもあっという間にやられてしまう」
「はい、それは初日に痛いほど思い知らされました。ジャスパーさんは格下の剣使いではないですけどね」
クルスは苦笑いの表情で答える。
「いや、単純な剣術の腕ならクルスにかなわないだろう」
ジャスパーは謙遜する。
「この神速は剣術ととても相性がいいんだ。剣使いは神速をマスターする事で必殺の技になる」
「はい。」
「ひとつ現時点のクルスの弱点は聖神力の総量だろう。クルスの聖神力はだいたい100弱。神速の発動には約30必要だ。聖神力は一晩寝ればほぼ回復するがそれでも一日に発動できる数は『3回』だな」
「体力的にも3回が限界だろうがそれ以上の発動を無理に行うと時空間に囚われる可能性もある。気をつけるんだな」
「はい。わかりました」
「次、鍛えてやる時には総量の引き上げを手ほどきしてやろう。まぁやり方は今回とさほど変わらないがな」
ジャスパーは笑いながらも冷酷な目付きでクルスを見つめそう話す。
「は、はい」
「あとはリナリーの修行完了まで体を休めるんだな。あと5日ほど残っているだろ」
「はい。もし良ければ残りの時間でもう少し剣術の修行をつけてもらえませんか?あの、出来れば普通に…」
「それは構わないが俺の普通はこれなんだが。殺気はある程度抑えてやるが」
表情を変えずにそう答えるジャスパー。
「お、お願いします」
狼族の冷酷さが所々本心に思え、未だ少し恐怖心が消えないクルスでなのあった。
ーー修行開始から25日目。クルス『神速戦闘術』マスター
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