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いっすん坊って・・・
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いっすん坊がいなくなった。穴ぐらも消えてしまった・・・
白いキリに包まれていたのが、しだいに周りが明るくなって、気がついたらお寺の石段にすわっていた。ラジオ体操が終わってから、ずっとここにすわっていたのか?
「おい、いっすん坊。勝手に消えるなよ!」ってつぶやいた。
あれ、でもいっすん坊ってなんだ?
いっすん坊ってなんだったんだ。イッスンボー、イッスンボー、イッスンボウシか、それともツクツクボウシか?なんか、たった今まで変なことを考えていたんだ。何だったっけ。なんでオレこんな所にすわってるんだ。ぼーっとして、なんか母さんの夢を見ていたみたいだったけど。
おじいちゃんがそばに立っていた。
「なんじゃ、ラジオ体操が終わってから今までずっとここに座っておったんか」
「うん、なんかずっと変な夢を見てたみたい」
「そうか、良樹はここの景色が好きなんか。由起子もここに座ってじっと瀬戸をながめているのが好きじゃった」
「おじいちゃんか?いっすん坊は」
「いっすん坊?なんじゃそりゃ」
変な顔をして、でもにやりと笑った。
そうなんだ。なんじゃそりゃだよ。でも、それが分からないんだ。なんかそういう名前をたびたび叫んでいた気がするんだ。夢の中なのかな、ついさっきまで、いっすん坊いっすん坊って。でも、なんのことだかどうも思い出せない。じいちゃんのことかと思ったが違うみたいだ。なんだったんだ?いっすん坊って。
「じいちゃん、七回忌って何なんだ」
「お前のお母ちゃんが亡くなって七年目に入る日の法要じゃ」
「でも、母さんの墓参りなら、ここに来るたびやってるぞ。七年目だけ何で法要なんだ?」
「人間はのう、亡くなってすぐにあの世に行けるわけではないんじゃ。あの世に迎えられる前に六道といって、乗り越えなければならない六つの世界がある。それを乗り越えるのに六年かかって、七年目に入ってやっとあの世にいけるんじゃ。だから、今日でお母ちゃんはやっと七年目を迎えて、晴れてあの世に迎えられる。そのお見送りが七回忌じゃ。ヨシキにはちょっと難しいか。今まではおまえのすぐそばにお母ちゃんがいた。ずっとおまえを見守っていた。まあ、これでお母ちゃんもやっとあの世に行けるってことじゃ」
そうか、今までは母さんもあの世とこの世の間をさまよっていたんだ。
昼をだいぶ過ぎて、父さんがやって来た。ばあちゃんと三人でお寺まで上がる。かあさんの七回忌法要だ。
じいちゃんの読経が始まった。後ろで、父さんとばあちゃん、お寺のばあちゃん。そしてヨシキが正座して並んでいる。かあさんの妹の川内のおばちゃんも横に居る。その後ろに、親戚やら島の人やらがたくさん並んで座っている。
ご仏前の母さんの写真は笑っている。笑ってヨシキを見ている。
「由起子さんが亡くなって、もう七回忌を迎えたんじゃねえ」
「早いものよねえ。もうヨッちゃんが中学生じゃもの」
「ほんと、けがの多いやんちゃな子だけど、なんとか元気に育ってるよね」
「由紀ちゃんが天国からいつも見守ってるんじゃろうね」
法要が終わっても、みんな境内でそれぞれがおしゃべりをしている。
父さんがヨシキに言った。
「とうさんは、しばらく出張で留守をするんだ。すまんがヨシキ、おまえ盆明けくらいまで、この島でばあちゃんと一緒にいてくれんか」
「そうか、そうだね。そうするよ。夏休み中ここにいるよ。宮田と約束があったんだ。だけど、本当はあんまり行きたくなかったんだよ。ちょうどいい口実ができた。直ぐに電話で断るよ。広川先生と部活の顧問の先生にも電話しておく」
父さんは、足下に落ちていたセミの抜け殻を拾って、懐かしそうに見ていた。
「父さんと母さんは、このセミの羽化を見るのが大好きだったんだ。何時間もかけてセミが羽化するのを二人でよく見ていた」
川内のおばちゃんはいつものようにおしゃべりで、近所の人といつまでもしゃべっている。
「本当ねえ。夏休みになると、孝さんと姉さんと二人で、夜通しでセミの羽化を見ていたものね」
「この石段を、孝さんと由紀ちゃんがいつも上り下りしてたのが、ついこの間のことみたいに思い出されるわ」
「セミの穴にはね、『いっすん坊さま』がいるんだよって。そう由紀ちゃんが孝さんに言うの。そしたら、孝さんが、それは由紀ちゃんの守り神だって」
「そうそう、私もその話、何回か聞いたことがある。でも、本当の守り神は孝さんなのよね。孝さんはいつも足の悪い姉さんをかばいながら、学校の送り迎えをしてたもの。この百八段をね」
「しょっちゅう口げんかをしてたけど、仲のいい二人だったよね」
「やまだのかかしとユキ女、本当にいいコンビだった」
やまだのかかしとユキ女?なんか懐かしい感じがする。そうか、この石段は父さんと母さんの青春の百八段だったんだ。
石段のずっと下に、今は静かな夕なぎの早水の瀬戸が見えて、その上を沈みかけた夕陽が染めている。がけの上の昇竜閣も真っ赤だ。二人もこんな夕焼けを、ここに座って見ていたのかな。
いっすん坊?母さんの守り神?
ふと、なつかしい気がしだ。だけど、どうしても思い出せないんだ。
いっすん坊ってなんなんだ
完
白いキリに包まれていたのが、しだいに周りが明るくなって、気がついたらお寺の石段にすわっていた。ラジオ体操が終わってから、ずっとここにすわっていたのか?
「おい、いっすん坊。勝手に消えるなよ!」ってつぶやいた。
あれ、でもいっすん坊ってなんだ?
いっすん坊ってなんだったんだ。イッスンボー、イッスンボー、イッスンボウシか、それともツクツクボウシか?なんか、たった今まで変なことを考えていたんだ。何だったっけ。なんでオレこんな所にすわってるんだ。ぼーっとして、なんか母さんの夢を見ていたみたいだったけど。
おじいちゃんがそばに立っていた。
「なんじゃ、ラジオ体操が終わってから今までずっとここに座っておったんか」
「うん、なんかずっと変な夢を見てたみたい」
「そうか、良樹はここの景色が好きなんか。由起子もここに座ってじっと瀬戸をながめているのが好きじゃった」
「おじいちゃんか?いっすん坊は」
「いっすん坊?なんじゃそりゃ」
変な顔をして、でもにやりと笑った。
そうなんだ。なんじゃそりゃだよ。でも、それが分からないんだ。なんかそういう名前をたびたび叫んでいた気がするんだ。夢の中なのかな、ついさっきまで、いっすん坊いっすん坊って。でも、なんのことだかどうも思い出せない。じいちゃんのことかと思ったが違うみたいだ。なんだったんだ?いっすん坊って。
「じいちゃん、七回忌って何なんだ」
「お前のお母ちゃんが亡くなって七年目に入る日の法要じゃ」
「でも、母さんの墓参りなら、ここに来るたびやってるぞ。七年目だけ何で法要なんだ?」
「人間はのう、亡くなってすぐにあの世に行けるわけではないんじゃ。あの世に迎えられる前に六道といって、乗り越えなければならない六つの世界がある。それを乗り越えるのに六年かかって、七年目に入ってやっとあの世にいけるんじゃ。だから、今日でお母ちゃんはやっと七年目を迎えて、晴れてあの世に迎えられる。そのお見送りが七回忌じゃ。ヨシキにはちょっと難しいか。今まではおまえのすぐそばにお母ちゃんがいた。ずっとおまえを見守っていた。まあ、これでお母ちゃんもやっとあの世に行けるってことじゃ」
そうか、今までは母さんもあの世とこの世の間をさまよっていたんだ。
昼をだいぶ過ぎて、父さんがやって来た。ばあちゃんと三人でお寺まで上がる。かあさんの七回忌法要だ。
じいちゃんの読経が始まった。後ろで、父さんとばあちゃん、お寺のばあちゃん。そしてヨシキが正座して並んでいる。かあさんの妹の川内のおばちゃんも横に居る。その後ろに、親戚やら島の人やらがたくさん並んで座っている。
ご仏前の母さんの写真は笑っている。笑ってヨシキを見ている。
「由起子さんが亡くなって、もう七回忌を迎えたんじゃねえ」
「早いものよねえ。もうヨッちゃんが中学生じゃもの」
「ほんと、けがの多いやんちゃな子だけど、なんとか元気に育ってるよね」
「由紀ちゃんが天国からいつも見守ってるんじゃろうね」
法要が終わっても、みんな境内でそれぞれがおしゃべりをしている。
父さんがヨシキに言った。
「とうさんは、しばらく出張で留守をするんだ。すまんがヨシキ、おまえ盆明けくらいまで、この島でばあちゃんと一緒にいてくれんか」
「そうか、そうだね。そうするよ。夏休み中ここにいるよ。宮田と約束があったんだ。だけど、本当はあんまり行きたくなかったんだよ。ちょうどいい口実ができた。直ぐに電話で断るよ。広川先生と部活の顧問の先生にも電話しておく」
父さんは、足下に落ちていたセミの抜け殻を拾って、懐かしそうに見ていた。
「父さんと母さんは、このセミの羽化を見るのが大好きだったんだ。何時間もかけてセミが羽化するのを二人でよく見ていた」
川内のおばちゃんはいつものようにおしゃべりで、近所の人といつまでもしゃべっている。
「本当ねえ。夏休みになると、孝さんと姉さんと二人で、夜通しでセミの羽化を見ていたものね」
「この石段を、孝さんと由紀ちゃんがいつも上り下りしてたのが、ついこの間のことみたいに思い出されるわ」
「セミの穴にはね、『いっすん坊さま』がいるんだよって。そう由紀ちゃんが孝さんに言うの。そしたら、孝さんが、それは由紀ちゃんの守り神だって」
「そうそう、私もその話、何回か聞いたことがある。でも、本当の守り神は孝さんなのよね。孝さんはいつも足の悪い姉さんをかばいながら、学校の送り迎えをしてたもの。この百八段をね」
「しょっちゅう口げんかをしてたけど、仲のいい二人だったよね」
「やまだのかかしとユキ女、本当にいいコンビだった」
やまだのかかしとユキ女?なんか懐かしい感じがする。そうか、この石段は父さんと母さんの青春の百八段だったんだ。
石段のずっと下に、今は静かな夕なぎの早水の瀬戸が見えて、その上を沈みかけた夕陽が染めている。がけの上の昇竜閣も真っ赤だ。二人もこんな夕焼けを、ここに座って見ていたのかな。
いっすん坊?母さんの守り神?
ふと、なつかしい気がしだ。だけど、どうしても思い出せないんだ。
いっすん坊ってなんなんだ
完
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