無人島転生 〜素材チートで開拓してたら、村どころか王国ができそうです〜

しゅがれっと

文字の大きさ
108 / 138

108 暮らしの色

しおりを挟む
 この街に、ちゃんとした門があるわけではない。にもかかわらず、気づけば“入ってきている”人々が後を絶たない。誰が開けたのか分からない扉を、皆そろって通ってくる。ときには裸足で、時には荷車ごと。

 それが最近、目に見えて増えている。

 あの頃──などという懐古を口にするには、まだ俺の髪も白くないし、杖もついていないが、とはいえ、最初の頃は本当に、もっと静かだった。人魚がひとり、獣人がひとり。ぽつ、ぽつ、と水たまりに落ちる雨粒のように、人が集まり始めていた。

 その最初の粒が、レイヴィアであり、リュナだった。

 レイヴィアは、言ってしまえば水場に棲んでいる。だがその物腰は水よりもよほど形があり、言葉よりもよほど濃度が高い。最初に会ったとき、彼女はしれっと俺の隣に座り、こう言った。

 「魔素の流れが落ち着いてきましたね。このあたり、よく育ちます」

 俺は、作物の話か、街の話か、あるいは自分たちの性格の話か判別できなかった。

 だがたしかに、育ったのだ。街が。暮らしが。人が。

 一方のリュナは、獣人らしく足取りが重く、言葉が軽い。

 ある日、俺が橋の基礎を崩してしまい、川に落ちていたら、「あー、だからあそこは踏んじゃダメって言ったじゃん」と言いながらタオルを投げてきた。助けてはくれなかった。自力で這い上がってからようやく「……よく生きてたね」と褒めてくれた(のか?)。

 そんな彼女は今、酒瓶片手に木の影で座っている。

 「最近さ、目が合ったことない人、多くない?」

 俺が問いかけると、彼女は肩をすくめて言う。

 「まあ、うちも噂される立場になっちゃったからね」

 “うち”とは、“この街”という意味らしい。

 かつては、たまたま通りかかった誰かが、なんとなく腰を下ろしていた場所だった。そこに屋根がつき、壁が立ち、土が耕され、パンが焼かれた。最初に温泉が発見されたときなど、「これは文明の礎では?」と誰かが感動していた。

 そして今、どこかから聞きつけてきた人魚や獣人の姿が、明らかに増えている。

 以前は“なじみの顔”のなかに混じる“知らない誰か”だったのが、いまでは“知らない誰か”が基準になり、“なじみの顔”がレアキャラ化してきている。特にリュナなど、「いたよね?最初から?」と疑問形で語られるようになった。

 「ちゃんといるよ」と彼女は言う。「地味なとこでね」

 レイヴィアも静かに苦笑いする。

 「私、最近では“先祖枠”として紹介されるんです」

 ここは、はじまりの場所らしい。本人たちによると。

 それでも、誰かが安心して座れる場所になったということは、きっと悪いことではない。

 人魚族の少女が魔素脚を巧みに操り、獣人の子どもたちが泥だらけの手で壁を塗る。動機は不明だが、「誰かがやってたから」だという。文化とは、たいてい模倣から始まる。

 ある日、広場の隅で、よちよち歩きの魔素足の子どもが、しっぽの長い少年にぶつかってこけた。その様子を、遠くから見ていたリュナがひとこと。

 「ほら、喧嘩にならないの、えらいでしょ」

 言われてみればそうだった。誰も怒らない。誰も咎めない。

 あれこれ語らず、ただ一緒に暮らす。それだけのことが、こんなに難しくなくなったのは、いつからだったろう。

 「この街、ちゃんと育ったんだね」と俺が言うと、

 「まあ、学童期って感じ?」とリュナが言った。

 「いずれ反抗期が来ますね」とレイヴィアが返した。

 どちらもまったく喜んでいない口調だったが、その顔は、ほんの少し、誇らしげだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます

竹桜
ファンタジー
 ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。  そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。  そして、ヒロインは4人いる。  ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。  エンドのルートしては六種類ある。  バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。  残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。  大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。  そして、主人公は不幸にも死んでしまった。    次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。  だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。  主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。  そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。  

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

相続した畑で拾ったエルフがいつの間にか嫁になっていた件 ~魔法で快適!田舎で農業スローライフ~

ちくでん
ファンタジー
山科啓介28歳。祖父の畑を相続した彼は、脱サラして農業者になるためにとある田舎町にやってきた。 休耕地を畑に戻そうとして草刈りをしていたところで発見したのは、倒れた美少女エルフ。 啓介はそのエルフを家に連れ帰ったのだった。 異世界からこちらの世界に迷い込んだエルフの魔法使いと初心者農業者の主人公は、畑をおこして田舎に馴染んでいく。 これは生活を共にする二人が、やがて好き合うことになり、付き合ったり結婚したり作物を育てたり、日々を生活していくお話です。

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

処理中です...