無人島転生 〜素材チートで開拓してたら、村どころか王国ができそうです〜

しゅがれっと

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118 大地を走れ

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 文明の光とは、えてして煙と音を伴う。

 俺がそれに気づいたのは、今まさに目の前で巨大な鉄の塊が「シュオオォォ……ッ!」という迫力ある吐息を吐いていた瞬間だった。

 この世界に来てから、俺は多くの“まだ名前のついていない技術”と出会ってきた。だが今回ばかりは、名づけた瞬間に全てが始まった気がする。

 名は「駆道車(くどうしゃ)」。蒸気と魔素の力で地を走る機関車である。

 「地面を這う箱を作りたいんだよ」

 最初にそう言った時、設計士は例の“思想が逃げないと家が病む”と同じ口調で首をひねった。

 「なぜ地を這うんです? 飛んでしまえばいいでしょうに。風は自由で、地面は重いのに」

 「いやいやいや、逆だ。重いからこそいいんだよ。人はな、どこへ行くにも“道”を求めるもんなんだ」

 「それは哲学ですか?」

 「ロマンだ」

 その時、隣で聞いていたエリスが、「……それ、便利なの?」と小首をかしげた。

 エルフという種族は、効率と調和を美徳とする傾向がある。つまり、ロマンという概念にはいささか無頓着だ。

 「大量の荷物を運べるのは確かよね。歩くよりずっと速く、馬車よりも重いものを」

 「だが、それだけじゃない」

 俺は胸を張った。

 「これは“地を走る技術”だ。飛行船は空の夢、船は海の浪漫、そしてこれは……文明の鼓動だ」

 「文明の……鼓動?」

 セリアが訝しげに眉をひそめる。最近、妙に俺に対して突っかかる言い方が多いのは気のせいだろうか。

 「また、男特有の意味不明な感動ね」

 「いや、意味はある。見てみろよ、この歯車とレバーの塊。燃えるだろ? この無駄に複雑な構造。この振動。この金属音。これが“動く”ってことの美しさなんだよ」

 「わからない」

 俺の発言にセリアとエリスが同時に返事をする。

 だが、それでこそいい。文明というのは、常に“無理解の上”に築かれてきたのだから。

 俺は設計士と共に、魔素の流れをどう変換すれば車輪を駆動できるか、歯車の角度と熱の逃がし方をどう設計すべきか、連日実験と爆発と火傷を繰り返した。

 「なぜタイヤに“柔らかさ”を加えるのです?」

 「快適性。あと、ギシギシ言う音がなんか嫌だから」

 「音は大事ですか?」

 「ロマンだからな」

 いつの間にか、設計士も「ロマン」という単語を“妥協の合図”として理解し始めていた。

 駆道車の完成が近づくと、村中がそわそわし始めた。

 見習いたちは無意味にタオルを肩にかけて“整備士”を気取り、子どもたちは車体の下に潜って「おれは火の番だ!」と叫んでいた。

 女性陣はといえば、

 「これ、野菜運ぶのに便利かもね」

 「市場間の移動時間が短縮されるわ」

 と、実用面ばかり見ている。たしかに正しい。正しいのだが、何かが違う。

 それは、“心”だ。

 試験運行当日。俺は先頭に立ち、金属の床に片足を乗せた。

 歯車が回る。蒸気が鳴く。魔素がうなり、軋むように駆道車は走り出す。

 その瞬間、背筋が震えた。

 これだ。これこそが、男の子の心に眠る“前進の快感”だ。

 俺は振り返った。エリスとセリアがやや引き気味に拍手していた。

 構うもんか。彼女たちには実用がある。俺たちには、ロマンがある。

 こうして、文明は一歩、地を這い始めたのだ。歯車と煙と共に。
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