128 / 138
128 凍てつく槍
しおりを挟む
凍結という現象は、科学でいえば水分子の振動が止まることを指す。だが、ここ異世界ではそれだけでは済まされない。ここでは、氷とはすなわち「拒絶」である。侵入を拒み、勢いを削ぎ、体温と意志を封じる物質。それが冷却鉱石と槍の融合によって、いま我々の最前線で突き出されている。
「……うおぉお! 凍った! あいつ氷漬けになった!」
兵士が歓喜の声をあげた。冷却鉱石を埋め込んだ槍が水面に突き刺さり、浅瀬を伝って氷が一気に広がる。その上に足を踏み出したバイキング兵の動きが、まるでギャグ漫画のごとくスローモーションになり、そして──ずしゃあ、と見事に転倒した。
「これは……いけるか……?」
楽観は禁物である。と、俺が思い直した瞬間だった。
「突撃――――ッ!」
川の向こう側で、ありえないサイズの斧を肩に乗せた男が吠えた。その一声に、氷結した浅瀬をもろともせず、バイキングたちが再び突入してくる。
「は、速ぇ……あいつら、氷の上を走ってやがる!」
いや、走ってなどいない。正確には“滑って”いた。氷上を片足で蹴り、船の櫂のようなものを手に推進力を得て、猛スピードで接近してくる。まるで訓練されたホッケーチーム。いや、ホッケーチームの方がまだ礼儀正しい。
「連中、氷上戦術を知ってるぞ!」
「こっちの技術を、逆に利用してきやがったな……!」
俺たちの槍は、止まった敵には強い。しかし、あれほど滑らかに、予測不能な動きで迫られては──間合いが潰される。
そして、その中心にいたのが、副将格の男だった。
「名乗るまでもないが……我は“コルネリウス”。この戦場を凍らせに来た者よ!」
「いや、凍らせたのこっちだし……!」
ツッコミの一つでも入れたくなるが、奴の動きは冗談ではなかった。巨大な斧を片手で軽々と振り回し、氷を砕き、槍を粉砕し、壁をも跳ね返す。
「うおっ、何だこの怪力ぅっ!」
ゴロウの組んだ氷杭柵が一撃で吹き飛ばされ、木片が氷の空に舞い上がる。俺は思わずしゃがみこみ、顔面を守った。ゴロウ本人はというと、鼻筋に氷の破片をかすめさせながらも、
「……ほう、構造理解して崩しよったか。やるな副将」
などと悠長に頷いていた。
「感心してる場合か!!」
「よし次行こう、案2! 料理人、頼む!」
「へい!」
どこから出したのか、彼は巨大な鉄鍋を抱えていた。中にはトロリと煮えたぎる魔素スープ、その香りは敵味方問わず一瞬立ち止まるほど芳醇である。料理人は叫んだ。
「魔素爆香!《フレイバーバーン》!」
蓋を開けた瞬間、濃縮された香り成分が空中に炸裂。スパイスの嵐、ハーブのつむじ風、そして干し肉由来の旨味エネルギーが炸裂し、周囲の兵士たちは目を潤ませながらも戦意を回復──しそうな雰囲気だったが、敵にも効いていた。
「ぐおおっ、腹が……! 空腹が極まって力が出ぬ……!」
「この香り……家を思い出す……」
そう、故郷の記憶を呼び覚ますほどの香り。殺傷力はないが情緒には刺さる。
「……それでどうやって勝つ気だった?」
「まあ、“気を削ぐ”という方向で……」
「次!」
俺は怒号を飛ばし、今度は医者を睨んだ。医者は満面の笑みで両手を広げた。
「お待たせ! 医学の力で戦場に平穏を!」
「できるわけねぇだろこの状況で!」
しかし、彼は真顔で首を振った。
「違うんだなぁ、我々医術士は力ではなく、知で勝つ。コルネリウスの筋肉、あれはおそらく“非対称肥大”。つまり、特定の方向にしか動きにくい!」
「へ、へえ……?」
「だから、この薬草汁を霧にして目に──」
コルネリウスが、こっちに突っ込んできた。
「喋ってる場合かあああああ!」
俺は叫び、医者は叫びながら霧を散布、その霧は無風の戦場をまっすぐ我々の方向へ──つまり我々自身の目を直撃した。
「ぐわっ! しみる! 何を混ぜたんだこれ!」
「イタドリとユズの絞り汁と……ちょっと塩分強めに……」
「料理かよ!!」
その隙に、ゴロウの二段杭柵は破壊され、料理人の鍋は副将に踏み潰され、俺たちは全員川辺に投げ出された。
「ククク……くだらぬ策を次々と……だが、面白い……!」
コルネリウスが笑った。楽しんでやがる。
踏みつけられた鍋から、まだ香りがふわりと立ち昇っていた。だがそれすら、今や滑稽に思える。副将コルネリウスは歩を止めず、俺たちを見下ろすようにして──
「勝てぬ戦など、なぜ始めた?」
などと哲学的なことを言い始めた。戦場で持論を語るな。
「……終わったかもな」
俺はつぶやいた。視界は霞み、仲間は全員倒れている。足元の氷が軋む音が、やけに耳に響く。だが、次の瞬間──空気が変わった。
ふわりと花びらのような風が吹いた。
同時に、水音がした。
氷の川面に、ふたつの影が降り立つ。
「遅れてごめんね、でも間に合ったよね?」
長い銀髪を靡かせ、エリスが微笑んでいた。彼女の周囲には目に見えぬ精霊たちが集い、囁き、空気が震える。
「まったく……あなたはすぐに無茶をされますね。」
レイヴィアが言った。水をまとい、気品と冷気を背負った姿は、もはや神話の一場面のようだ。
街における最強クラスの魔法使い。セリアを“暴走枠”とするならば、このふたりは“制御された終末兵器”である。
俺は、氷の上で崩れ落ちながら、かすかに笑った。
「……これで、まだやれる……」
「……うおぉお! 凍った! あいつ氷漬けになった!」
兵士が歓喜の声をあげた。冷却鉱石を埋め込んだ槍が水面に突き刺さり、浅瀬を伝って氷が一気に広がる。その上に足を踏み出したバイキング兵の動きが、まるでギャグ漫画のごとくスローモーションになり、そして──ずしゃあ、と見事に転倒した。
「これは……いけるか……?」
楽観は禁物である。と、俺が思い直した瞬間だった。
「突撃――――ッ!」
川の向こう側で、ありえないサイズの斧を肩に乗せた男が吠えた。その一声に、氷結した浅瀬をもろともせず、バイキングたちが再び突入してくる。
「は、速ぇ……あいつら、氷の上を走ってやがる!」
いや、走ってなどいない。正確には“滑って”いた。氷上を片足で蹴り、船の櫂のようなものを手に推進力を得て、猛スピードで接近してくる。まるで訓練されたホッケーチーム。いや、ホッケーチームの方がまだ礼儀正しい。
「連中、氷上戦術を知ってるぞ!」
「こっちの技術を、逆に利用してきやがったな……!」
俺たちの槍は、止まった敵には強い。しかし、あれほど滑らかに、予測不能な動きで迫られては──間合いが潰される。
そして、その中心にいたのが、副将格の男だった。
「名乗るまでもないが……我は“コルネリウス”。この戦場を凍らせに来た者よ!」
「いや、凍らせたのこっちだし……!」
ツッコミの一つでも入れたくなるが、奴の動きは冗談ではなかった。巨大な斧を片手で軽々と振り回し、氷を砕き、槍を粉砕し、壁をも跳ね返す。
「うおっ、何だこの怪力ぅっ!」
ゴロウの組んだ氷杭柵が一撃で吹き飛ばされ、木片が氷の空に舞い上がる。俺は思わずしゃがみこみ、顔面を守った。ゴロウ本人はというと、鼻筋に氷の破片をかすめさせながらも、
「……ほう、構造理解して崩しよったか。やるな副将」
などと悠長に頷いていた。
「感心してる場合か!!」
「よし次行こう、案2! 料理人、頼む!」
「へい!」
どこから出したのか、彼は巨大な鉄鍋を抱えていた。中にはトロリと煮えたぎる魔素スープ、その香りは敵味方問わず一瞬立ち止まるほど芳醇である。料理人は叫んだ。
「魔素爆香!《フレイバーバーン》!」
蓋を開けた瞬間、濃縮された香り成分が空中に炸裂。スパイスの嵐、ハーブのつむじ風、そして干し肉由来の旨味エネルギーが炸裂し、周囲の兵士たちは目を潤ませながらも戦意を回復──しそうな雰囲気だったが、敵にも効いていた。
「ぐおおっ、腹が……! 空腹が極まって力が出ぬ……!」
「この香り……家を思い出す……」
そう、故郷の記憶を呼び覚ますほどの香り。殺傷力はないが情緒には刺さる。
「……それでどうやって勝つ気だった?」
「まあ、“気を削ぐ”という方向で……」
「次!」
俺は怒号を飛ばし、今度は医者を睨んだ。医者は満面の笑みで両手を広げた。
「お待たせ! 医学の力で戦場に平穏を!」
「できるわけねぇだろこの状況で!」
しかし、彼は真顔で首を振った。
「違うんだなぁ、我々医術士は力ではなく、知で勝つ。コルネリウスの筋肉、あれはおそらく“非対称肥大”。つまり、特定の方向にしか動きにくい!」
「へ、へえ……?」
「だから、この薬草汁を霧にして目に──」
コルネリウスが、こっちに突っ込んできた。
「喋ってる場合かあああああ!」
俺は叫び、医者は叫びながら霧を散布、その霧は無風の戦場をまっすぐ我々の方向へ──つまり我々自身の目を直撃した。
「ぐわっ! しみる! 何を混ぜたんだこれ!」
「イタドリとユズの絞り汁と……ちょっと塩分強めに……」
「料理かよ!!」
その隙に、ゴロウの二段杭柵は破壊され、料理人の鍋は副将に踏み潰され、俺たちは全員川辺に投げ出された。
「ククク……くだらぬ策を次々と……だが、面白い……!」
コルネリウスが笑った。楽しんでやがる。
踏みつけられた鍋から、まだ香りがふわりと立ち昇っていた。だがそれすら、今や滑稽に思える。副将コルネリウスは歩を止めず、俺たちを見下ろすようにして──
「勝てぬ戦など、なぜ始めた?」
などと哲学的なことを言い始めた。戦場で持論を語るな。
「……終わったかもな」
俺はつぶやいた。視界は霞み、仲間は全員倒れている。足元の氷が軋む音が、やけに耳に響く。だが、次の瞬間──空気が変わった。
ふわりと花びらのような風が吹いた。
同時に、水音がした。
氷の川面に、ふたつの影が降り立つ。
「遅れてごめんね、でも間に合ったよね?」
長い銀髪を靡かせ、エリスが微笑んでいた。彼女の周囲には目に見えぬ精霊たちが集い、囁き、空気が震える。
「まったく……あなたはすぐに無茶をされますね。」
レイヴィアが言った。水をまとい、気品と冷気を背負った姿は、もはや神話の一場面のようだ。
街における最強クラスの魔法使い。セリアを“暴走枠”とするならば、このふたりは“制御された終末兵器”である。
俺は、氷の上で崩れ落ちながら、かすかに笑った。
「……これで、まだやれる……」
1
あなたにおすすめの小説
悪役顔のモブに転生しました。特に影響が無いようなので好きに生きます
竹桜
ファンタジー
ある部屋の中で男が画面に向かいながら、ゲームをしていた。
そのゲームは主人公の勇者が魔王を倒し、ヒロインと結ばれるというものだ。
そして、ヒロインは4人いる。
ヒロイン達は聖女、剣士、武闘家、魔法使いだ。
エンドのルートしては六種類ある。
バットエンドを抜かすと、ハッピーエンドが五種類あり、ハッピーエンドの四種類、ヒロインの中の誰か1人と結ばれる。
残りのハッピーエンドはハーレムエンドである。
大好きなゲームの十回目のエンディングを迎えた主人公はお腹が空いたので、ご飯を食べようと思い、台所に行こうとして、足を滑らせ、頭を強く打ってしまった。
そして、主人公は不幸にも死んでしまった。
次に、主人公が目覚めると大好きなゲームの中に転生していた。
だが、主人公はゲームの中で名前しか出てこない悪役顔のモブに転生してしまった。
主人公は大好きなゲームの中に転生したことを心の底から喜んだ。
そして、折角転生したから、この世界を好きに生きようと考えた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです
NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
神々に見捨てられし者、自力で最強へ
九頭七尾
ファンタジー
三大貴族の一角、アルベール家の長子として生まれた少年、ライズ。だが「祝福の儀」で何の天職も授かることができなかった彼は、『神々に見捨てられた者』と蔑まれ、一族を追放されてしまう。
「天職なし。最高じゃないか」
しかし彼は逆にこの状況を喜んだ。というのも、実はこの世界は、前世で彼がやり込んでいたゲーム【グランドワールド】にそっくりだったのだ。
天職を取得せずにゲームを始める「超ハードモード」こそが最強になれる道だと知るライズは、前世の知識を活かして成り上がっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる