ZERO

犬絵七宝

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一章

修理屋トンテンカン

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 コアが保管されているパレスを中心に、洋服屋からデパートなど流行の最先端がある鮮やかな町だというのなら。ここは灰色一色の町だった。
 住宅街などの町から離れ、海を埋め立てて作られた人工の島には工場が密集する地帯が存在する。この地帯を走るのは大型トラック。定時になれば帰宅する車が列を作る。耳をすませば鉄が鉄を叩く音がする仕事の土地だ。

 少年、ヤマトはこの土地で仕事をして、住んでいるスタッフだった。工場の名前はトンテンカン。この工場地帯では上場もしてない、知名度も低い小さな自宅兼工場だ。だが、ヤマトとヤマトの育ての親のアルカン親方の腕に信頼を寄せる人間は多かった。

「そりゃ、そこだっ!頑張れ!!」

 ヤマトは隣室で修理が終わるのを待つおじさんの声を聞きながら、目の前のアンドロイドの修理をしていた。
 ヤマトは集中しようとするが、おじさんがテレビで見てるアンドロイドの大会が少し気になっていた。だが、今は仕事だ!ヤマトは両頬を手で叩いて気合いを入れる。

「さっ、もうすぐで帰れるからね」

 ヤマトが話かけたのはチンパンジー型アンドロイドのディーダだ。ディーダは木で遊んでいたが、腕のパーツが劣化していたため落ちてここに運ばれた。ディーダは得意のうんていを失敗したこと、落ちた時に腰の不具合を感じて涙目だった。

「ウキー……」
「ははっ、気を落とさないで」

 動物型でも人語を話すアンドロイドはいるが、ディーダはおじさんのカスタマイズでよりチンパンジーに近い設定になっているようだ。ヤマトはディーダを撫でつつ、耳たぶのボタンを押す。すぐさまモニターサングラスが表れ、人間で言うカルテにあたる情報を表示する。
 モニターサングラスはモードの切り替えができる。こうした診察に必要な情報も出せる。

 人間も一人ひとりに病気や治療履歴を残すように、アンドロイドも症状などを記録する。これを専門用語でインシデント管理と言う。

「さ、ディーダ。まずは落ちた時に痛めた腰から見ようか?両腕上げてばんざいして?」
「ウキー!」
「えらい、えらい。そのまま少し待っててね」

 ヤマトは、モニターサングラスで情報を集めて触診をし始める。そしてつくづく、本当に便利な世の中だとヤマトは思った。
 AIとかロボットとか。それらが登場してからの人の大変さは並大抵ではなかったはずだ。いつ頃かは知らないが、機械用のプログラムを授業に取り入れたのも、戦争があった頃よりも前だったと親方は言っていた。
 だが、親方に言わせれば例え子供の頃からプログラムに強くなったとしても、プログラムもアンドロイド、AIなどを含めた情報分野の世界は広く、技術は毎年進化する。今勉強してることが、3年もすれば古い情報になって使えないってこともある。
 その問題点をあげた現場の声を聞き、今の政府はそれならと誰もがアンドロイドの操作やロードのやり方など、初歩的なことが出来るように導入のやり易さを重視した。その象徴がこのモニターサングラスだと言われている。
 難しい用語も、わからないと思った時に表示する。今からヤマトがやる修理の仕方も表示する。

「……ま、でも。やり方があるからって誰もが上手く出来るってわけじゃないからね」

 同じ料理のレシピを使っても、上手く出来る人と出来ない人がいるように、修理も経験を重ねてこそだ。
 ヤマトは触っていた箇所で、違和感を感じるとすぐさま替えの部品を手元に寄せる。アンドロイドなので痛みもないディーダの部品を取り替えると、ディーダは腰の動きが元に戻ったことに気づいて喜んだ。

「良かったね。さ、今度は腕の治療しよう」


☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★


「ディーダ、修理が完了しました」

 ヤマトは作業部屋の開き戸を開けて、待合室のおじさんに声かけた。ディーダはおじさんの顔を見ると、抱えていたヤマトの腕から飛び降りる。

「ウキー!」

 ディーダが両腕広げておじさんの腕に飛び込む。そんなドラマチックな場面をディーダもヤマトも予想していたが、駆け寄ったディーダはおじさんの手のひらでぺしっと叩かれた。

「こんのバカタレ!ディー坊!どの面下げて来た!」
「キ……!?」

 ディーダは、意外に強かった叩きに頭を両手で抑える。そして、見上げた主人から滴が垂れているのに気づく。

「ズビッ!!心配したじゃねぇか!畜生目!!」
「キ!キキー!!」

 ようやく抱き合ったおじさんとディーダに、ヤマトは空気を読んで清算処理と、作業後の記録をつけ始める。声がかけづらい。
 その時、待合室に置かれたテレビから歓声が起きた。ヤマトは作業中の手を止め、その画面を見た。ヤマトの顔は寂しげだった。同年代の子供が自分だけのアンドロイドを持ち、好きなカスタマイズをして、友達や家族になる。そしてこの画面の子達のように、一緒に技術を高めていく。

 それは現代の常識に近いことだった。だが、ヤマトにはそれは禁じられたことであり、叶わない夢だった。

 ヤマトが身元の分からない捨て子で、使い方次第で武器となるアンドロイドの所持を政府は許可していなかったからだ。
 だから、ヤマトはこの時アンドロイドを持っていなかった。そしてヤマトはこれからも、持てないものだと落胆していた。


 
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