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新しい町
第九話 僕の両親
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「あなたはもう我が家の一員よ。何でも言って、苦しいときも悲しいときも」
ワンピースというのだと初めて知った。治安が悪い生まれ故郷では、女性はみんなズボンを履いて自衛していたから……何から自衛していたのかなんて言うまでもないだろ。
ここは治安がいい地域なんだろう。石を投げるような野蛮な人間はいないといいなぁ。石? 貧民街で生きてたころの記憶にそんなのはないんだけど、おかしいな。
でもいいや。今はなにかを考えること自体が億劫なんだ。ご飯が与えられて、睡眠もとれるんなら僕は幸せだよ。
「なんて呼べばいいんですか」
養ってくれるというからには、師匠なんだろうか。何か学んで早く自立しないと。
「お母さん、って呼んでくれてもいいんだけれど……まだそんな気分じゃないかしらね。なんでもいいわ、好きなように呼んで頂戴」
「では、マリアさんと呼ばせていただきます」
「そんなに他人行儀でなくてもあのいいのよ……?」
マリアさんはなぜか悲しそうだ。慰めてあげたいのはやまやまだけど、僕は旦那様の方に用事があるんだ。マリアさんは家の中でずっと家事をしてるから、仕事をしているのはきっと旦那様なんだ。僕は早く旦那様に弟子入りして技能を学びたい。
ーーなんてマリアさんに言うと、また悲しそうな顔をされてしまった。
「いいのよ、働こうとしなくて。子供が働くなんて不幸なことだわ。あなたはいつか学校に通ってもらいます。友達をたくさん作って、勉強もして、いい職について、あなたを酷い目に遭わせた人を見返してやりましょう」
僕はマリアさんの言っていることが何一つわからない。自力で稼げるようになる。親分や師匠から独立して自分で仕事をとれる。庇護される存在から自分で生きていく存在に、それが成長でありそれが幸福なのではないの?
「いいえ、僕は働きたいんです。何でもしますからここに置いてください」
僕から修理士の仕事を奪おうとするなんてなんて酷い人たちなんだろう。
ーー修理士? そうだ、修理士だ。僕は機械を修理して生計をたてていた。僕はもう子供じゃない!
「どうしてもと仰るなら、僕は出ていきます」
ガッコウというものが何なのかもわからなかったし、そこを出られないと職につけないという風なマリアさんの言い方に僕は恐怖すら感じた。機械をいじれない日常なんて暗闇でしかない。友達なんてハッタリだ。僕は大人と渡り合って一流の職人になりたいんだ!
マリアさんは困ったような顔をして、朝ごはんのパンを置いたまま部屋を出ていってしまった。僕はマリアさんの足音が遠くにいったことを確認して、そっとベッドから脚を下ろし、床に指先をつけ、こっそりとドアを開けて部屋を抜け出した。
ワンピースというのだと初めて知った。治安が悪い生まれ故郷では、女性はみんなズボンを履いて自衛していたから……何から自衛していたのかなんて言うまでもないだろ。
ここは治安がいい地域なんだろう。石を投げるような野蛮な人間はいないといいなぁ。石? 貧民街で生きてたころの記憶にそんなのはないんだけど、おかしいな。
でもいいや。今はなにかを考えること自体が億劫なんだ。ご飯が与えられて、睡眠もとれるんなら僕は幸せだよ。
「なんて呼べばいいんですか」
養ってくれるというからには、師匠なんだろうか。何か学んで早く自立しないと。
「お母さん、って呼んでくれてもいいんだけれど……まだそんな気分じゃないかしらね。なんでもいいわ、好きなように呼んで頂戴」
「では、マリアさんと呼ばせていただきます」
「そんなに他人行儀でなくてもあのいいのよ……?」
マリアさんはなぜか悲しそうだ。慰めてあげたいのはやまやまだけど、僕は旦那様の方に用事があるんだ。マリアさんは家の中でずっと家事をしてるから、仕事をしているのはきっと旦那様なんだ。僕は早く旦那様に弟子入りして技能を学びたい。
ーーなんてマリアさんに言うと、また悲しそうな顔をされてしまった。
「いいのよ、働こうとしなくて。子供が働くなんて不幸なことだわ。あなたはいつか学校に通ってもらいます。友達をたくさん作って、勉強もして、いい職について、あなたを酷い目に遭わせた人を見返してやりましょう」
僕はマリアさんの言っていることが何一つわからない。自力で稼げるようになる。親分や師匠から独立して自分で仕事をとれる。庇護される存在から自分で生きていく存在に、それが成長でありそれが幸福なのではないの?
「いいえ、僕は働きたいんです。何でもしますからここに置いてください」
僕から修理士の仕事を奪おうとするなんてなんて酷い人たちなんだろう。
ーー修理士? そうだ、修理士だ。僕は機械を修理して生計をたてていた。僕はもう子供じゃない!
「どうしてもと仰るなら、僕は出ていきます」
ガッコウというものが何なのかもわからなかったし、そこを出られないと職につけないという風なマリアさんの言い方に僕は恐怖すら感じた。機械をいじれない日常なんて暗闇でしかない。友達なんてハッタリだ。僕は大人と渡り合って一流の職人になりたいんだ!
マリアさんは困ったような顔をして、朝ごはんのパンを置いたまま部屋を出ていってしまった。僕はマリアさんの足音が遠くにいったことを確認して、そっとベッドから脚を下ろし、床に指先をつけ、こっそりとドアを開けて部屋を抜け出した。
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