Я side The Assassin

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赤き因縁編

71.不適合

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屋上

青空で心地よい風吹く晴れ模様
建物の屋上に立つウルフカットの青年のフードがなびいていた

「どうなってるかね~」

その少年は双眼鏡で何かを覗く
姿を捉えて目を見開くと鋭く笑った

「ハハッ 不適合だったか~
まあ死体は回収するか~ 残るか分かんないけど」

あの血は特別だし、できるだけ無駄にしたくないからできれば死体くらいは残して欲しいなぁ…

すると、また鋭く笑う

「あ、もう人間じゃないから死骸か!」

その瞳は確かに化け物と2人の闘いを覗き込んでいた


瞳の先にある闘いは苛烈を極めるばかりである

2人が畳み掛けた攻撃は化け物に負傷を与えている様子はないが、化け物の腕の一振は一度食らうだけで致命傷になりかねない

化け物が自身の腕を地面に突き刺すと中から瓦礫の塊を掴んで持ち上げた

「……!?」

2人の予想通りそれはこちらに投擲され巨大な瓦礫が2人に迫る
2人は反対方向にとんでかわす
イチゴは素早く相手の足元に滑り入る

「腕硬すぎるんだから足くらい柔らかくていいよね!」

足の間を八の字に滑り抜け、通る過程で両足のかかとをナイフで切り裂いた

化け物は明らかに体勢を崩して膝を落とす

「今!!」

イチゴの掛け声で跳んだアサミが大きく拳を振りかぶる
頭部を狙った拳は腕を盾にした相手に防がれる

「クソッ!」

化け物は勢いよく立ち上がり、自慢の腕を振ったが、アサミは後退して回避している

「イチゴごめん!キメれなかった!」

「惜しかったねー でも弱点はわかった」

「うん 明らかに頭を守ってるやられたらダメってことだよね」

「ついでに足ね 腕と体は馬鹿みたいに硬いのに足はナイフで切れる硬さだった」

「あとは勝つだけ…って言いたいけど」

視線を下に向けると切り裂いた足の傷が無くなっているのがわかる

「回復?意味わかんなーい」

再生している肉体を見て、ますます相手を嫌悪する

「私たちがバテる前に頭を潰せるかどうかのバトルだね」

「そうだね」

大して作戦として成り立っていない戦略を話して敵と向き合う


一方、キンドシエスタ

捕らえられた坂野は未だ気を失ったままイヴィンに片手で持ち上げられて外に出されていた
それと同タイミングで1台のパトカーがこちらに停まった
その車体から特捜課の課長が降りてきた

「一人で飛び出すから驚いたぞ」

「すんません コイツを捕まえられるってなったら急ぎたくて」

「まだ十分な証拠を裁判所に提出していないんだ 後から何を言われるか」

「大丈夫でしょ こっちにはT.I.K.A.Iが着いてるんですから」

「それもそうか」

課長が手にしていた手錠が坂野の手首にかけられた
坂野の体がパトカーに投げ捨てられる

「気をつけてください コイツ、なんか分かんないですけど急に腕がデカくなるかもしれません」

「な、何を言ってるんだ」

「私もわかんないっすよ」

坂野の信じられるわけもない異常を伝えると課長は坂野を乗せたパトカーを走らせていなくなってしまった

イヴィンが残ったのはキンドシエスタ内部の従業員から聴取をするためだ
しかし、建物に入る前に考え事をしておく
聴取中に頭によぎっては話に集中できないからである

考えているのは坂野が自身に打った注射器のことだ

『俺は適合者だったということか!!』

適合ってなんだ…あの注射には効かない奴がいるのか?坂野が言ってた詐欺師っぽいやつって誰だ…言いぶり的に千一家の人間だとは考えずらいし、坂野に他の七黒とつながりがあるとは到底思えない…
太刀城学園の時、最終的に北澤 夏鈴を拐ったのはNじゃなかったから、その組織か?確かその時の戦闘で人間の異形のような機械があったそうだが、さっきの坂野も異形と言えば異形だった
だとしたらその組織の究明が千一家を潰した後の急務だな
千一家以上に静かな七黒の組織よりも、よっぽど警戒すべき組織があんのか

今後の展望も見据えながら考え事に一区切り付けるとイヴィンは建物の中へ入っていった


街道

マサルは現れた科学班と共に戦闘の後始末をしていた

マサルと科学班長チサイが会話している

「すまない 千一家の大黒柱を殺しちまった」

「あーあー 超重要参考人を殺っちゃったわけだ」

「仕方ないだろ 怒りが収まんなかったんだ」

「私はいいけどリーダーが許してくれるのかな?」

「あの人ならわかってくれるよ」

「それもそっか」

使用した烈火レッカの様子を確認しているチサイにマサルは声をかける

「お前は少年隊の頃から変わんないな 俺も含めみんなヤマミさんが死んでから何かしら変わってんのに」

それを聞いてチサイは異状のない槍をマサルに返す

「変わったよ 私だって変わった」

「……!」

「昔初めてヤマミさんの春風を見た時、これに匹敵する武器を作って魅せるって意気込んだ
そしてヤマミさんが死んで、それはちょっと変わった
私はその時まで興味本位で武器を作りたいって思ってたけど、それは大きな意味を持つようになったんだ みんなが何かを救う最大限の手伝いができる武器を作るって」

自信作である烈火を指で撫でる

「烈火使いやすいでしょ」

「まぁな」

「マサルに使われることを想定して造形したからね」

マサルはチサイの確かな意思を胸に刻んで槍を手元に引いた

「だったらこのいざこざ絶対勝つ 千一家は必ず潰す」

それを言い残してどこかに行こうとする

「どこに行くの」

「妹の方に匙山が逃げた それを追う」

駆け出したマサルを見ながらチサイは幼き頃の自分たちを思い出す

「ブラコンとかよく言ってたけど、あんたも相当、シスコンかもね」



500mほど先

飛んできた瓦礫をアサミとイチゴが回避しようと地面を蹴った瞬間、アサミの足がほつれる

「やばっ…!」

「アサミちゃん!?」

ゴォンッ!

真正面から衝突した瓦礫だったが咄嗟に伸ばした拳が身体への衝撃を緩和する
しかし、突き出した右拳の指は何本か骨折し醜く血液が爛れている

それを目にした化け物は間髪入れずにアサミに突っ込んでいき突進で、アサミを歩道の向こうにある建物の柱に突き飛ばす

ドォン!!

「ガハッ…!!」

背中を打ち付たアサミは吐血して地面に体を落とす
追い討ちをかけようとする化け物にイチゴは足を切りつけてそれを食い止める

化け物が標的をイチゴに変更しこちらを向いて腕を振るがそれを細かな足運びで回避する

一旦、相手の足を止めることに成功し再生している間に思考を巡らせる

私の体力ももう限界…!これ以上の闘いは負けが濃厚…次にアイツの足が再生した時点でキメにかかる!!

すると、化け物の足の傷が修復し立ち上がると、以前標的はイチゴであった
こちらに振り返ると拳を引いて飛び込んでくる

「こいっ!」

イチゴは一度、動きを止めると化け物はそこに飛びついてきた
異形で刺々しい拳がイチゴに迫ったその瞬間、小さな動きで回避し、その拳は地面に突き刺さる

「今度はこっち!!」

またしても動きを停止させて相手にこちらを向かせる
先程と同じく、化け物は飛びついてきて地面に拳を突き刺す

「こっち!!」

またしても、

「こっち!!」

またしても、またしても

イチゴの小さな地面を蹴る音と化け物の地面を破壊する大きな音が順に繰り返される
その音が巡るごとに辺りの様子が変わる

そろそろっ!

十何回も続けた動きをやめるとイチゴは先程までなかった砂煙の中に姿を消した

イチゴの狙いは化け物が道路の破壊で起こした砂煙を充満させ、そこに身をくらませることにあった

化け物が狙いなしに腕を振り回していると足元を小さな体が通り過ぎる

ジャクッ!

足に再び傷を入れて体勢を崩し、相手の動きが鈍ったその時、砂煙の影から化け物の頭部を狙う小さな刃物が姿を現す

「とった!!」

しかし、、  ガシッ!

「……!?」

振り向いた化け物がイチゴの小さな体をその異形の手の中に収めていた
無言でその身体を握りつぶさんとする化け物の死んだ匙山の目がイチゴを見つめている

「ア"ァ"ッ!!」

肉体を潰される痛みが全身を支配する
化け物の足は既に再生し、イチゴの作戦は失敗に終わる そして、この戦闘の勝利の道筋は絶たれてしまった

激痛に呑まれているはずのイチゴの表情が何かを目にして笑顔に変わる

「私たちの勝ちね」

ボフンッ!!

「オラァァァァァァ!!」

化け物の背後からアサミの拳が砂煙を打ち払って現れる

ボゴンッッッ!!! グシャァッ!

化け物の後頭部が拳で抉り、割れた頭から脳髄が潰れて溢れ出る

「後ろがガラ空きなんだよ!!」

「ッッッッッッッッツ!!」

音にならない化け物の叫び声が街道を満たす
痛みから握られていたイチゴは開放される
すると、化け物は狂ったように暴れだし砂煙を払い飛ばしながら身体を振るう

「撤退!!」

イチゴの掛け声でアサミは化け物と距離をとった
暴れ狂った巨大な体躯が思考もなくこちらに突進してきた

「ッッッッッッッッツ!!!」

「「……!?」」

その勢いを回避できるほどの余力は2人に残っていない
2人は目を瞑って運命を受け止める準備をした
化け物の拳が2人に襲いかかるその瞬間、、

微かな影が化け物の背後から通過した

「烈火 陽炎」

硬かったはずの胸部に切り裂いた跡ができるとそこから赤い炎が灯った

「ッッッッッッッッツ!!!」

胸から上が炎を上げて焦げていく

「よくやったなアサミ 任務は成功だ」

アサミは見ながら槍から炎が消えていくのを見ながら涙を潤ませる

「お、お兄さまぁぁぁぁあ!!」

溢れ出した涙を兄に受け止めて貰うためにお兄様に抱きついた

「よしよし」

マサルは泣き虫な妹の頭を撫でる
それをイチゴはため息を吐いて見つめていた


こうして、キンドシエスタから始まった子供の人身売買の事件は、組織長坂野の逮捕と裏にいた政治家匙山の討伐によって解決した

この事件でおきた不可思議な人体変体
坂野と匙山が使用した注射器について、判明は即座に不能でありЯの悩みのタネを増やすこととなる
謎を呼んだこの事件だが、Яが興す次の行動は既に決まっている

       "千一家の完全討伐"

8年前に叶わなかった望み
赤い兄妹の復讐 失った存在への贖い
その一家に残している呪いと因縁
未だに続く幼き者への非道な行為

これら全ての終着点にたどり着くため、Яは千一家と全面戦争に振り切る
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