Я side The Assassin

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赤き因縁編

70.注射器

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マサルがラバンと対峙している時、イヴィンはキンドシエスタの目の前に到着していた

見た目は警察官を装って玄関に進む
自動ドアが開くと、その音に気づいた女性従業員が現れた

「け、警察…?」

戸惑った従業員に思考の時間を与えず、イヴィンは手帳を取り出した

「特捜課の伊藤という者です 組織長の坂野さんに聴取を行いたく参りました」

「は、はい 少々お待ちください」

従業員が去るとイヴィンは現状を改めて整理する

匙山の方はマサルが行ってるから問題ないだろう…坂野も匙山も生きたまま引っ捕える 千一家の内情を洗いざらい吐かせてやる

すると、再び同じ従業員が現れた

「今はお時間が取れそうにないので改めてくださると幸いです」

「嘘をつかないでいただきたい」

「え…?」

「時間があろうとなかろうと怪しい所がなければ応じて貰う」

そのまま、土足で社内に足を踏み入れる

「ちょ、困ります!?」

手を伸ばす従業員を横目にイヴィンは走った
イチゴの盗聴器が組織長室の場所を捉えていたため即座にドア前に辿り着く

ドアノブに手をかけると内側から鍵がかけられていた
確信犯である

「坂野!!」

ドアを蹴り飛ばすと外れたドアがバタリと床に落ちる

「ヒィィィ!!」

机の後ろの本棚が自動的に移動し、そこに地下に繋がる階段が見える

「逃がすか!!」

地下に逃がさせまいと床を蹴って坂野に手を伸ばす

「うわぁぁぁぁあ!!」

坂野は首を掴まれると勢いで前に倒れる
勢い余ったせいか、坂野は前頭部から階段に転げ落ち地下に背中を打ち付けた

後頭部から流れ出る円形の血溜まりを見てイヴィンは階段をひとつひとつ降り始める

「終わりだ坂野 輸送しているトラックも私の仲間が止めている 大人しく警察に捕まれ
それからゆっくりと話を聞こうじゃないか」

微動もしない坂野を見て殺してしまったのではと考えた途端、彼の手が動き出し手に取った注射器を自分の首に向けた

「……!」

それを見たイヴィンは段を踏み蹴った

「何してんだお前!」

その手は微かに届かず、針は坂野の首を刺した
中に入った液体が坂野の体内に流れ込む
そして、坂野の肉体は人間とは思えないほどに肥大化した

「クソ……!」

肥大化した肉体に突撃しかけたイヴィンは距離を取って地下室の床に足をつける

「お、おおおお、俺、、俺ぇぇぇえ!!」

膨らんだ風船が言葉を発しているかのような声が地下室に響く
肉体は徐々に縮小し、元の大きさに戻っていく
ただ、左腕のみは肥大化したまま大きな岩のように膨れ上がっていた

「コイツは…」

イヴィンは驚愕の眼差しで異形と化した坂野を凝視する

「ふ、ふふ、フハハハハハハッ!!」

高らかに声をあげると意気揚々と口を動かした

「そうか、そうか!!俺はだったか…!あの詐欺師っぽい男!疑心も行動に移して見る者だな!!」

坂野は以前、出会ったフードを被った若い男の姿を思い出す

「これで俺は!!匙山も千一家も超える存在に…!」

言葉は続かず、誇らしげに見せつけていた左腕は呆気なく不可視の斬撃によって切り落とされた

「な"ァァァァア!!」

滝のように流れ落ちる血液が床を赤く染める

「ちょっとデカくなったくらいで夢見すぎんなよ雑魚」

イヴィンは刀を引きずりながら相手の様子を伺う
すると、切り落とした左腕の断面がボコボコと再生し始めている

再生…?完全に人間離れしてんな…殺さなきゃこれが続くのか?できれば捕らえたいから殺したくはないんだが…

振り向いた瞬間、巨大な拳が振り回されていた

「……!反盾パリシ!」

咄嗟に盾に変形させ薙ぎ払われた拳を受ける

「インパクト」

勢いをそのまま反射し、風圧で拳を粉砕する

「グアッ…!」

苦痛を表した様子を見ると防御を攻撃に切り替える

「雷足 迅雷脚ライトサンダー

踏みけった地面が砕かれるたその瞬間、雷のように降下したイヴィンの足が坂野の頭部に振り落とされた

「ガァァアッ!」

「戦闘経験が浅すぎだ坂野!そんなんじゃ私には勝てない!!」

雷足を剛腕パンツァーに変形させると坂野の腹部に拳を伸ばした

「寝とけ!!」

ボゴッ!ゴキッ!

あばら骨、一部粉砕の音

殴り飛ばされた坂野の体躯は壁に打ち付けられた そして気を失う

「一旦、特捜課で身柄を確保すっからな 私と楽しい事情聴取しような」

重要人物である坂野を捕らえることに成功しイヴィンの仕事はひとまず終了する
あとは仲間たちの成功を願うのみだった


一方、戦闘から子供を遠ざけるため避難しているアサミとイチゴの集団は待機していた科学班の人々と合流していた

配送された車に児童を順番に乗せていく

「もう大丈夫だよ」

アサミが幼い子供の頭を撫でると泣きながら車に入っていく
全員を乗せ終わるとアサミ達にも声がかかる

「2人も乗って 本部に戻るよ」

アサミは班員の声掛けを耳にしながらも兄がいる方を眺めていた

「科学班さんごめんなさい!!私!お兄様のところに戻るわ!!」

子供を乗せた車に背を向けて元来た道を走った

「ちょ!アサミちゃん!?」

イチゴもそれの後を追って科学班から離れてしまった

「ちょっと2人ともーー!!」


走り出したアサミは人通りの少ない道から人混みのある街道まで出てくる

周りは、ラバンと匙山の乗ったトラックが店に事故を起こしたことで上がった煙から逃げた人々が集まっており、ラバンとマサルの戦闘を見せないために送られた科学班と仲介班の連中が人の壁を作ってそれより先に行かせないようにしている
しかし、戦場からは500m以上離れておりとても、それを視認できる場所ではない

慌てている人々は、「何があったんだ」「解決はまだか」と様々な声を上げていた
それを消防員を装った仲介班の人々が呼びかけを続けていた

「先程の事故で火災が発生しました!ですので市民の皆様はこれより先は立ち入り禁止となります!」

その集団に紛れ込んだアサミとイチゴは人混みの間をくぐり抜けて先頭へ躍り出ようとしていた

「アサミちゃん!派遣班長に任せとけば大丈夫だよ」

「ちがう!これは私とお兄様の問題!私は足手まといかもしれないけど少なくとも見る権利はある!だから戻る!!」

その目に熱さを魅たイチゴはアサミを引き換えさせるために伸ばした腕を下ろす

「わかった 私も着いて行く」

「いや、イチゴは、、」

「元々これ私とアサミちゃんの任務!最後まで私も巻き込め!!」

頼もしい仲間を持ったと感じたアサミは「わかった」と呟いて、また集団の先頭を目指して人混みを進む
何人もの腕や肘に体をぶつけてようやく先頭まで行くと人壁になっている仲間のひとりが正体に気づく

「君たち…!なんで戻ってきたんだ…!」

「私たちをこの先に行かせてください」

「それはできない!カタギリさんやマサルさんの指示だ」

「見なきゃいけないものがあるんです!」

すると、市民の1人が人壁の向こうの存在に声を上げた

「誰かいるぞ!」

その声で仲介班たちも後ろを振り向く
そこには50代ほどの男性がよろけながら向かってくる姿があった

「た、たすけ、て、、」

今にも倒れそうな男に班員が向かおうとした瞬間、アサミとイチゴが同時に大きな声を上げた

「「匙山!!」」

「……!?」

班員は進むのを辞めると警戒心を催す
アサミとイチゴは前に出て臨戦態勢を取った

「よく派遣班長から逃げられたものね!」

イチゴが明らかな殺意で刃物を握った

目の前にいる匙山は自身の最後を悟る
自分は目の前にいる子供に捕まり、どこかの組織に情報源として扱われるのだと

「そんな人生!!送ってたまるかぁぁあ!」

必死のあがきで取り出した注射器を腕に刺した

「「……!?」」

体内に注入されていく血液と狂っていく匙山の身体を観察する

「ぁぁぁぁぁぁああああああ!!」

叫びをあげる匙山の体は燃えるような痛みに、幻覚のような景色、催す吐き気を同時にその身に喰らう

「俺は!!苗字を貰って!千一家のぉぉぉお!」

野心を叫ぶと注射器を渡された人物の姿が思い出される 紺色のウルフカット 20代ほどの男の声

『お前の野望はいつか叶う
使う時が来たら使え 適合できるかは才覚次第だが、お前の役に立つものだ』

匙山の体は人間の原型を失う
全身が風船のように膨れ上がると浮かび出した血管が弾けて血を吹く

「「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」」

市民たちをみんな大声を上げて逃げ出す
仲介班と科学班もそれを追うように逃げてしまう

そして、人間を押しつぶせるほどに巨大化した手のひらが2人を潰しに振り落とされる

「「……!」」

驚愕のあまり、強ばっていた体が言うことを聞いて回避する

ボフゥンッ!!

地面に叩き落とされた巨大な手のひらは砂煙を上げて視界を塞ぐ

そこにあった大きな手はみるみる小さくなり身体の元へ吸い込まれるようになくなる

「イチゴ!!」

「アサミちゃん!見て!」

砂煙の中にある影が肥大化した風船から人間らしい形に戻っていく
しかし、それは胸部と肩が広くなっており、腕と手は化け物のように尖った肉付き、体長は2.5mほどの人間とは言えない存在だった

その異形な腕で砂煙が払い飛ばされると、そこには全身が黒く頭部のみ匙山の顔がある化け物の姿があった

「なにこれ……」

言葉を失ったは2人は相対した存在に息を飲む

無言で化け物が足を引いた

「……!イチゴ!?」

その瞬間、化け物はイチゴに急接近し、巨大で異形な手でイチゴの小さな体を建物の自動ドアまで払い飛ばした

バリィンッ…!!

商品棚に背中を打ち付けたイチゴは何とか立ち上がるが店内飛び込んできた化け物に追撃を繰り出される

「やっば!!」

直撃寸前に回避し商品陳列の間に逃げ込む
しかし、それも拝まなしに化け物は商品棚を片手で持ち上げると乱雑に投げ飛ばす

「はぁ!?」

埒が明かないと判断したイチゴは店のガラスを割って再び店外へ
それを追うように飛び出た化け物の背後からアサミが拳を背中に打ち付ける

ピクリとも動かないその体躯に驚く

「嘘でしょっ!」

アサミの存在に気づいた化け物が振り返って再び巨大な手で薙ぎ払う
それを化け物の頭上を跳んで回避しイチゴと並ぶ

「アレって匙山であってるのかな」

化け物の正体を掴むためにイチゴはアサミに話しかける

「どっちかって言うと、、」

全くとして喋らず死んだような表情をしている化け物の頭部を見ながらアサミは返す

「"元"匙山って感じ?」

もはや匙山の頭部は飾りに過ぎない程に本人の意思を何一つ感じない化け物

ただ無作法に暴れる化け物を2人は対処しなければならなくなった

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